天野喜孝さんインタビュー:最近考えるのは「この絵のために何ができるのか」

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  • author 小暮ひさのり
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天野喜孝さんインタビュー:最近考えるのは「この絵のために何ができるのか」

「描く」

かつては紙とペン、キャンバスと絵の具であったその世界も、デジタル化の流れが押し寄せてきています。第一線で活躍するアーティストであり、イラストレーターであり、デザイナーである天野喜孝さんにとってのデジタルとは、いったいどんなものなのでしょうか。

天野喜孝さんとは

ゲームファンの間では「ファイナルファンタジー」のイメージが強い天野さんですが、「描く」仕事との接点はそのはるか以前の高校時代。わずか15歳にしてアニメーション制作会社「タツノコプロダクション」に入社した時から始まります。タツノコプロダクションでは、「みなしごハッチ」「タイムボカン」シリーズなど、今もなお語られる歴史の残る名作アニメも、キャラクターデザインは天野さんだったんですよ。そう、あのドロンジョ様だって天野さんデザインです!

1982年に独立後は件の「ファイナルファンタジー」シリーズのキャラクターデザイン、「吸血鬼ハンターD」「グイン・サーガ」などの小説のキャラクターデザイン、さらには「なよたけ」「楊貴妃」などの舞台デザインや、映画「陰陽師」の衣装デザインを手がけるなど、幅広く活躍しています。

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前回のインタビューでは2015年7月15日限定のプライムデー価格で2億円。という「黙示録」原画12点 DVDセット。そしてその作品のテーマについてお伺いしました。天野さんはAmazonでCDや本、DVDなどを購入しているようですが、ギズモードらしく利用しているデジタルやガジェットの分野についてもお伺いしました。

天野さんというと繊細かつダイナミックな表現が特徴ですが、パソコンでのデジタル制作は手がけているのでしょうか?

「色をつけたりするのをMacでやってみたことがあるのですが、参考としては良いのですが、それを本番としては僕はまだ使いこなせていないですね。紙に色鉛筆でこんなかんじかな?と色を付けてみるのと同じ感覚でMacで色をつけてみる。そういった本番を書くための色指定を行なったりといった感覚では利用しています。道具のひとつとしてですね。」(天野さん)

個人的な先入観として、天野さんは手描きだ!というイメージがありましたが、本番はやはり手描きなんですね。しかし、パソコン(Mac)も触っているというというのは驚きでした。

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「絵の世界ではまだデジタルを使いこなせているとは言えないので、未知の世界です。でも、その他の分野ですと、インターネットを通じて音楽のストリーミングなどを聞くことができるというのは、すごい進化だと感じます。最近はiPadに音楽を入れて、オーディオに繋いで聞いていたりしますね」(天野さん)

iPadをオーディオ環境のひとつとして利用していて、アトリエの2階と3階のどちらもオーディオがあり、どちらでも音楽を流せるのだそうですよ。天野さんはオーディオファンでもあるんですね。

天野喜孝さんへはどういった発注が来る?

天野さんはゲームのキャラクターや、小説のタイトルや挿絵などキャラクターデザインも多く手がけています。小説では描写やセリフに、ゲームはドットで描かれた主人公に天野さんのキャラクターを投影し、僕たちは想像力を膨らませていました。それら魅力的なキャラクターはどうやって生み出されているのでしょう。

「ゲームのキャラクターの場合は文章で、年齢ですとか役割ですとか1行か2行くらいのイメージコメントがあります。それを元にイメージしたものを自由に描いています」(天野さん)

わずかな設定だけで……! 細かく綿密な設定のもと描いているのかと思っていましたが、まったく逆。キャラクターたちは、まさに天野さんの感性より創造されたものだったんです。

天野喜孝さんの「ファンタジー」とは?

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天野さんはファンタジー要素のある絵が多いと思いますが、ファンタジー世界はどういったところから生み出されたのでしょう。天野喜孝さんとファンタジーとの関係性はいったい?

「独立したときに、早川書房で小説の絵を描くという仕事が来ました。海外のファンタジー小説を僕が読んで絵を描くという内容だったので、その中で絵の題材としてファンタジーの世界が僕の中に入っていったのだと思います」(天野さん)

また、天野さんは小説について挿絵を書くときに、その読者として読んだ時の気持ちを、自然なまま描くようにしているとのことでした。

「最近はこの絵のために何ができるのか。そう考えるようにしています」(天野さん)

真剣に語る姿は、思わず聞き手のこちらの身が引き締まります。

天野喜孝さんの考えるデジタルとアナログの魅力

天野さんにとってデジタルとアナログの魅力の違いはどこにあるのでしょう。それは「リセット」にあると語ってくれました。何度でも簡単にやり直せる、それはアナログには無いデジタルならではの大きなメリットです。

これは人によっては作品を大きく手助けしてくれる要素となりますが、天野さんにとってはそれ以上に描くキャンバスの素材の変化や、画材の変化といったフィーリング感も自分にとっては好きなことだとおっしゃいます。

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「何度もやり直せたら完成しなそうで(笑)」(天野さん)

と冗談を含めつつ鋭い指摘も。天野さんは作品と向き合い、やり直しの効かない中で挑む。といったところもまた楽しさを感じるそうです。

お忙しい中頂いたこの貴重なインタビューですが、天野さんの言葉や姿勢から、「描く」ことはアウトプットであるとともに、インプットでもあるのだと気付かされました。紙や布、クレヨン、色鉛筆、その他さまざまな画材。それらへ描きながら感じるフィードバックも、作品に影響を与えてくるのかもしれません。

筆圧が◯段階、表示色が◯段階。から、形状や、匂いや、手触りの違いといったフィーリングへ。ひょっとしたら今後「描く」デジタルは、そういった方面への進化も求められているのではないでしょうか。

天野喜孝展-想像を超えた世界-

会場

兵庫県立美術館 ギャラリー棟3F

開催期間

平成27年6月27日(土)〜8月30日(日)

観覧時間

午前10時〜午後6時まで(最終入場は、閉場の30分前まで)

※最終日(8月30日)は、午後3時閉館(最終入場は午後2時30分まで)

観覧料

一般1,200円(1,000円)、大学生1,000円(800円)

高校生・65歳以上600円(500円)、中学生以下無料

※上記金額すべて税込、カッコ内は前売券、団体(20名以上)料金

※障害者割引は、本人と介添え1名まで半額(ただし、高校生と65歳以上は除く)

source: 天野喜孝 ART MUSEUM @ Amazon.co.jp , 天野喜孝展-想像を超えた世界-公式サイト

(執筆・インタビュアー:小暮ひさのり、撮影:松葉信彦)