海外にはたくさんの革新的なエンタメサービスが登場しているのに、どうして日本からは生まれないのだろう?
そんな疑問の発露からはじまった、IT×エンタメなコンペティション『START ME UP AWARDS 2014』。硬直化した音楽業界に新風を注ぎ込む、熱いイベントとなりました。
設立2年以内の企業もしくは、優れた事業アイデアを持つ個人が、エンタメ感と創造性のあるビジネスプランを数分間のピッチ(プレゼンテーション)で競い合うアワードと、同時開催される二日間のハッカソンという二部形式。その最終審査および授賞式が、11月29日(土)に日本科学未来館で開催されました。
筆者も、キュレーター兼審査員として参加した二次審査を経て、最終審査では合計8社がプレゼンテーションに進出しました。
ファイナリスト8サービス・「LIVE3」 3.0 Inc.
・「Song Pitch」 株式会社SpinCoaster
・「WOVN.lo」 株式会社ミニマル・テクノロジーズ
・「ダンス・レボ」 株式会社エンパワー・ピープル
・「LiSTTON」 株式会社Sound Terminal
・「レコーデリー」
・「バズ度ランク」 株式会社エフビーランク
・「Livees!」 株式会社One Groove
音楽サービスを中心に、エンタメをテーマとした様々なサービスのアイディアが集まったなか、激戦の末、最優秀賞に選ばれたのは、3.0 Inc.のスマートフォンアプリ “LIVE3” でした。
「今夜なにする?」を解決するスマホアプリとして、わかりやすいヴィジョンのもと、今晩東京で行われているたくさんあるイベントのなかから、オススメのイベントを教えてくれるアプリ。
たとえば、自分で活用するのはもちろん、海外や地方から友人が来たときに便利ですよね? チケット購入予約はもちろん、当日まで売れ残ったチケットの割引販売を提案するなど、ユーザー目線に立ったサービスが評価されたようです。
“LIVE3” を運営する3.0 Inc.代表の手島恭平氏は、「今後は、チケットの購入アプリだけに留まらず、1日の予定を提案できるようなサービスを展開していきたいです。」と、語っていました。まだまだ伸びそうな予感がします。会場に集まったオーディエンスによる投票で決まったエンタメ賞は、キュレーション型音楽メディア「SpinCoaster」を展開する株式会社SpinCoasterによる、音楽プレイリストをニンテンドー3DSのすれ違い通信のように交換することで、音楽仲間を見つけられるウェアラブル端末 “Song Pitch” が受賞しました。
二次審査でトップとなったキュレーター賞は、株式会社ミニマル・テクノロジーズによる、たった一行のスクリプトでサイトの他言語翻訳が簡単にできるサービス “WOVN.lo” が獲得しました。
授賞式を終えて、実行委員長の山口哲一氏は「今日がスタート地点になるといいなと思ってます。今回のファイナリスト8社の中から世界を席巻するサービスが生まれることを祈っています!」と締めくくりました。ファイナリスト8社の今後の動向はもちろん、来年の開催にも期待したい試みです。
〜MUSICIANS' HACATHON編〜同日、別会場であるthe SOHO(お台場青海)では、同主催者による『MUSICIANS' HACATHON』も行われました。
こちらは、ミュージシャンが参加してのハッカソンとして世界初なのだそう。
MUSICIAN'S HACKATHON が行われたお台場の『the SOHO』はクリエイターにとって最適な仕事環境の提供とワークスタイルの提案をする最適な場所でした。お台場、都心、羽田空港やアクセス性の高さ、水上交通まで利用できる注目のエリア「青海」でクリエイティブを刺激しあえます。またコミュニティ活動をサポートしてくれるのも魅力です。
MUSICIANS' HACATHON参加アーティスト浅田祐介、松武秀樹、Ram Rider、 渡部高士、 浅岡雄也、Yun*Chi、ミト (クラムボン)、松岡英明、 岩田アッチュ(Ex.ニルギリス)、藤井丈司、本間昭光、島野 聡、今井大介、Neat's、1980Yen (Ichiquppa) 、藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン)、他
ハッカソンとは、SpotifyやGracenote、トヨタなどの企業から、様々なAPIを提供していただき、データを活かした新しい発想のサービス企画を、会場に集まったミュージシャンとプログラマー、プランナーがチームを組んで、一夜にして新サービスを形にする腕試しのようなコンテストのこと。
API提供企業エイベックス・デジタル株式会社、株式会社エクシング、Gracenote、株式会社シンクパワー、Spotify、株式会社ゼンリンデータコム、T-MEDIA ホールディングス T-SITE事業本部、株式会社トヨタIT開発センター、日本マイクロソフト株式会社
驚くことに、会場のthe SOHOには、豪華なスパやトレーニングルームまであり、コンテスト会場のハックルームには企業の差し入れアイテム飲み物が山積みになっていて、とても“らしい”雰囲気が出ていました。
今回のMUSICIANS' HACATHONにおける人間模様を俯瞰してみていると、漫画やドラマ・ネタになりそうな人間味溢れるストーリーが、ハッカソンというコンテストな仕組みにはあると思いました。スポーツでいう高校野球や、高校サッカーに近い雰囲気といえば伝わりやすいでしょうか?
意欲的な参加者と話していて感じたのは、ミュージシャンもITや新しいテクノロジーに興味津々で、その逆もまた然りだったこと。そこに大手企業が持つAPIが結びつくことで、新しいケミストリーが起こるかも。そんな期待感こそが、会場内が、至福感あるポジティヴな雰囲気でいっぱいになった理由だと思います。
総勢17チームの闘いのなか、優勝したのはアニメ『交響詩篇エウレカセブン』主題歌「sakura」のヒットでお馴染みの、先日メンバー全員脱退したばかりのユニット、ニルギリスのヴォーカリストである岩田アッチュ率いる『日本パーティ党』(岩田アッチュ、渡部高士、片岡ハルカ、Takehiro Iwasaka)による音楽サービス “Music Dance” でした。
「踊らされるダンスからの脱却」をテーマに、通常であれば、音楽によって人はダンスをするという真理を、ダンスミュージックの概念をテクノロジーで覆し、ダンスをすると音楽が生まれるというプログラムを、キネクトを駆使して具現化されていました。
自らのダンスの動きを落とせば、ダブステップになり、早く動けばドラムンベースになる。BPM120〜140で踊ればテクノ。腰を揺らせばハウス。手を上げて激しく踊ればトランスになるというこだわりは、まさにダンスミュージックにくわしいミュージシャンが参加したならではの試みでしょう。そして、それを一夜にして具現化するチームの力にも脱帽です。
「踊らされるダンスからの脱却」をテーマした “Music Dance” を生み出した、日本パーティ党の岩田アッチュは、今回の二日間の試みについて、「最近バンド(ニルギリス)を抜けた直後でもあり、久々にチームで何かを作っていく作業ができて、新しいバンドを結成したみたいで本当に楽しかったです。」と語っています。
対して、審査員として参加したギズモード・ジャパン編集長の尾田が選出した特別賞「ギズモード賞」は、ZenMusicチームによる “ZenMusic TaoMusic” に決定。
脳波や体の動きをもとに音楽を作るための2つのデバイス。“ZenMusic” は、脳波センサーの信号をWebブラウザで受け取り、Web Audio APIで音楽を奏でます。TaoMusicは、両手にもった2台のiPhone上のアプリから加速度センサーの情報をPC上のWebブラウザに送り、Web Audio APIで音楽を奏でます。
だれでも音楽を作れる上に、初音ミクやヴィンテージシンセにも繋がるというポイントを評価しました。今後、ZenMusicのアイディアを出した高名なシンセサイザーマニピュレータである松武秀樹氏のライヴでコラボ予定とか。楽しみです。
最後にAPIの活用について。17チーム中ほとんどのチームがGracenoteやSpotifyのAPIを上手く活用していました。たとえば音楽ビッグデータ企業として知られるGracenoteが提供する曲の「ムード」データに着目し、APIで楽曲を解析して曲調にあわせたムードカラーのミュージック・クリップが自動生成される“Lyric Video Generator”。ハコスコでVR視聴するとよりいっそうその美しさが際立ちました。
リスニングスタイルの主流となりつつあるSpotifyにGracenoteのレコメンデーションAPIとムードデータ、それにエクシングの言語解析APIを連携させた“M3”。動画に言葉をつけていくだけで最適なムードを持った音楽がミックスされるサービスなど、今までになかったAPIを活用した画期的な音楽や映像のサービスが多数誕生したことは業界にとっても大きなイノヴェーションといえるでしょう。
2014年末に開催されたMUSICIANS' HACATHONは、海外と比べると遅れているといわれる、日本発 音楽×ITそしてエンターテイメント業界全体の歴史の針をすすめるコンテストになったかもしれません。そんな熱い思いや雰囲気をハッカソン会場から受け取れました。詳しいメンバーや受賞リストに関しては、オフィシャルサイトをチェックしてみてください。
source: START ME UP AWARDS 2014
(ふくりゅう:音楽コンシェルジュ)