お金も時間も有限なもの。だからこそ、いかに効率的に使うか? が重要です。では、ヒトがある対象を知覚し、それが何であるかを判断したり、理解したりするプロセス認知」も有限だということをご存知でしょうか?

 ライター兼ストラテジストのSebastian Marshall氏は、できるだけこのパワーを温存しつつ、より多くのことを成し遂げるための前提として、「認知コスト」を詳しく解説。何かをやろうとするときの精神的な負担は一体何なのか? そもそもコストってどういうこと? 何かやろうとするときに支払うべき代償とは? といった疑問について、カバーしています。

Marshall氏は、「認知コスト」を次の7つに分類しています。

1. 活性化エネルギー(Activation Energy)

活動をスタートさせるとき、より多くの意志力やエネルギーを費やします。必要な活性化エネルギーは時が経つにつれて調整され、ルーチン化すれば必要なエネルギーも低下します。次のステップがきちんと定義されていないことだと、スタートさせるのに必要な活性化エネルギーは増加します。これが、ヒトが何か始めるようとすることを阻む、主たる障害となっているのです。


2. 機会費用

一般的な「機会費用」という言葉には、なじみがあるでしょう。何かひとつのことをすれば、他のことはできません。時間は有限です。これと同様に、「認知コスト」にも限りがあります。この点については、心理学者のバリー・シュワルツ(Barry Schwartz)教授著『なぜ選ぶたびに後悔するのか―「選択の自由」の落とし穴(The Paradox of Choice: Why More Is Less)』で詳しく述べられています。

中国春秋時代の軍事思想家、孫武は、「窮寇は追うなかれ」と説いています。敵には必ず一方を空けて逃げ道を作るべきであり、窮する敵を更に追いつめるようなことはしてはいけないという意味。なぜなら、敵を追い詰めてしまうと、選択の余地がなくなる、すなわち、相手にとって機会費用がゼロになるからです。スペインの探検家、エルナン・コルテス(Hernan Cortes)は、自分の背後のボートを燃やしたことで有名です。何かするとき、ヒトの意識は別のことに悩まされがち。これこそ、明らかな「コスト」です。


3. 惰性

Eliezer Yudkowskoy氏は、「ヒトは適応を実行する生き物であって、健康を最大化しようとするものではない(リンク英文)」と指摘。彼は、スケールの大きい革命に関してこう述べているのですが、私たちの日常でも同じことがいえます。ヒトは、いったん適応してルーチン化すると、これを続けようとするもの。よほどの出来事が起こらない限り、このルーチンをやめることはなかなかありません。外界からの刺激なく、自分できちんと調べて物事を変える人は、ほとんどいないでしょう。

この惰性を断ち切るにはかなりのエネルギーが必要で、心地よいものではありません。たいていの場合、もっと他の心地悪いものがあってはじめてできることです。


4. 自我消耗

最近の研究によると、明らかに意志力を費やすことを行うと、意志力の「充電」が切れ、高い意志を要する別のタスクをやるのが難しくなるそうです。Wikipediaの「ego depletion」(英文)には、「自我消耗に関する実験で、「芸人を観ている間、笑ってはいけない」と自分を制御させられた被験者は、そうしなかった人に比べ、自制心が必要となるその後のタスクを上手くこなせなかった」と記されています。このパターンは確立されたもので、たとえば、食べたいスナック菓子をこらえた人は、その後、暗記に集中して、それを繰り返すことが難しくなるそうです。


5. 神経症・不安など

ほとんどの人は、利益を得てやろうという気持ちよりも、リスクを嫌う気持ちが上回るもの。とくに、社会的に決まりの悪くなるリスクがあることに対しては、とても不安になりがちです。ライターのMarshall氏にもそういった実体験が...。自分の書いた記事に対する読者からのネガティブな反応があるたびに、ものを書くことがかなりハードになったとか。批判を受けるかもしれないと、悪い面ばかりに気をとられ、書くことを恐れるようになったそうです。

タスクの中には、神経質にさせがちなものもあります。じっくり考えてやり始めるとき、ヒトは神経質になります。批判を招きかねないものや、リスクを拒絶するようなものには、こういう気持ちが起こりやすいそう。また、自己イメージを傷つけるリスクがあることにも、ヒトは神経質になりがちです。


6. ホルモンバランスの変化

多くの活動によって、ヒトのホルモンバランスはよくも悪くも変化します。たとえば、対立するような状況になると、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンが増加し、その後に倒れてしまうのです。ヒトは基本的に生化学なもの。ホルモンバランスの著しい変化は、免疫システムや呼吸、消化など、身体の多くに影響します。多くの人々は、頭の片隅でこの手のことに気づいているでしょうが、活動に伴うホルモン変化のコストについては、あまり議論されてはいません。


7. 何度も頭を悩ませる考えからの維持コスト

過小評価されている「認知コスト」として、ある考えが繰り返し思い浮び、頭を占める...という維持コストがあります。とくに、全体のサイクルが完了していないとき、このコストが発生しがちです。たいていの場合、こういった考えは都合の悪いタイミングで現れ、思考とエネルギーを消費します

非常に心地よいトピックならいいのですが、そうでなければ消耗させられることもあります。たとえば、税申告をやっていないと、度々そのことが頭の中をよぎり、思考を脱線させるといった具合です。また、プロジェクトや取り組み、ビジネス、変化といったものから、維持コストが発生することもあります。活動を完了させれば、このコストは軽減可能です。


これらの「認知コスト」は、普段あまり意識していないものも多いですが、アタマもココロもカラダも、知らず知らずのうちに「コスト高」になってしまっているかも...。お金や時間と同じく、「認知コスト」も最適化し、仕事やプライベートをより充実させていきましょう。

Sebastian Marshall(原文/訳:松岡由希子)