2022年12月、衛星システム試験が終盤に差し掛かった頃、XRISM/SLIM追跡管制隊が発足しました。追跡管制隊とは、衛星の打上げが近くなってくると組織される臨時のチームです。今回は、この「追跡管制隊」について紹介します。
まず、追跡管制隊の概要です。
追跡管制隊は、文字通り、ロケットで打上げられた衛星の"追跡管制(データの送受信を通じて軌道上衛星の監視制御を行うこと)"を実施するチームです。一般的に衛星は、打上げ後、初期段階、定常段階、後期段階の順に運用フェーズが移行しますが、追跡管制隊は"初期段階"の運用を担当します(XRISMの場合は約3ヶ月です)。初期段階の作業が完了すると、定常段階の運用を担当する組織に運用を引継ぎ、解散します。
今回はXRISMとSLIMのデュアルロンチのため、①XRISM衛星管制班(XRISMの運用を行います)、②SLIM探査機管制班(SLIMの運用を行います)、③企画管理班(追跡管制隊全体の進捗管理や隊内外の情報連絡・広報活動を行います)の3班で構成されます。更に、追跡ネットワーク技術センター(地上局の監視制御や軌道決定を行う定常組織)と緊密に連携して作業を進めます。様々な業務を行うため、プロジェクトメンバーのみならず他部署の職員も集まって結成されます。衛星開発や追跡管制の経験者はもちろん、普段あまり衛星開発に携わらない職員も、情報連絡や広報活動の担当として参加したりします。
さて、ここからは「XRISM衛星管制班」の紹介です。
追跡管制隊が担当する初期段階には、打上げ直後の通信・電源・姿勢制御など衛星の生死に直結するシステムの正常動作を確認するクリティカル運用期間と、その後の衛星搭載機器や衛星システム全体の機能確認を行う初期機能確認運用期間があります。特に前者は、皆の緊張が高まる重要かつ危険が大きい期間です。打上げ後、衛星が安定した状態になるまでは、万が一不測の事態が発生しても迅速な対応がとれるよう、JAXAのみならず開発に携わったメーカー、大学関係者やNASA等海外機関の技術者も総動員で臨みます。ASTRO-Hの教訓を踏まえXRISMは24時間運用を行うこともあり、XRISM衛星管制班は総勢約180名います。
しかし、いくら必要な人数をそろえても、準備せずに運用に臨んではうまくいきません。そこで連載第5回で紹介した様に、これまでの衛星運用準備活動で、衛星運用文書の作成や訓練計画の策定を行ってきました。それらに従い、XRISM衛星管制班は、運用訓練を鋭意実施中です。
訓練形式は、講義形式の座学訓練と、衛星運用システムを使用した実技訓練がありますが、実技訓練は、基本的に実際の打上げ時の運用体制と同じ人員配置で訓練を行います。打上げ後の衛星シーケンスや異常発生時の対応を習得する訓練や、衛星運用計画を立案する訓練等いろいろな種類の訓練を行っていますが、特徴的な訓練としては衛星シミュレータを使用した運用シーケンス訓練があります。
衛星シミュレータは、連載第5回で紹介したように、安全で確実な運用を目指し導入した機能です。訓練では、衛星模擬データを衛星シミュレータから衛星運用システムへ配信し、実際の衛星イベント時の進行や班内の係間連携を経験します。訓練とはいえ、実時間で、かつコマンド送信を含め本番と同じ動きをするので、非常に緊張感のある訓練です。
更に、運用訓練の最終確認として、リハーサルを行います。XRISMでは2回実施するのですが、わざと不具合を発生させ、異常時の対応確認なども行ったりします。
安全で確実な運用という観点では、連載第5回で紹介したもう1つの新しく追加した機能として「衛星自動監視システム」があります。衛星の異常兆候を見逃さないよう、初期段階を通じて監視ルールの更なる充実化を行い、リスク低減活動を進めます。その結果は、定常段階へ引き継ぎます。
訓練を行うと、手順変更が必要になるなど、うまくいかない部分がいろいろ出てきます。訓練は、実運用で困らないように問題点を洗い出す目的もあるので、要処置事項が見つかるのは良いことなのですが、衛星システム試験と並行して実施していること、他の運用訓練の実施や要処置事項に追われることから、非常に大変です。
打上げに向けて、追跡管制隊の訓練はまだまだ続きます。軌道上のXRISMの動作を想像しながら訓練を行うことで「ようやくここまで来た。いよいよ打上げだ!」と隊員の士気は高まっています。打上げ後は、長丁場で、夜勤もある変則的な勤務体制が続く追跡管制隊ですが、安全確実な衛星運用に向けて最善を尽くします。XRISMの観測成果に是非ご期待下さい。
【 ISASニュース 2023年3月号(No.504) 掲載】