アメリカ精神医学会「大統領の精神分析的な発言をみだりにしないで」アメリカ精神分析学会「...それなんだけど」

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  • author 塚本 紺
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アメリカ精神医学会「大統領の精神分析的な発言をみだりにしないで」アメリカ精神分析学会「...それなんだけど」
Photo: Evan El-Amin / Shutterstock.com

...発言するほうが倫理的なんじゃ……?

アメリカ精神医学会が準拠しているルールに「ゴールドウォーター・ルール」というものがあります。

アメリカ精神医学会の倫理規約セクション7.3は、公的な人物について正式な検査を行わないで(精神医学的な)発言を公にすることを戒めています。精神医学が、科学的で信頼のおける職業であるという社会の認知を守ることが学会の目的意識であります。

要するに、ちゃんと検査を行なわずに「あの有名人はこういう傾向がある」「○○の可能性がある」と発表するのはやめようね、というルールです。これは1964年にアメリカの雑誌『Fact』が当時共和党の大統領候補として立候補していたバリー・ゴールドウォーターに関して「1,189人の精神医学者が、ゴールドウォーターは精神的に大統領に不適任だと言っている」という記事を発行したことがキッカケです。

確かに、直接の面識のない精神科医がテレビや雑誌を通して得られる有名人の情報は非常に限られたものですよね。そこにはメディアの意図や狙いも含まれているわけですから、みだりに精神科医という権威を使って有名人の診断をするべきではない、というのはもっともな話です。

そしてつい先日、アメリカ精神医学会は「ゴールドウォーター・ルールに今も準拠する」と発表したんです。なぜわざわざ改めて声明を出したかと言うと、アメリカでのトランプ大統領報道がますます加熱する中、精神医学者たちが大手新聞などにトランプ大統領の精神状態についての発言を繰り返しているからです。

ノースウェスタン大学の精神医学教授Dan P. McAdamsさんは去年、The Atlanticでトランプの言動を分析する長文エッセイを書いています。また、ハーバード大学医学大学院のLance Dodes元臨床学助教授を代表とする35人の精神医学者は「トランプ氏の言動に示されている甚大な感情の不安定さを鑑みると、彼は安全に大統領を務めることが出来ないと我々は考えます」という共同声明をThe NewYork Timesに寄せています。

感情的に不安定だから大統領として相応しくない、そんな風に権威ある精神医学者が発表すれば影響があるのは確実ですよね。アメリカ精神医学会が慎重になるのは当然です。しかしトランプ政権に関しては、「こんな危機的状況で社会の役に立とうとしない方が非倫理的だ」とゴールドウォーター・ルールに反対する精神医学者もどんどんと現れているんです。

そんな中、アメリカ精神分析学会の役員会が、3,500人の会員に向けてEメールで「会員たちが自分たちの知識を責任を持って活用することを防ぐことはしたくない」とゴールドウォーター・ルールに囚われないでよいと伝え、ニュースになっています。アメリカの精神医学における権威ある学会二つが、この問題に関して真っ向から異なる意見を発表したことになります。

1964年とは異なり、今やツイッターを通して大統領本人の発言を多くダイレクトに得ることができます。テレビが伝える内容も多岐に渡るようになりました。「40年、50年も経つルールに縛られる理由はない」という声も専門家の中からは出てきています

私にソーシャルメディア(1億1000万人)を使うのを止めて欲しい奴らなんてトランプの敵か、偽ニュースの連中だけだ。私が真実を伝えることのできる唯一の手段だ!

両方の学会に所属する精神医学者も多く存在しており、今後の彼らの動向が注目されています。

修正(8月7日:07:16):一部、誤字を修正しました。

Photo: Evan El-Amin / Shutterstock.com

Source: American Psychiatric Association via The Verge, The Atlantic, The NewYork Times, THE NEWYORKER, CNN

Reference: NCBI, Wikipedia

(塚本 紺)