7月10-11日に開催されたMIT Media Lab @ Tokyoの二日目には、MIT Media Lab卒業生で、SONYコンピューターサイエンス研究所(CSL)に所属する遠藤謙さんが、「義足」開発におけるイノヴェーションの可能性について語りました。
MITでは歩行と義足をエンジニアの視点で研究をしてきた遠藤さん。パラリンピックで走るオスカー・ピストリウスを例を出して、「技術とアスリートのコラボレーション」にワクワクしたと語り、まだまだテクノロジーで解決できる部分は多いといいます。
特に、遠藤さんが注目するのは、身体の鍛え方で違った結果が生まれるアスリートの可能性です。例えば、同じ種目なのにどうしてオリンピアンとパラリンピアンでは記録が違うのだろうか? 遠藤さんがMITで師事したヒュー・ハー教授が語っていた「テクノロジーに問題がある」という考え方から、競技で使われる義足開発の現状に問題を提議し、人間を超えられる可能性について、日々研究をしているそうです。
ここ数年の間で五輪とパラリンピックにおける100mの記録が頻繁に更新されるようになりました。100mの記録では現在ウサイン・ボルト選手の9秒63、パラリンピックではブラジル代表のアラン・オリベイラ選手が記録した10秒57が最高になっていることで、パラリンピックへの注目の度合いとそれに伴う技術への関心も高まっているそうです。
遠藤さんは2020年東京五輪の時には、パラリンピアンがオリンピアンよりよい記録をだせるようにすることが大きなゴールと語ります。義足のランナーが健常者の記録を破ることができれば、社会のイメージも変わっていくのではないか、そんな強い思いが遠藤さんの義足開発のモチヴェーションになっています。
このゴールを追求するために遠藤さんは、元五輪陸上選手の為末大さんやプロダクトデザイナーの杉原行里さんとともに、陸上競技用義足の研究や開発を行う新会社「Xiborg」(サイボーグ)を立ち上げました。
義足を進化させるためには、ただ義足を形にするだけでなく、素材やデザインなど作り方へのこだわりや、義足を付けた選手が早く走るためのトレーニングを同時に追求できるのが、この3人チームの大きな強み。
Xiborgを通じて、パラリンピアンのイメージを変えていきたい、そして義足開発をオープンに行うことで、街づくりや社会貢献といった社会的活動の領域でも相乗効果を生み出していきたい、そう遠藤さんはまだ知らない「走り」の可能性を広げたその先について強く語りました。
登壇した為末大さんは、2020年までには世界最速の義足を作りたいという思いがあるけれど、それ以降はますますテクノロジーが人の身体をサポートしていく時代になるのではと考える中で、アスリートとしての自分を振り返ると、全速力で走り終わった後に感じる「感動」が大切だったことに気付いたと言います。そして、為末さんは「テクノロジーが進化して身体をサポートしていく未来になっていっても、「動く感動」はテクノロジーのチカラで残していきたい」と東京五輪の後の未来を語っていました。
パラリンピックが五輪を超える? 走るという「常識」を再開発することは、まだどんな人間も体験したことのない身体の可能性が大きな変革へつながる人類の進化の過程なのかもしれません。
source: MIT Media Lab Tokyo 2014
(鴻上洋平)