マルチンゲール
―測度論の概観からスパース推定の基礎まで―
統計学は学際的な学問分野であり、中でも確率論とつながる側面ももっている。統計理論の発展のために、確率論をはじめとする数学のさまざまな分野から新技術が導入されることが重大な契機となったことはこれまでにもしばしばあった。そしてマルチンゲールは、確率論の中の最重要テーマのひとつである。それが統計学に大きく貢献した例は、生存解析における計数過程アプローチや、数理ファイナンスにおける拡散過程に基づくモデリングなど、枚挙にいとまがない。
本書では、マルチンゲールに関する二つのテーマを扱う。
一つ目として、マルチンゲールの基本事項をまとめつつ、マルチンゲール収束定理の証明を、J.L. Doobによるオリジナルなアプローチとは異なる方法で解説している。まず第2章でいくぶん推理小説風に問題提起し、新鮮味のある軽快な謎解き風の記述を経て、第4章ですべての謎に対する明快な解答を与えている。多くの初学者にとって、本腰を入れてマルチンゲールの研究を始めていただく契機となることを願って本書を執筆している。
二つ目のテーマとして、「確率的最大不等式」という新しいツールを第5章で紹介し、それを第6章でスパース推定に応用している。本書の出版により、高次元統計学にあたらしい風を吹き込み、同分野にあたらしい研究者をいざなうことができれば、筆者としては至高の喜びである。
本書は読者がルベーグ積分論をひととおり勉強されたことを想定しているが、実際にはむしろ「勉強したことはあるのだが、砂を嚙むようでわからなかった」という方々を読者として歓迎するため、測度論の概観を付録に記載している。
内容の理解度を確認できるようにいくつかの演習問題および解答例も掲載している。
1.1 確率変数の族の可積分性
1.2 「条件付き期待値」の理解へ向けて
1.3 確率的収束理論の抜粋
1.3.1 事象や確率変数の単調列についての注意
1.3.2 各種の確率的収束の関係についての注意
第2章 マルチンゲールのプロローグ
2.1 マルチンゲールの定義と例
2.2 「基本マルチンゲール」と目標の提起
第3章 マルチンゲールの基本
3.1 ψ(M)は劣マルチンゲール
3.2 ドゥーブの不等式
3.3 ドゥーブ分解
3.4 停止時刻
3.5 任意抽出定理
3.6 「いつ止めても公平な賭け」の真意
3.7 Mτはマルチンゲール
第4章 マルチンゲール収束定理
4.1 クリックベルグ分解
4.2 非負優マルチンゲールの収束
4.3 L1-有界劣マルチンゲールの収束
4.4 一様可積分マルチンゲールの収束
第5章 マルチンゲールを用いた進んだ研究のために
5.1 ドット過程とマルチンゲール変換
5.2 二次変分と可予測二次変分
5.3 マルチンゲールに関するよく知られた定理
5.3.1 バークホルダーの不等式
5.3.2 レングラールの不等式とその系
5.3.3 ベルンシュタインの不等式
5.3.4 マルチンゲール中心極限定理
5.4 確率的最大不等式とその系
第6章 高次元スパース推定への応用例
6.1 問題設定と準備
6.2 ダンツィヒ・セレクタ
6.3 LASSO
付録:ルベーグ積分を学ぶ前に読んでください
演習問題への解答例
参考文献
索 引
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