吸って吐いて、吸って吐いて。
電子メール無呼吸症候群(Email Apnea)とは、Eメールに没頭するあまりに、その間呼吸が止まっているという症状のことを言います。が、これは何もEメールに限ったことではありません。ブログを書いていたり、SNSでコメントしていたり、ネット上で何かに集中してタイピングしている時に起こる症状。この症状に自分も陥っているとふと気がついたのが、米Gizmodoのアダム記者。アダム記者は、スクリーンに向ってキーボードをタイプしている時、特に難しい内容に集中して指を動かしている時に軽い頭痛を覚えることがあるといいます。そして息苦しさを感じます。キーボードから離れて大きく息をつく、何度か深呼吸して再びデスクに戻る、しばらくするとまた同じ症状がでています。まさに電子メール無呼吸症候群。
科学的な調査ではありませんが、一説では80%の人がこの症状があると言われています。もちろん、この症状がでている人の多くは健康な人でしょう。電子メール無呼吸症候群は、不健康というわけでもありませんし、お医者さんに薬をもらうわけでもありません。
「Email Apnea(電子メール無呼吸症候群)」とは、2008年のHuffington PostにてLinda Stone(リンダ・ストーン)氏によって作られた造語。ストーン氏は元アップル役員で、テクノロジーと生理学の関係に従事した人物。アダム記者同様に、ストーン氏もスクリーンを眺めている時に自分の呼吸が止まっていることに気がつきました。呼吸が止まっている状態というのは、もちろん体にいいはずがありません。ストーン氏は、自身のブログでこのEメール無呼吸症候群が、米国の肥満問題にも関係があるのではという話にまで発展させ、仮説を展開しています。
さて、そもそもなんで息を止めてしまうのでしょう。研究を続けるストーン氏にアダム記者が取材したので、彼女が唱える2つの仮説を紹介しましょう。
仮説1:物理的な問題
人事部や総務課から、人間工学的に良いとされるデスク環境作りなんて講習を受けたことがある人ならわかるかもしれませんが、多くの人はパソコンに向う時に変な姿勢になってしまいます。
「姿勢が悪い時(猫背で背中も丸まって肩もなかに入っているような姿勢)は、解剖学的にみて呼吸がしやすいとは言いがたい」とストーン氏は話します。確かにその通り。科学的に裏付けてくれというまでもなく自分で感じることができます。背中丸めて首を縮めてみれば、なるほど確かに窮屈な姿勢であることは間違いないです。
仮説2:感情の問題
Eメールやパソコンを使う作業というのは、そもそもストレスを伴うもの。ストレスを感じる時、人は呼吸が上手くできないのです。こちらも言われるまでもなくわかることですが、その理由付けには様々な科学的アプローチがあります。カリフォルニア大学のGloria Mark(グロリア・マーク)氏とStephen Voida(スティーブン・ヴォイダ)氏によって、昨年発表された研究だと、Eメールとストレスには関係があり、例えば心拍数の変化の幅にそれが表れるといいます。人はEメールを読めない状態に置かれると、心拍変異度が小さくなるという結果もでました。
「例えば、1分間の心拍変異度が60から80の人は、70から75の人よりも健康だと言うことができます」これは、呼吸を専門に研究するFred Muench(フレッド・ミンチ)博士が、数年前にMen's Journalに語った内容。「つまり、変異度が大きいということは、体のシステムが固まっていないということ。アームストロングのような人は、変異度が大きい。一方で不健康な人、または高齢者は、それがとても小さい。変異度を大きくするには、ゆっくり呼吸することが大切」
科学的な話は、ここで交感神経と副交感神経の違いへと進んでいきます。交感神経が、我々のストレスである「戦う/逃げる」モードをコントロールする一方で、副交感神経は「休んで消化」モードのリラックスをコントロールします。心拍変異度は「戦う/逃げる」モードの時に上がり、同時に様々な副作用(高血圧、血液中の高コレステロール等)を引き起こします。この「戦う/逃げる」モードが、パソコンの前にいる間中オンになっていることで、1日の終わりにひどく疲れるのです。多くの時間を副交感神経のシステムで過ごせれば、もっと気持ちは楽なはずなのに。
と、まぁこういったことが、電子メール無呼吸症候群の原因となっているようです。繰り返しますが、電子メール無呼吸症候群は病気ではありません。症状はあるものの、どちらかと言えば人間工学のような話だと言います。解決方法はいたってシンプル。姿勢よく座り、呼吸に注意をはらうこと、それだけ。ヨガ体験者ならば、呼吸法はお手のものかもしれません。
解決法がシンプルだとわかっていても、社会における電子メール無呼吸症候群の問題は大きくなる一方。パソコンのスクリーンを見つめる時間が長ければ長いほど、1日の多くの時間をストレスを感じる「戦う/逃げる」モードで過ごしているということ。
そこで、ストーン氏は声を大きくしていいます。「体を動かしましょう、立ってみましょう、周りの人とアイコンコンタクトをとるようにしましょう」それだけで、この症状は軽減されるのです。
さ、立ち上がって大きく深呼吸してみましょう。
Image via Shutterstock / Photobank Gallery
そうこ( 米版)