2017年3月5日日曜日

日本文化の特殊性より、二次元エロとリアルエロの違いに着目を

日本の性暴力や性的搾取の問題に関する海外報道においては、マンガやアニメ等の性表現が取り沙汰されて、内外における表現規制強化の動きに利用されることがあります。この問題について、ヨーロッパにおける日本コンテンツの受容やファンダムの動向に詳しい ネラ・ノッパ博士(ルーベン大学) からお話をうかがいました。



日本の「二次元エロ」を扱った欧米の報道については、「二次元エロとリアルエロの関係を理解したくなければ話になりません」以上は、なかなか言えないと思います。

「メディアと現実は無関係」とはもちろん言えませんが、「メディアで描かれる犯罪行為が直接実際の犯罪行為を起こす」という考え方はおかしいです。
「窃盗罪の元にあるのは、ルパン三世やオーシャンズ11みたいなストーリーだ」と言うと、誰でも「あれ?そんなことないよ」とすぐ分かってくれます。
しかし、「性犯罪の元にあるのはエロマンガだ」と言うと、誰でも「うんうんなるほど」と一瞬も考えずに受け入れてしまうんですね。性犯罪だけが特別です。性犯罪の場合、「二次元エロとリアルエロには直接の関係がある」と信じている人が非常に多いです。

そういった意識が根強いのが、一番重要な問題だと思います。反論の中でもそれを強調すべきだと思われます。

BBCドキュメンタリーで見せられるエロマンガやJKビジネスそのものについてディスカッションをしようとしても、すぐに負けてしまうと思います。
相手が日本のことをあまり知らない人だと、エロマンガやJKビジネスはどうしても説明の難しいものなんです。(もちろんエロマンガとJKビジネスは、全然違う問題です。私自身、エロマンガは基本的に好きですけど、JKビジネスとか実際の未成年が巻き込まれることは全く別だと思います。しかし、このようなドキュメンタリーを見る人たちは、必ずエロマンガとJKビジネスを一緒にしてしまうんです。)

他の問題もあります。
欧米のジャーナリストは昔から「Look at this weird Japanese thing!」というストーリーが好きで、今回のドキュメンタリーもそうです。
日本のことを全く理解していない欧米のジャーナリストが成田空港まで飛び、すぐ近くにある東京都で適当に取材をしてしまうのを見ると、欧米人として恥ずかしいです。
しかし、この問題を反論の中で取り上げると、逆に抵抗が強くなる恐れがあると思います。
「このジャーナリストは日本のことを全く知らないのに」と言うと、「未成年の虐待は日本文化だから」と釈明しているように聞こえてしまう可能性が高いからです。

人々が、「二次元エロ」と「リアルエロ」の関係を理解していないのは、基本的に日本文化とは関係ない問題です。
このドキュメンタリーで問題とすべき点は、「日本」や「日本文化」や「日本の法律」ではないんです。
問題はジャーナリストが「二次元エロ」と「リアルエロ」の関係を理解していないことです。

難しいとは思いますが、私の個人的な意見としては、もし反論するなら、個別のドキュメンタリーの内容よりも、「二次元エロ」と「リアルエロ」の関係についての根本的な誤解を強調した方が効果的であると思います。
できることなら、ディスカッションのトピックを、「日本」から「ジャーナリストの誤解」に変更したいですね。日本についての誤解じゃなくて、二次元エロとリアルエロの関係についての誤解ですね。それが可能かどうかは分かりませんが。


ネラ・ノッパ
 翻訳者・研究者。日本と欧米の同人文化の比較研究が専門。ベルギー人。
(2017年3月5日)