再びPC市場は盛り上がるのか…?
ムーアの法則をベースに、年を追うごとに進化を続けるCPU。そんなイメージを抱いて育ったPC世代にはやや残念な現実として、ここ最近のIntelのアーキテクチャ開発は、スローダウンを余儀なくされています。そして、もたつくIntelを横目に、久々にAMDから、PC市場でのシェア奪還さえあり得そうな新しい「Ryzen」シリーズのCPUが発売され、いま注目を集めています!
以前にもPCには、Intel製またはAMD製のどちらのCPUが搭載されているかで、市場の激しいシェア争いが行なわれていた時代もありました。しかし、いまやPCにAMD製のCPUが搭載されるのは非常にまれなことになり、GPUの分野でもやはりAMD製品は影を潜めて、Nvidia製のグラフィックスカードばかりが目につくようになってしまいました。ところが、Ryzenの登場で、この流れは大きく変わるかもしれないとまで言われているのです。
Ryzenは、新たな「Zen」アーキテクチャがベースとなっており、これまでの「Bulldozer」アーキテクチャがベースのCPUよりも、とにかく高速性能なのが特徴的です。現在Ryzenは、デスクトップPC向けに3モデルを用意。最上位モデルの「Ryzen 7 1800X」でも、販売価格は499ドル(約57,000円)に抑えられています。ほかに399ドルの「Ryzen 7 1700X」と、329ドルの「Ryzen 7 1700」も発売されました。
Ryzen 7 1800Xを、Intelの最新CPU「Kaby Lake」世代の「Core i7-7700K」と比較してみました。Blenderでの3Dレンダリング、Handbrakeでの動画処理に要する時間をベンチマーク比較してみると、圧倒的にRyzen 7 1800Xのほうが高速でした。毎秒のフレームレートを、PCゲーム『Rise of the Tomb Raider』で比較しても、やはりRyzen 7 1800Xの性能が、Core i7-7700Kよりも倍近く多くなっていることが明らかに! ちなみにCPUの販売価格は、Core i7-7700Kのほうが、Ryzen 7 1800Xよりも150ドルも高くなっています。安いのに速い、Ryzen 7 1800Xはまさに良いとこ取りしたCPUっていうわけです。
Ryzen 7 1800Xの速さの秘密は、8コアで16スレッドをこなせる性能にあります。対するCore i7-7700Kは、4コアで8スレッドの処理能力。これこそが倍速性能の要因でもあるのでしょうね。なお、もっともRyzen 7 1800Xに似ているIntel製のCPUは、比較対象になったCore i7-7700Kではなく、1世代古い「Broadwell」世代の8コア・16スレッドCPU「Core i7-6900K」になるんだとか。ただしこちらの販売価格は、現在でも1,000ドルクラス(約11万円)となっていて、Ryzen 7 1800Xの倍以上です。
と、ここまではRyzen 7 1800Xのメリットばかり強調されてはきたものの、これで一気にAMDのシェア挽回になることはないかもしれません。というのは、先のベンチマークスコアでは好成績を残したものの、実際の日常的なタスクではかなり苦戦しそうなのです…。
よく使うであろうPhotoshopでの画像レンダリング(図左下)では、Ryzen 7 1800XはCore i7-7700Kの倍近い時間がかかってしまうことが判明。また、先ほどの華々しいベンチマーク対決とは裏腹に、「WebXPRT」のスコア(図右上)やPCゲーム『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』での処理(図右下)では、ほぼ両者互角の性能であることが明らかになっているほか、やはり「Geekbench 4」のスコア(図左上)でも、わずかなポイント差しか開きませんでした。コア数では、Ryzen 7 1800Xのほうが倍のはずなのに。
その理由として、あらゆるソフトウェアは、もはやPC市場を制しているIntel製のCPUに合わせてチューンアップされているからなのです。もちろん、RyzenシリーズのCPUに合わせて、さまざまなソフトウェアの動作も最適化されていけばよいだけの話ではあるのですが、今回発売されたCPUはいずれもデスクトップ向けのモデルばかり。このご時世、ほとんどのユーザーがモバイルのノートPCを選ぶのに、デスクトップPCでしか使えないCPUに、わざわざソフトウェア側が面倒な最適化をしてくれるのか? そこに大きな疑問符がつけられているのです。
なお、Ryzenシリーズはあくまでも純粋なCPUのみなので、GPUが統合されていません。別にグラフィックスカードを用意しなければならない点も、結局は高くついてしまうかもしれないと懸念されています。高性能なグラフィックス環境のためならば、金に糸目をつけないパワーユーザーならいざ知らず、普通に低価格のPCを求めてくるユーザーには、GPUを統合した「AMD Accelerated Processing Unit(AMD APU)」なる新製品を投入してくるまで、あまりRyzenシリーズの訴求力はないのかもしれませんよね。
当然ながらAMDは、Ryzenシリーズを各種モバイル製品向けにも投入してくる予定を明らかにしてはいます。そのときにも、Intel製のCPUと比較して、安いのに高性能という同じ魅力を達成できれば、本当にAMDの巻き返しが始まることでしょう。そんな日が、近い将来に訪れることを楽しみにしたいですけどね~。
image: ©2017 Advanced Micro Devices, Inc via AMD
source: AMD, Intel 1, 2
reference: AMD Accelerated Processing Unit - Wikipedia
Alex Cranz - Gizmodo US[原文]
(湯木進悟)