木曽KWFC超新星探査プロジェクトKISS
プレスリリース 2012/06/27

最終更新日 2012/06/26


「木曽シュミット望遠鏡超広視野CCDカメラKWFCでの
超新星発見」


発表概要

 非常に重い星や、連星の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こします。宇宙に存在する元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象であるため、近年、世界中の多くの研究機関で、超新星をターゲットとした観測が行われています。
 しかし、これまで可視光で爆発の「瞬間」であるショックブレイクアウト現象を捉えた観測例はなく、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままです。
 東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所を中心とする、甲南大学、国立天文台、ロチェスター工科大学、広島大学、台湾国立中央大学らの研究者からなるグループでは、同観測所が新しく開発した超広視野CCDカメラKiso Wide Field Camera (KWFC)を用いた大規模な超新星探査プロジェクトKiso Supernova Survey (KISS)を2012年4月より開始しました。KISSプロジェクトの目的は、空の広い領域を一晩に複数回、頻繁に監視するという、他の超新星探査とは違う手法で、極めて稀な現象である超新星爆発の瞬間をとらえることです。既に3つの超新星爆発の発見に成功し、国際天文学連合(IAU)によりSN 2012cm、SN 2012cq、SN 2012ctと命名されました。今後予定している3年間の観測により、計100個以上の超新星を発見し、その中の数個の超新星に対しては、その爆発の瞬間をとらえることができる見通しです。また、KISSプロジェクトは、天文学に興味のある一般の方々との協力体制を組み、共同で研究を進めるという世界的にも珍しい試みを始めようとしている点も特徴です。
 本発表では、KISSプロジェクトを開始したことをお知らせするとともに、最新の成果と期待される展開についてご報告いたします。


超新星とは

 太陽の8倍以上の重さの星や、二つの星がお互いのまわりを回っている星(連星)の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こし、太陽約5億個分もの明るさで数十日間輝きます。宇宙に存在する水素とヘリウム以外の元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象です。

超新星研究の意義

 超新星爆発は、そこに星が存在していたことを示す直接の証拠です。私たちの住む天の川銀河やお隣のアンドロメダ銀河のような一部の銀河を除くと、個々の星は暗いため、一つ一つ調べることは難しく、明るく輝く超新星爆発の観測が重要になります。しかし、これまで可視光で爆発の「瞬間」であるショックブレイクアウト現象を捉えた観測例はなく、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままです。ショックブレイクアウト現象とは、超新星爆発の瞬間に星内部で発生した衝撃波が、星の表面を通過する際に、急激に、わずか数時間の間、明るく青く(高温)輝く現象です(図1、図2)。爆発の瞬間の超新星の光は、多くの情報を私たちに与えてくれます。例えば、通常は測定することが難しい、爆発前の星の大きさをより正確に求めることができるようになり、星の一生のより正確な理解が可能となります。また、2011年のノーベル物理学賞の受賞理由となった、宇宙の加速膨張の発見に使われた種類の超新星(Ia型; いちえーがた)の爆発の瞬間の光は、いまだ不明な爆発前の連星の正体を知る手がかりになります。

超新星探査KISSプロジェクト

 東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所(以下、東京大学木曽観測所)を中心とする、甲南大学、国立天文台、ロチェスター工科大学、広島大学、台湾国立中央大学らの研究者からなるグループでは、この超広視野CCDカメラKiso Wide Field Camera (KWFC、図3)を用いた大規模な超新星探査プロジェクトKISSを2012年4月より開始しました。KISSプロジェクトの目的は、空の広い領域を一晩に複数回、頻繁に監視することで、極めて稀な現象である超新星爆発の、その爆発の瞬間であるショックブレイクアウト現象をとらえることです。
 そこで、研究グループは、他の超新星探査とは手法を変え、一晩の間に1時間おきに空の同じ領域を監視する手法をとることにしました。超新星爆発は、普通の銀河では約100年に1度の頻度でしか起こらない稀な現象であるため、効率良く発見するためには、一度に大量の銀河を観測する必要があります。東京大学木曽観測所の開発したKWFCは、2度角四方の領域(満月16個分)を一度に観測することができる超広視野カメラであり、珍しい現象をとらえるのに最適なカメラです。

KISSプロジェクトの初期成果と今後の展望

 2012年5月13日、諸隈 智貴 (東京大学)、冨永 望 (甲南大学)、田中 雅臣 (国立天文台)、 森 健彰 (甲南大学)らがKISSプロジェクトにおける最初の超新星をかに座の方向に発見しました(図3)。木曽シュミット望遠鏡KWFC、および広島大学東広島天文台かなた望遠鏡での追加観測により、この天体は約4億光年先の超新星であることが判明し、国際天文学連合(IAU)へ報告し、2012年5月27日にSN 2012cmと命名されました(図4、図7)。この超新星は、発見時、爆発後約10日経過したものであることがわかりました。その後、報告したSN 2012cq (図5、図7、かに座の方向、約3億光年先、爆発約5日後の発見、かなた望遠鏡、台湾国立中央大学鹿林天文台1m望遠鏡、ガリレオ3.6m望遠鏡で追加観測)、SN 2012ct (図6、図8、ヘルクレス座の方向、約5億光年先、爆発約3日後の発見、台湾国立中央大学鹿林天文台1m望遠鏡、ガリレオ3.6m望遠鏡で追加観測)を含め、計3個の超新星の発見に成功しています。2012年秋の探査本格開始後、予定している3年間の観測により、合計100個以上の超新星を発見し、その中の数個の超新星に対しては、その爆発の瞬間をとらえることができる見通しです。また、木曽観測所におけるもう一つの大規模観測プロジェクトである天の川銀河面変光星探査でも、順調に未知の変光星が発見されつつあります。
 また、KISSプロジェクトでは、天文学に興味のある一般の方々との協力体制を組み、共同で研究を進めるという世界的にも珍しい試みを始めようとしています。超新星発見までの過程において、研究グループでは、画像同士の引き算を行い、引き算画像上にうつっている天体、すなわち明るさの変化している天体を超新星候補とします。しかし、この引き算画像には、本物の超新星以外に、宇宙線や引き算のミス等の偽物が、本物の超新星よりも多く存在します。これらを人間の目でチェックし、本物だけを選び出す作業を、アマチュアチームによって行い、その結果を受けて、早急な追加観測を行うことを予定しています。



画像

図1: 超新星ショックブレイクアウトの想像図 (高画質画像: 全体左上[爆発前]右上左下[ショックブレイクアウト]右下[爆発後])
爆発の瞬間は、爆発前の赤い星が急激に青く(高温に)明るく輝き、爆発後、徐々に赤く(温度が下がって)行きます。画像制作: 学術コミュニケーション支援機構。

図2: 超新星ショックブレイクアウトの予想される明るさの変化(光度曲線) (画像)
赤い線は、これまでによく観測されている超新星の光度曲線。爆発の瞬間、ショックブレイクアウト現象により、わずか数時間明るく輝く時期(拡大図の青線)があると理論的に予想されています。

図3: KWFCの写真 (高画質画像)

(拡大図)

図4: SN 2012cmの発見。左から順に2012年4月28日の画像、2012年5月13日の画像、これらを引き算した画像となっています。新しく明るく輝く天体が2012年5月13日の画像にはうつっており、引き算の画像にも残っていることがわかります。 (高画質画像)

(拡大図)

図5: SN 2012cqの発見。左から順に2012年4月28日の画像、2012年5月14日の画像、これらを引き算した画像となっています。新しく明るく輝く天体が2012年5月14日の画像にはうつっており、引き算の画像にも残っていることがわかります。 (高画質画像)

(拡大図)

図6: SN 2012ctの発見。左から順に2012年4月27日の画像、2012年5月22日の画像、これらを引き算した画像となっています。新しく明るく輝く天体が2012年5月22日の画像にはうつっており、引き算の画像にも残っていることがわかります。 (高画質画像)

図7: SN 2012cm、SN 2012cqの位置。かに座の領域。(高画質画像)

図8: SN 2012ctの位置。ヘルクレス座の領域。(高画質画像)

図9: KWFCに8個のCCDがモザイク状に並んでいる様子。(高画質画像, 約3MB)

図10: KWFCの外観。(高画質画像, 約3MB)



雑誌発表

International Astronomical Union Circular (国際天文学連合)


画像の使用について

クレジット: 東京大学
星図(図7、図8)は株式会社アストロアーツのステラナビゲータを使用しました。


問い合わせ先

  東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 助教
  諸隈 智貴
  e-mail: tmorokuma_atmark_ioa.s.u-tokyo.ac.jp ("_atmark_"を"@"で置き換えてください)
  TEL: 0422-34-5049 
  FAX: 0422-34-5041

用語解説


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