『rain』、とてもとっても優しい物語です。
しかも、今日はインターネット上で『rain』チームが仕掛けた「あるたくらみ」が同時多発しているらしいですよ。その詳細は記事の最後で!
来年2月にはPlayStation 4が発売されますよね。次世代機登場間近の現在、PS3はもう終わったとか考えていませんか? いえいえ、今だからこそPS3は旬。熟れ熟れで美味なんですよ。評価の高い名作情報がわかりきっているから外れなしのタイトルが選び放題だし、新世代機とのバトンタッチ時期には長く遊べる名作がリリースされることも多い。例を上げるならPS1の『夕闇通り探検隊』(1999)に『高機動幻想ガンパレード・マーチ』(2000)でしょ。PS2なら『バイオハザード4』(2005)に『ACE COMBAT ZERO』(2006)、『大神』(2006)、『ワンダと巨像』(2006)などがありましたよね。
クセのある作品も散見しますが、ある程度ハードウェアを売り切った段階ゆえに、黎明期・普及期には出せなかったチャレンジングなタイトルが開発できるのかも。
ここで紹介したい『rain』も、PS3のラストスパートを実感させるもの。長らく堪能できるタイトルとしておすすめしたい一作です。『ICO』や『Flowery』、『風ノ旅ビト』のようなセカイを深く感じさせてくれる作品で、単館系映画のようなココロに深く浸透する物語を見せてくれますよ!
雨の夜を舞台にしたボーイ・ミーツ・ガール
ある日、少年は雨の中に「透明な少女」を見つけた。
怪物に追われる彼女を追いかけ、彼は家を飛び出し、
いつのまにか、不思議な場所へと迷い込んでしまう…。
そこは、雨の降る夜の町。
誰もいない世界で、少年は迷子になってしまいます。
そして気がつくのです、
自分自身も姿を失っている事に…。
名前も知らない、顔もわからない。そんな少女のために健気にがんばる少年(主人公)。ああ、王道ゆえに色あせることのないボーイ・ミーツ・ガール。このストーリーだけでキュンキュンしますな!
夜の町を彷徨い歩き、怪物たちの目を逃れて少女を追いかける。モノトーンの世界の中で露わになっていく不安と焦燥はある意味新鮮。女の子に近寄づけても、最初はこっちの姿を認識してくれないし。
そうそう、少年は攻撃方法を持っていません。◯ボタンで話すこともできません。村人が話しかけてくるだけの、一方通行のコミュニケーションですら行えません。
だからこそ次第にお互いを認識し、身振り手振りで意思疎通をして、迫り来る怪物をかわしながらの逃走劇にピュアなハートが見えてくるんですよ!
ゲームシステムは、かくれんぼことスニークアクション
『rain』は子供の頃に夜の街を探検していたら迷子になった感覚に似ているかも。見上げるものがすべて大きくおっかないあの雰囲気に。
そう思うと、少年と少女を追いかけてくる怪物って、常に指さし確認しているんですよ。律儀で真面目な性格っぽい。彼はもしかしたら、夜遊びしている子供を怒りながら連れ戻しにきたお父さん?
ともあれ一度怪物たちに見つかってしまうと、彼らは脇目もふらずに追いかけてきます。前述したようにこちらからは攻撃できないので、つかまってしまうとゲームオーバー。だから隠れます。忍びます。自分の姿が消える屋根の下から下へと伝っていくし、水たまりを抜けるときは足音がでないように、どうか気づきませんように…と歩いていく。
シーンによっては障害物を怪物に壊させたり、2人で行動するようになってからは1人が怪物の気を引いてルートを確保するなど、『SIREN』や『メタルギアソリッド』クラスの骨太なスニークアクションが楽しめます。
でもトータルで見ると難しくない。誰でも遊べる仕様になっています。同じシーンで2回失敗するとヒントがもらえるのでクリアしやすくなるのと、余計な操作系がないから、プレイヤーが少年の動きに集中できるんですよ。
もっと手応え、もっと歯応えを、といった視点で作られたゲームと一線を画しているのがココ。ゲームシステムにも優しさを感じますね。
副交感神経を活性化してくれる雨音
儚く悲しいけれど優しげなピアノのBGMから、怪物と遭遇したときの緊張感あるBGMへ切り替わると、想像以上にドキッとするんです。サウンドのアタックは控えめで刺激性は薄いのに…。
これはきっと、BGMに含まれている雨音が副交感神経を活性化してくれるから。
しとしと、ぱしゃぱしゃとした雨音というホワイトノイズはもともとリラクゼーション効果抜群で、誰もいない水たまりで跳ねて遊ぶのも、雨宿りさせたままにしても、音がなんとも気持ちいい。
と、緊張から解放された状態になるからでしょうか。怪物たちがこっちに迫ってくるシーンが、映像も音もビビッドではないにも関わらずドキッとしちゃう。この体験はそうそうないなあ…。面白い!
秋の夜長に映画をみる感覚でプレイしたい
『rain』はダウンロード専用ゲームで、お値段は1500円。ゲームのプレイ時間は1周数時間くらいでした。前後編の映画や1冊の小説、5~6巻くらいのコミックを読むのと同じくらいの時間でクリアできます。
この長さがちょうどいい。お手頃な価格、ナイスな雰囲気のリッチグラフィック、ビジュアルノベルのパラダイムシフトとなりそうなテキスト演出、そして翌日に疲れを残さないくらいの時間でエンディングまで迎えられるバランスがいいんです!二人(うち一人は観戦)プレイもまた楽しい
一人でしっとりと遊ぶもよし。パートナーと一緒にやるもよし。子供が遊んでいるのを眺めるもよし。ニコニコ動画界隈でゲーム実況が流行していますが、ローカル実況プレイするのにぴったりですよ『rain』。想像をめぐらしたくなるポイントがいっぱいあるから、行間を読み進めていきたくなります。
また、『rain』はリビングでゲームをするという感覚を思い起こしてくれるゲームなのかも。誰も傷つけない優しいストーリーで老若男女を問わず遊べるゲームだし、「すべては、ココロ動かすために。」という、あのPS3キャッチコピーとの相性が実にいい。クリアしたあとは「あのシーンが」「このシーンも」と話したくなっちゃうんですよね。僕の家みたいに家族が猫だらけの家庭でも。
そういえば物語もイラストもいい絵本って親から子へ、子から孫へと受け継ぐじゃないですか。『rain』もそんなアドベンチャーなのかもしれません。
いまプレイして、3年後に再起動して、5年後に子供と遊んで、PS3の稼働個体が1台、1台と消えゆく時代になっても、Gaikai(PS4が採用するクラウドサービス。過去のゲームをクラウドストリーミングでプレイできるステーション)の力でもって数十年先まで伝えていってほしいタイトルです。
ちなみに、兄弟メディアのKotaku JAPANでは演出美という切り口で、この『rain』を紹介しています。こちらからどうぞ。
本日のインターネット上は、ところにより雨が降るでしょう。
本日、いくつかのサイトに雨が降る模様です。
冒頭でお伝えした『rain』のチームが仕掛けた「あるたくらみ」。公式サイトではその仕掛けを見ることができます。そのほかにも、降水確率が高いサイトがあるらしいので、ネット上を散策してみるのも良さそう。
ちなみに、スマートフォンからの閲覧の場合、ChromeとFirefoxのアプリからの方が降水確率上がるようですよ。
rain[ソニー・コンピュータエンタテインメント]
(武者良太)