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対談
「高速炉開発を語る」
第3回

再生可能エネルギーや水素、アンモニアといった新エネルギーの導入が進められるなか、高速炉が果たすべき役割とは何か?その答えを求めて、小林 良和 日本エネルギー経済研究所研究戦略ユニット担任補佐と大島 宏之 エネルギー研究開発領域長にエネルギーをめぐる現状について、語っていただきました。

小林良和

小林 良和

日本エネルギー経済研究所
研究戦略ユニット担任補佐

迫るエネルギー危機の気配

小林:ここ数年、エネルギーについては、気候変動への対策に関心が集まっていましたが、今後はエネルギー安全保障を確保するという目的のもと、既に採用されている政策を見直して実施していくことが重要になると思います。ロシアによるウクライナ侵攻があり、ヨーロッパではロシア産の天然ガスにかわってLNGを利用することにしましたが、これにより、液化天然ガス(以下、LNG)の価格が上昇しました。日本でもLNGの平均輸入価格が上昇するという影響を受けました。また、一部の国ではロシアからの天然ガスの供給が停止されました。この時代においても、価格高騰とともに供給途絶が起こり得るということに、世界中が気づいたと思います。また、国内に目を向けると、首都圏では、2022年3月に電力需給ひっ迫するという状況に陥りました。これには、天候要因や季節外れの寒波が襲来したということもありますが、脱炭素化の進展に伴い既存の火力発電所の休廃止が相次いだことなどが遠因となって、供給量の不足分をタイムリーに代替できる供給余力が低下していたということが挙げられると思います。二酸化炭素を排出しない電気自動車(以下、EV)の導入が推進されていますが、EVの製造に必要なレアアースは中国で生産されており、世界シェアで1位を占めているため、仮にその供給が途絶することになると、日本のEV産業に対する影響は小さくないと思います。米中対立が激しくなっていることもあり、エネルギーに端を発する問題は、グローバルサプライチェーンの再構築といった経済安全保障からみた対策を講じることも必要になるでしょう。

大島:私も同じ認識を持っています。もうひとつ、これまで電力需要については、人口が減少し、節電が進むという前提で考えられてきましたが、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいくと、情報通信関連機器の電力消費も増加するため、需要は増えると思います。こうした需要の伸びに、対応していかなければなりません。

小林:データセンターの建設が相次ぐ千葉県印西市の辺りでは、実際に電力需要が増えており、送電網の整備が大きな課題になっていますね。北海道や九州に半導体工場やデータセンターが建設されるとのことですが、こういう施設では品質が高くて、安定的かつ大量の電力が必要になります。特に、これらの施設に投資しているのが欧米などの海外企業の場合は、脱炭素電源が求められる可能性がでてきます。

原子力の優位性

大島:電力を安く、オンデマンドで安定供給できる技術として実績があるのは、原子力です。軽水炉は高度経済成長期を支えてきました。また、米国ではデータセンター向け民間企業が、大型原子炉1基分の電力をまるごと買い取る契約を結ぶところも出てきています。太陽光や風力のような再生可能エネルギーは、季節や時間などによる変動を補うために、蓄電池あるいは原子力を用いるという工夫が必要になります。

小林:蓄電池をつくるにはリチウムのような鉱物が必要になりますが、日本は中国からの輸入に頼っています。「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」1)では、電源構成のうち太陽光と風力をあわせた比率が20%程度を占めることになっていますが、石炭やLNGに代わるものとして導入が進められ30%から40%を占めることになった場合に、安定的に供給するために必要な蓄電池を確保できるのかということや、そのためにかかるコストも評価する必要があるでしょう。

大島宏之

大島 宏之

(エネルギー研究開発領域長)

大島:太陽光については、導入できる限界値を、発電に要する敷地面積に基づいて決めることが望ましいのではないかと思います。大雨による土砂崩れなどの災害が度々起きている今、改めて、治水という観点から評価することも重要ではないでしょうか。その結果をふまえて原子力発電の出力規模を決めるという方法は、一考する価値はあると思います。

小林:土地そして治水というのは大事なポイントだと思います。安定供給をサポートする蓄電池にも土地は必要です。NAS電池2)は積み上げることができるようですが、リチウムイオン電池は平地に一層で平置きする必要があるため、土地が結構必要になります。電池の値段は量産されれば下がっていくはずですが、需要の伸びや鉱物の確保そして土地の確保など色々なコストがかかるので、期待するほど下がらないかもしれません。

参考リンク

1)資源エネルギー庁「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」(2021年10月)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_03.pdf
2) NAS電池とは、定置用蓄電池であり、メガワット級の電力貯蔵が可能である。日本ガイシによれば、同社が世界で初めて実用化した。
https://www.ngk.co.jp/product/nas-about.html

第4回へ続く