連分数と楕円積分
――連分数と楕円積分から整数論の扉を開く――
実数を連分数を用いて表すと、隠れていた性質が明らかになることがある。その背景には、整数論に由来する深い事実が隠されている。とくにπ/4の連分数表示はガウスにより発見され、その証明に超幾何関数が用いられた。
一方、楕円の周の長さを初等関数で求めることはできないが超幾何関数で表すことができ、その値は算術幾何平均となる。さらに、算術幾何平均はテータ関数を用いて表すことができるので、楕円の長さを通じて超幾何関数とテータ関数が関係する。これは、周期積分を仲立ちにして、超幾何関数とテータ関数が結びつく深い数学的な事実の一例となっている。
本書では、連分数と算術幾何平均をとおして、現代の数学で重要な役割を果たす超幾何関数とテータ関数を解説する。
〔予備知識〕 微積分・線形代数
複素関数と有限体に関する知識があればより読みやすいが、必要な知識は巻末の付録にまとめた。
〔本書の特長〕
- 計算過程を丁寧に記述し、初学者が一人でも読み進めやすいよう配慮した。
- 超幾何関数の変換公式をべき級数を用いて証明した。技巧を要する積分の変数変換を用いないため、計算が追いやすくなった。
- やや発展的な話題として、有限体上で定義された超幾何関数を取り上げた。指標を導入することで、標数pの体を定義域とし、標数0の体を値域とする超幾何関数についても紹介した。
1.1 黄金数とFibonacci数列
1.1.1 連分数
1.1.2 黄金数とFibonacci数列
1.2 連分数と漸化式
1.3 連分数の表し方
1.4 連分数の評価
1.5 巡回する連分数
1.5.1 巡回する連分数
1.5.2 純巡回する連分数
1.6 Pell方程式
1.6.1 D=7のときの考察
1.6.2 Pell方程式の解法
1.6.3 方程式x2−Dy2=1の整数解を構成する方法
1.7 代数的整数とPell方程式
第2章 関数の連分数
2.1 複素数の連分数
2.2 変数を含んだ連分数
2.3 連分数の極限として現れる正則関数
2.3.1 変数を含む連分数の収束
2.3.2 べき級数としての収束
2.3.3 閉区間[0, 1]での収束
第3章 連分数と超幾何級数
3.1 超幾何級数
3.2 超幾何級数の例
3.3 隣接関係式
3.4 超幾何級数から得られる連分数
3.5 x=1での値
第4章 超幾何微分方程式とEulerによる積分表示
4.1 超幾何微分方程式
4.2 ガンマ関数とベータ関数
4.3 超幾何級数の積分表示
4.4 超幾何関数で表される関数
4.5 超幾何関数の特殊値
第5章 Riemannゼータ関数の特殊値
第6章 楕円積分と算術幾何平均
6.1 楕円積分
6.2 算術幾何平均
6.3 超幾何関数とLanden変換
6.4 Gaussの公式
第7章 テータ関数
7.1 テータ関数と算術幾何平均
7.2 Jacobiの3重積公式
7.3 テータ関数,算術幾何平均,超幾何関数
7.4 Poissonの和公式
7.5 テータ関数の関数等式
第8章 有限体上で定義された超幾何関数
8.1 Hasse多項式(𝔽p上で定義された𝔽pに値をもつ超幾何関数)
8.2 指標と2項係数
8.2.1 有限体上のFourier解析
8.2.2 Gauss和とJacobi和
8.2.3 2項係数
8.3 楕円曲線の有理点の個数と超幾何関数
8.3.1 Hasse不変量
8.3.2 井草の定理
付録A 有限体の基礎事実
A.1 可換群からの準備
A.2 Frobeniusの定理
付録B 複素関数論の基礎知識
B.1 複素解析関数
B.2 Cauchyの積分定理
B.3 Moreraの定理