生きてるだけで「世界をハック」とか、何じゃそりゃと。
言葉って、みんなが使うようになるとだんだん意味が広がってきて、何でもかんでもひとつの言葉で済ませてしまえるようになります。便利でもありますが、ちょっと違和感を感じることもあります。たとえば最近よく見聞きする「ハック」。米Gizmodoのアシュリー・ファインバーグ記者が、「ハックハックって、みんな何でもハックにしすぎじゃ?」と苦言を呈してます。
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ブロガーでもジャーナリストでもライターでもコメント書くだけの人でも、「ハック」って言葉を使い過ぎじゃないでしょうか。ただそこにあるものをハックとよぶのは、正しくありません。
「ハック」という言葉を使う場合、何らかの技術を役立てているとか、工夫をしているとかならまだわかります。というか、それが適切な使い方でもあります。たとえばNSAのデータベースに侵入したり、誰かのTwitterアカウントを盗んでホモセクシャルへの偏見に満ちたツイートをしたり、トイレットペーパーの使い道で「B」から始まるものを101通り考案したり、そういうことならハックとよんでも許せます。
コードを書くのもダンボールを切り抜くのも、そこにはなんらかのスキルや工夫があります。念入りな思考とイノヴェーションを融合させて、ひとつのゴールを目指しているってことです。
もちろん、それでもハックとは言えないと思う人、厳格な人もいるでしょう。「ハック」とか「ハッカー」、「ハッキング」という言葉は西暦1200年頃に英語の中で使われるようになってからいろいろな対象に対して使われてきましたが、それらに唯一共通するのは、真の創意工夫がそこにあるということです。世界のいろんなハッカーはお互いを詐欺師だと認識するかもしれませんが、言葉の歴史から見れば、彼らはやはりみんな「ハッカー」です。
でも残念ながら、「ハック」という言葉の使い道はそこではとどまりませんでした。たとえば「脳手術をペーパークリップでハック」とか、何でもありです。でも、ラップトップの充電ケーブルを電源アダプタに巻きつけるのはハックとは言いません。それは、意図された通りに物を使ってるだけです。
声を出して誰かと話をすることを「うつ病ハック」とは言うべきじゃありません。それはただの「会話」です。夏休みに工事現場をうろついたからって、「ヴァケーションをハック」したというのはおかしいです。その他、同僚にファイルを送信したからハック、バナナを壁にかけたらハック。
でも、こんな例ならまだマシです。バナナをハック、ヴァケーションをハックとか、めちゃめちゃだし怠惰だし薄っぺらい使い方ですが、まだまともな思考の範疇です。でも、誰もがすることをただやっただけでハックと言うのはひどいです。単なる存在をハックと言う人がいるんです。たとえば呼吸したから、「空気をハック」とか。
病院に行ったら「DNAハック」、生きてるだけで「環境が自分の遺伝子をハック」、動物として存在するだけで「気候変動をハック」、などなど枚挙にいとまがありません。
たしかに言葉なんて好きなように使えばいいし、言語は進化していく、そういうスタンスもあります。でも、変化を受け入れることと、言葉について怠惰であることとの間には違いがあります。
「ハック」という言葉にはまだ意味がありますが、それは急速に劣化しています。今やこの世界では重力そのものもハックで、人間は骨の髄までハックされていて、エネルギーハックが必要なくらいです。目を閉じて明かりをハックし、夢をハック。自分をハックし、未来をハック。ベビーが子宮をハックして、母体が口からハックした食べ物を再ハック。ベビーをハックするということは、世界をハックするということ。
ある日人間は地球上のすべてをハックし尽くして、地下深くに我々自身をハックするときが来るでしょう。土とミミズが我々の体をハックし、人体はコンポストへとハックされます。そしてそのとき、我々のハックは終わります。
というわけで、自転車をレンチで修理したら、その行為をきちんと描写する言葉で表現しましょう。または、今日も1日生きられた、それも素晴らしいが、多くの人も普通に生きています。自転車をハックとか、世界をハックしたとかじゃありません。ただ存在しただけじゃハックとはいえません。これでも足りなければ、もう辞書をハックするしかありません。
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以上、ファインバーグ記者でした。「ハック」もそうだし、「ノマド」とか「ビッグデータ」とか、日本語でも「おもてなし」「気付き」「戦略」とか、かっこよさそうに見えるけど意味が曖昧なまま使われてる言葉っていろいろあります。そのモヤモヤなままをあえて楽しむってのもあるんですが、実のあるコミュニケーションをしたいときは、ラクな表現だけに頼らないほうがいいんでしょうね。
Ashley Feinberg - Gizmodo US[原文]
(miho)