「マイクロプラ汚染」を解決するために、綿とイカは出会った

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  • author Kenji P. Miyajima
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「マイクロプラ汚染」を解決するために、綿とイカは出会った
Image: wonderisland / Shutterstock

プラスチックごみは地球規模の問題として、国際的なルールづくりも始まっています。とりわけ、地球と体内のあちこちで見つかっているマイクロプラスチックは、生態系や人々の健康への影響が懸念されており、有効かつ実用的な回収方法の開発が待ち望まれています。

そんなところに、いきなり想像もつかないような斜め上からマイクロプラごみ問題解決の切り札になるかもしれないタッグが登場しましたよ。

マイクロプラ汚染の切り札は、綿とイカ?

Biomass foam
Image: Wu et al. 2024 / Science Advances
(A) Ct-Celバイオマス発泡体の成分には、セルロースとβ-キチン、高度な化学反応が含まれる。 (B) この発泡体によるマイクロプラスチックの除去は、反応性官能基が豊富に存在しているおかげで、物理的な遮断、静電気による引き付け、そして複数の分子間相互作用によって行なわれる。

中国の湖北省にある武漢大学の研究チームが科学誌Science Advancesに発表した論文によると、チームはキチンとセルロースを原料とする再生可能な自己組織化超分子バイオマス繊維発泡体である「Ct-Cel」を開発し、マイクロプラスチック粒子の除去能力を飛躍的に向上させたそうです。マイクロプラを吸着するスポンジみたいなものですね。

研究チームが開発したCt-Celの原料であるセルロースは綿からキチンはイカの骨から抽出されました。どちらも自然界に豊富に存在する持続可能で安価な資源です。

研究チームは、セルロースとキチンが持つ水素結合を切断して、分子間相互作用を引き起こすことで、活性化された水素結合部位を多数持つ安定したフレームワークを作り出しました。

Ct-Celの構造は、物理的な捕捉静電気的な吸引、そして多重な分子間相互作用を通じてマイクロプラスチックを効率的に吸着させます。さらに、環境中に存在する微生物や重金属と共存する条件下でも、その性能はほとんど影響を受けないことが確認されました。

高い吸着効率と再利用性

Ct-Celは、ポリスチレンポリプロピレンポリエチレンテレフタレートPET)など、さまざまな種類のマイクロプラスチックを98%から99.9%という高い効率で吸着可能です。また、5回の吸着サイクルを経ても、95.1%から98.1%の効率を維持し、コスト効率の良さと実用性が証明されています。この結果は、実際の水環境(農業用灌漑水、湖水、静水、沿岸水)においても一貫していたそうです。

Ct-Celの吸着効率は、100ナノメートルのポリスチレン微小球から、3ミクロンの二次マイクロプラスチック(プラ製品が劣化・破砕などによって5mm以下のサイズになったもの)まで、さまざまなサイズと種類のマイクロプラで高い水準を維持したといいます。

コスパが良い持続可能なプラ回収を目指して

環境中のマイクロプラを回収する既存の技術は、高価な素材を用いたり、回収困難な吸着剤を使用したり、特定の環境下で機能しなかったりと、コスパが良くないため、研究チームは安価で持続可能な素材を探し続けてきたそうです。

Ct-Celの開発は、マイクロプラ汚染を軽減するための重要な一歩といえそうです。Ct-Celに必要な素材は低コストで再利用が可能。おまけに、マイクロプラだけでなく他の汚染物質も除去できるため、幅広く環境改善に寄与する可能性があります。

研究論文の中で、著者はCt-Celの可能性について次のように記しています。

「Ct-Cel発泡体は、複雑な水環境からマイクロプラスチックを除去する手段として大きな可能性を秘めています。したがって、私たちの設計原理は、バイオマス発泡体を基礎とした実用的で持続可能な戦略の確立を促進し、マイクロプラスチック汚染対策に貢献するでしょう」

右から左に「はい、実用化」といかないにしても、簡単なプロセスと低いコストで生産できて、回収効率がめっちゃ高くて再利用できる技術には期待しちゃいますね。

Source: Wu et al. 2024 / Science Advances

Reference: Phys Org