実は資産運用においても、人気投票の要素があるといわれます。人の非合理的な行動が資産運用に与える影響を考えるマネーハック心理学7回目は、「美人投票としての株式投資」というテーマを取り上げます。
株価の形成は必ずしも合理的ではありません。しかも、自分の好きな推しメンに投票すればいい、という単純なものではなく、みんなが好きな推しメンを想像したり、今後人気が出る推しメンを考えることが必要になってきます。
少し考えてみましょう。■株式投資は美人投票である
株式投資について何冊か書籍で勉強したことがある人は「株式投資は美人投票」という言葉を聞いたことがあるはずです。これは経済学者のケインズが述べた言葉であり、株式投資の基本的な心構えを説明する際によく紹介されています。
企業の株価を構成する要因はいろいろあります。「その企業が実際に保有している資産の価値」「株式の発行状況」「将来の売り上げ予想」「ビジネス環境(成長している業界かどうか)」など、数え上げれば要素は増えるばかりです。
しかし、シンプルに考えてみれば「その会社を買いたいと思う人が多ければ株価は上がり」「その会社を売りたいと思う人が多ければ株価は下がる」ということです。
つまり、誰もが認める美人(業績もよく、経営者も評価され、資産価値も高い企業)の株価は上がり、誰もが認める不美人(業績は低迷、経営者も評価が悪く、借金体質の企業)の株価は下がる、というわけです。
それでは市場に参加する投資家たちが、正確な情報をもとに合理的な判断を下し続けるかというとそうではありません。もしみんなが合理的に行動するなら「みんなが売りに出している株をあえて買う」とか「みんなが買いに来ている株をあえて売る」もないはずです。しかしそういう人が必ず相場には存在します。
100%合理的ではないマーケットで、非合理的な売買が繰り返されるなかで、美人投票のような格好で価格形成が行われていくわけです。
■美人の個人評価と市場評価は異なる同じ世代の人とアイドル論議をすると、「前田敦子か大島優子か」とか「松田聖子派か中森明菜派か」というような衝突が必ず生じます。
松田聖子か中森明菜か、前田か大島か、という順位付けはどれも個人的なものであって、絶対的な比較をするのは実は困難です。人の好みには多様な価値観がありますし、世間の評価があまり高くなくても、個人的に大好き、ということもアイドルではよくあることです。
企業の株価も同じで、ファンもあればアンチもいます。実際にはその強みを失っているのにファンが株価を支えている企業もあれば、本来はもっと実力がありながら過小評価されている企業もあります。
あるいは自分が好みの企業であっても、他の市場参加者はそう捉えないためなかなか株価が上がらないこともあります。客観的に見てもよい企業だと思うのに、株価は上がらないのです。
もしかすると5年後には自分の判断が正しかったということもありますが、少なくとも目の前では株価は上がらない、という現実を受け入れなくてはなりません。
株式投資においては、あなたが考える美人と、あなた以外の人たちが考える美人を考えながら企業を選ばなくてはなりません。
さらに、あなた以外の人たちが考える美人像が、誤っていることすら考えに入れる必要が出てきます。
これが、単に好みのアイドルを推すのと株式投資が異なるところです。
■好みを度外視して大島優子か渡辺麻友か考えようここで工夫をしてみたいのは、「自分の好みの追求」と「みんなの好みの検証」を同時に行うことです。AKBの総選挙は、投票権を取得して投票する方向にしか数字は動きませんし、通常は複数の子に投票することもないでしょう。
しかし、>株式市場では「好きではないけど某社の株を買って儲けてみる」こともアリですし「複数の銘柄を同時に押さえて値動きをみる」のもアリです。
自分の好みの銘柄は長期保有し、そうでない銘柄は短期売買して売り抜けてもいいのです。
このとき、「みんなの好み」を考えつつ、市場の流れを見極めることも投資においては重要です。総選挙で推しメンに入れ込むことは満足度の向上につながりますが、株式市場で特定の企業に入れ込むことはときに市場の美人投票から外れてしまい、資産価値の下落につながりかねないからです。投資においては過剰な「推し」は損のもとです。
好きな会社について長い目でみてずっと投資をするのもかまいません。将来しっかり世の中の評価が追いつけば、安値で優良な企業に投資したことになるからです。しかし、世の中の評価があまりにも自分の評価とかけ離れている可能性についてはしっかり見極めていくことが大切です。
冒頭に渡辺麻友を推す、と述べた筆者は、大島優子に対して個人的に魅力を感じません。しかし、大島優子が多くのファンを引きつけることはよく分かります。それは渡辺麻友が好きなこととは同次元で理解することが可能です。株もそんな感じでつきあっていくことが重要です。
Appleはまだ上がる、SONYは今が底で反転上昇すると考える、パナソニックを今手放すのはもったいない、(あるいは今考えてみた発想を逆にしたらどうか)など、考えるときに、「自分の目から見た美人投票」と「他人の目から見た美人投票」のふたつを気にしていくと投資をする「目」が磨かれていくことでしょう。
■人の判断は必ずしも合理的でないところで、人気投票で株価が形成されるということは、「みんなが支持するタイミング」から早すぎても遅すぎてもうまくいきません。マーケットではよく「トレンド」といいますが、投資家全体の流れが投資のポイントのひとつとなります。
また、「みんなが勘違い」している可能性もあります。バブルの頃の価格形成などはこの好例で、ある時代の熱狂は時間が空いた別の時代からすると愚かな行動だと分かります。しかし当事者はその異常さに気がつきません。冷めた目で美人投票に参戦するアタマも必要です。
「好みの変化」に追いつく努力も必要です。平安時代の美人の基準は丸顔に細目だったそうですが、現代の好みとは大きく違います。時代によって美人投票の基準も変わってきます。長く投資を続ける人は、大衆の好みの変化を追い続けるようなセンスも問われるというわけです。
美人投票の失敗例としては「身近な美人だけ見てしまう」パターンがあります。よく初心者向けの投資本には「自分が日頃購入しているお気に入りのメーカーの株を買ってみる」というものがあります。一見すると「自分が試した新商品がいい会社=美人」というイメージですからうまいやり方のように思えますが「出会ったことがない美人」がたくさんいる可能性を忘れています。なじみの数十社だけで美人を分かったつもりにならないことが大切です。
今回は美人投票としての投資のポイントを紹介してみました。「株式投資が美人投票のようなもの」と思うと、堅苦しいようなイメージのある資産運用も親しみのあるものに感じられませんか? 興味をもったらぜひ、あなたも資産運用という「美人投票」の世界に参戦してみませんか。
(山崎俊輔)
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