社会保障と税の一体改革ここが論点

公明新聞:2012年6月10日(日)付

国会審議で明らかになった課題

衆院特別委員会で行われている、年金や子育て支援策、消費増税を柱とする政府提出の社会保障と税の一体改革関連法案の論戦が大詰めを迎えています。これまで公明党は、同関連法案に盛り込まれた新制度や改善策の問題点などについて厳しく指摘してきました。国会審議における論点について解説します。

消費増税先行なら反対
公明党の基本姿勢

少子高齢化が進み、社会保障を支える現役世代が減少している中でも、社会保障制度を持続可能なものにし、充実させていかなくてはなりません。

公明党は、そのための財源を確保するため、消費税を含む税制抜本改革は必要と考えています。ただ、今の政府の対応には問題が多く、国民の理解も得られていません。

公明党は消費増税の前提条件として、(1)社会保障制度の全体像を示す(2)景気回復の実現(3)行政改革の徹底(4)消費税の使途を社会保障に限定(5)税制全体で社会保障の財源を生み出す—の五つを主張してきました。

消費税の使途を社会保障に限定することは法案で明記されたものの、そのほかの条件は満たされていません。

はっきりしているのは、消費税率の引き上げだけです。肝心の社会保障の全体像はいまだ示されず、景気回復や行政改革への取り組みも不十分です。一体改革とは名ばかりの「増税先行改革」です。

公明党は国会審議を通し、こうした問題点を追及してきましたが、政府側から前向きな答えや方向性が十分に出されず、議論は深まっていません。

公明党は社会保障を置き去りにして、消費増税だけを決めることには反対です。

法案をめぐる民主、自民、公明3党による修正協議では、こうした公明党の考え方を主張し、その実現を求めていく方針です。

現行制度は安定している。抜本改革の看板下ろすべき
年金


【抜本改革】民主党は野党時代から、現行の年金制度は破綻していると国民の不安を煽り、抜本改革を主張してきました。ところが民主党政権が提出した年金関連法案は、現行制度の維持・強化を図るものばかりです。このこと自体、民主党の「抜本改革」は実現不可能であったことを自ら認めたも同然です。

国会質疑で公明議員がこの点を厳しく追及したのに対し、野田首相は自公政権が2004年に断行した年金改革を「正当に評価しなければならない」と表明。年金財政も「給付と負担の均衡が図られている」と述べ、現行制度の安定性を認めました。それならば最低保障年金などの「抜本改革」の看板は速やかに下ろすべきです。

【機能強化】政府は低年金者への対策として、基礎年金に月額6000円を加算する法案を提出しています。公明党も最低保障機能の強化は重要だと考えますが、政府案の額の根拠はあいまいです。また、25年間きちんと保険料を納めてきた人との不公平が生じたり、保険料の納付意欲を阻害しないよう、公平性を確保すべきだと訴えています。

【制度改革を遅らせた】政府は厚生、共済年金の一元化や、短時間労働者にも厚生年金を適用する法案も提出しています。しかし、これらは自公政権時代(07年)にも提出され、野党・民主党の強硬な反対で廃案に追い込まれた経緯があります。

例えば厚生、共済年金の一元化は民主党の反対がなければ10年4月から実施され、年金の官民格差は是正できていたはずです。この一点をみても、年金制度改革を政局に絡めて遅らせた民主党の責任は、極めて重いと言わざるを得ません。

これらの追及に小宮山洋子厚労相は、「自覚が足りなかった。反省してお詫びする」と陳謝しました。ところが野田首相は、このことで社会保障に「空白が生じたり、後退が出たりしたことはない」と開き直っています。

<民主党政権の対応> 
1.新たな年金制度の創設
  ・最低保障年金の創設
  ・全ての年金制度の一元化
  →2013年に法案提出?
2.現行制度の改善
◆年金機能強化法案を提出
  ・低所得者への年金加算
  ・受給資格期間の短縮など
◆被用者年金一元化法案を提出

デフレ脱却への戦略なし。低所得者対策もあいまい
消費税


【デフレ脱却】消費増税は景気回復が前提でなければなりませんが、日本経済は長引くデフレ(物価下落が続く状態)から脱却できず、株価などは低迷、欧州の信用不安などで先行きも不透明です。

国会審議で公明党は、デフレ脱却が急務であるにもかかわらず、民主党政権にはデフレ脱却のための「成長戦略がない」と厳しく批判。この状況が続く限り「(消費増税が)経済をさらに腰折れさせていくのは間違いない」と指摘しました。

また、消費増税法案に「名目3%、実質2%程度」の経済成長をめざすと明記されている点についても言及。これが増税の条件になるのかただしましたが、安住淳財務相は「前提条件として規定しているものではない」と述べ、努力目標にすぎないことを明言しました。

【低所得者対策】消費税は、低所得者ほど負担感が重くなる逆進性の問題を抱えています。政府は「簡素な給付措置」や減税と給付を組み合わせた「給付つき税額控除」で対応する方針ですが、詳細はあいまいなままです。これに対し、公明党は「政府・与党の怠慢としか言いようがない」と、その対応の鈍さを批判しました。

【行政改革】民主党は2009年衆院選マニフェスト(政権公約)でムダ削減などにより16.8兆円の財源をねん出すると豪語していましたが、結局は看板倒れとなりました。この点について公明党が「結果的に国民をだました」と糾弾したのに対し、野田佳彦首相は「見通しの甘さについて率直にお詫びしたい」と陳謝しました。

このほか、公明党議員の質問で民主党政権の天下り対策が不十分な現状や、予算が“水膨れ”した実態なども明らかになりました。

総合こども園に不安の声。待機児童の解消期待できず
子育て


【新システム】幼保一体化に向け政府が創設をめざす「総合こども園」(幼稚園と保育所の機能を持つ施設)には、3歳未満児の受け入れを義務付けていません。このため公明党は「待機児童の8割が3歳未満である現状を考えると、待機児童の解消は期待できない」と指摘しています。

【不安の声も】政府が掲げる新制度では、これまで市町村に課せられた保育の実施義務がなくなるため、利用者は、市町村から保育の必要性の認定を受けて自ら受け入れてくれる施設を探さなければなりません。

このため「産後間もない時から保育所を探さなければいけないのか」「障がいのある子どもが必要なケアを受けられる施設に本当に入れるのか」など不安の声が上がっています。これを踏まえ公明党は「市町村の実施義務は外すべきではない」と主張しています。

これに対し政府は、「保護者が走り回らなくてもいいよう情報提供し、必要な場合はあっせんもする」(小宮山少子化担当相)としていますが、混乱は必至です。

【複雑な制度設計】新制度からの移行期には総合こども園のほか、幼稚園、0~2歳児の乳児保育所などさまざまな施設が併存することになります。所管も総合こども園は内閣府、幼稚園は文部科学省、保育所は厚労省と分かれます。

また、教育と保育を一体的に提供する施設として既に認定こども園があり、公明党は「複雑で分かりづらい制度設計の新法をつくる必要は全くない」とし、現行制度を改善すべきと訴えています。

さらに、この新制度導入に必要な1兆円の財源のうち、7000億円は消費増税分からねん出するとしていますが、残りの3000億円は担保されていません。ところが野田首相は「最大限努力する」とあいまいな答弁にとどまっています。財源がなければまさしく“絵に描いた餅”になりかねません。

待機児童の解消期待できず
後期高齢者制度で政府と民主党に食い違い


今後の高齢化の進展を考えるとき、社会保障の中で最も財源が必要になるのは医療分野です。ところが政府が掲げる「社会保障と税の一体改革」には、医療分野の改革が欠落しています。「医療」の方向性を抜きにした一体改革などあり得ません。

民主党は野党時代、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の廃止を主張していましたが、一体改革関連法案には同制度の廃止法案は含まれていません。政府は現行制度を前提に微修正する法案を今国会に提出するとしていましたが、これには政府を支えるはずの民主党が反発。現行制度を廃止する改革案を決定し、政府に法案提出を迫っており、高齢者医療制度をめぐり政府と民主党の考えが食い違っています。

しかし、現行制度の廃止は自治体関係者の理解を得られておらず、提出の見通しは立っていません。

公明新聞のお申し込み

公明新聞は、激しく移り変わる社会・政治の動きを的確にとらえ、読者の目線でわかりやすく伝えてまいります。

新聞の定期購読