寄生虫進化生態学
国内外問わずこれまで多くの教科書が寄生虫のネガティブな側面に目を向け、宿主に与える影響やその制圧・制御にページを割いてきたが、本書では寄生虫を生態系の一員として見つめ直し、一貫して生き物としての純粋な興味・関心について丁寧に説明を重ねている。本書を読むことにより、寄生現象を個体レベルから群集レベルに至るまで階層的に深く理解できる。終章においては将来的な気候変動や防除に対する示唆に富んだ応用的指針ももたらしている。本書が提示する課題は日本の関連分野においても挑むべき内容であり、将来的な発展に貢献するであろう。
[原著:Evolutionary Ecology of Parasites: Second Edition、 Princeton University Press、 2007]
1.1 進化生態学的アプローチについて
1.2 本書で扱う範囲と概要
第2章 寄生の起源と生活環の進化
2.1 寄生生活への移行
2.2 寄生への特殊化
2.3 複雑な生活環:歴史的偶然か,適応的産物か?
2.3.1 生活環の複雑化
2.3.2 生活環の省略
2.4 複雑な生活環がもたらす進化的帰結
2.4.1 宿主への伝播と感染
2.4.2 有性生殖
2.5 結論
第3章 宿主特異性
3.1 宿主特異性の定量化
3.2 宿主-寄生虫の共進化と宿主特異性
3.2.1 大進化パターン
3.2.2 小進化プロセス
3.3 宿主特異性の決定要因
3.4 宿主特異性に見られるパターン
3.5 結論
第4章 生活史戦略の進化
4.1 表現型可塑性と適応
4.2 寄生虫の体サイズ
4.2.1 寄生生活に伴う体サイズ変化
4.2.2 体サイズと関連する形質
4.2.3 体サイズの性的二型
4.3 成熟年齢
4.4 卵生産
4.4.1 卵数をとりまく相関
4.4.2 卵生産のトレードオフと戦略
4.5 結論
第5章 宿主利用戦略
5.1 病原性の進化
5.1.1 理論
5.1.2 実証例
5.2 宿主の去勢と巨大化
5.3 宿主の行動操作
5.3.1 宿主操作は適応的な産物か?
5.3.2 宿主操作の進化
5.3.3 複数種が関与する宿主操作
5.4 宿主性比の操作
5.5 結論
第6章 寄生虫の分布様式:原因と結果
6.1 集中分布の定量化
6.1.1 集中の尺度
6.1.2 集中を定量化する際の問題
6.2 自然下における集中のパターン
6.3 集中の原因
6.4 集中の結果
6.4.1 有効集団サイズと遺伝的多様性
6.4.2 性比
6.4.3 大進化的事象
6.5 結論
第7章 個体群動態と集団遺伝
7.1 個体群動態モデル
7.2 密度依存的調節
7.3 個体群の研究事例
7.3.1 条虫 Bothriocephalus acheilognathi(Schyzocotyle acheilognathi)
7.3.2 線虫 Cystidicola cristivomeri
7.3.3 線虫 Cystidicoloides tenuissima(Salmonema ephemeridarum)
7.3.4 鉤頭虫 Acanthocephalus tumescens
7.4 個体群サイズのパターン
7.5 個体群の遺伝的構造
7.6 結論
第8章 種間関係と寄生虫のニッチ
8.1 競争における数的応答
8.2 寄生虫のニッチ
8.3 競争に対する機能的応答
8.4 進化的なニッチ制限
8.5 結論
第9章 宿主個体内群集の構造
9.1 宿主個体内群集における種の豊富さ
9.2 宿主個体内群集における入れ子構造
9.3 宿主個体内群集で見られる種間関係
9.4 種の加入と宿主個体内群集の構造
9.5 宿主個体内群集における個体数とバイオマス
9.6 結論
第10章 宿主個体群内群集および寄生虫相
10.1 宿主個体群内群集における種の豊富さと組成
10.2 寄生虫相の進化
10.3 寄生虫相における種の豊富さ
10.4 寄生虫多様性の生物地理
10.5 宿主特異性と寄生虫相の種組成
10.6 結論
第11章 総論
11.1 環境変化と寄生虫の進化生態学
11.2 寄生虫の防除と進化生態学
11.3 将来的な指針
引用文献
訳者あとがき
索引
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