ファンカルチャーのデザイン
―彼女らはいかに学び,創り,「推す」のか―
彼女らの環世界にはまり、一緒に遊んでみた結果、意外にも、共愉、創造、デザイン、共創、利他、遊びといった、90年代以降の認知科学、特に状況的学習論が関心を寄せてきたテーマのヒントを垣間見ることとなりました。
腐女子やコスプレイヤーといった人びとの「愉しみ」は、もちろんそれ自体としても重要です。ただしその愉しみは、単に快楽として消費されるだけのものではありません。(自覚的か無自覚的かにかかわらず、)時に全人格的変容としての学習、創造的交歓、デザインの民主化といった、「目の前の生活の濃度を高める活動」へと接続していきます。
彼女らは、本書の中で、学びと遊びを暗黒面から自らの手に取り戻す「民衆による自律的な探究行動」を柔軟かつ鮮やかに示してくれます。彼女らの住まうこの世界の片隅の物語を読み進めることで、気がついたらあなたも一風変わった認知科学の沼にたどり着くことになるかもしれません。
注目のクリエイター、カナイガさんによって描かれた、クスッと笑えて肩の力が抜けるようなイラストもあわせてお楽しみください。
1.1 日常のフィールド認知科学へ
認知とコンテクスト/人類学と状況論/「求められていないのにはまる人たち」のフィールドワーク
1.2 他者の合理性の理解
受動的にフィールドに参与する/ハマータウンの野郎ども
1.3 「まっとう」な女の子
アイデンティティの不可視化/隠蔽を洩らす歓び
1.4 アイデンティティ・ゲーム
腐女子のアイデンティティ/状況と状態から見る正統的周辺参加論/なるべき姿の曖昧さ
第2章 密猟と共創 ―面白さへと向かう回路
2.1 テクスト密猟者
ココさん/ココさんの解釈/解釈の共同体
2.2 それぞれの密猟が混ざり合う
デザインド・リアリティ/やたらメタに読む/自分なりの愉しみをみつける
第3章 学びと遊び ―生活の濃度を高める
3.1 知覚の文化性
プールは泳ぐためにあるんじゃない/都市空間のハッキング/コスプレイヤーの環世界
3.2 頭ひとつ分背伸び
一緒だとできること/プレイフル・ラーニング/コスプレの舞台/解釈と模倣/線型的な時間から円環的な時間へ
第4章 弥縫と創造 ―はまっている人たちの巧みさ
4.1 なんとか取り繕う
弥縫/アフターで弥縫を語る/ウジャンジャ
4.2 アマチュアだからなせる技
ノービスとエキスパート/最高速度と最適速度
4.3 家の中の認知科学
マルコヴィッチの穴/家の中の時間/弥縫の生じるコンテクスト
第5章 ギブとゲット ―アフィニティ・ベースの利他
5.1 高いから創る
共愉的な集まりの構造/循環するギブ
5.2 ギブとゲットのフィールドワーク
「ギブのゲット」というギブ/「いること」とギブすること/ギブを受け取るフィールドワーク/ギブに身を委ねる
第6章 変換と交歓 ―日常に埋め込まれた市井のデザイン
6.1 デザインすること
道具の再発見/対象に異なる秩序を与える
6.2 デザインと負い目感情
負い目感情/新たな活動の生成
6.3 創造的交歓
発達する活動/交換から交歓へ
第7章 プランと即興 ―愉しみをつくる身体
7.1 相互行為としてのポージング
プリクラブースの身体/身体への注意の解像度/「見えてはいるけれど,気づいていない」こと/アンノウン・コミュニケーション
7.2 同期と非同期
能動的な消費/推しへの感情の同期/推し不在時の同期/ファンどうしがつながる意味
第8章 興味と学習 ―コントロールを手放す
8.1 興味に衝き動かされた活動
操作的な道具/共愉的な道具/学校化と学ぶ自律性/つながりの学習/ハリー・ポッター・アライアンス
8.2 共愉的な身体をつくる
浮遊する活動/はまっている人たちの学習
引用文献
あとがき
索引
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