iOS 7のアイコンデザイン、どうなんでしょう?

  • author 福田ミホ
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iOS 7のアイコンデザイン、どうなんでしょう?

期待大! だっただけに、若干肩透かしも。

iOS 7、デベロッパー向けのβ版はすでに使える状態になっています。今回はiOS 6まで責任者を務めたスコット・フォーストール氏に代わり、ジョナサン・アイヴ氏が指揮をとって「フラットなデザイン」に一新されました。これについて好き嫌いは人によって人によって違うと思いますが、デザイナーのイアン・ストーム・テイラーさんは、「アイコンがちょっと...」と批判的です。どこがどう問題なんでしょうか?

以下、テイラーさんのブログから許可を得て米Gizmodoに転載された内容です。

「子供っぽい。」iOS 7について、僕が初めて聞いた反応がこれでした。僕も正直、初めてiOS 7を見たときはちょっと「えぇぇ」って感じでした。僕はシンプルさを愛するデザイナーとして、ジョナサン・アイヴ氏の新鮮でクリーンなiOSを楽しみにしていたんです。でも、発表されたアイコンはまるで急場しのぎに作られたもののように見えました。それらの多くは、最初のスケッチがそのままキーノートに放り込まれたかのようでした。

デベロッパーの友人も同じような反応をしていましたが、彼らはその理由を解明しようとはしていませんでした。それは、アプリのアイコンのデザインには、普通の人が考えつかないようなごく細かいディテールが膨大に詰め込まれているからです。ユーザーはそんなディテールに気づかないかもしれませんが、それによる効果は確実に感じ取っているんです。

シンプルでクリーンで見栄えの良いアイコンをたったひとつデザインするだけでも、簡単じゃありません。それを25倍もすれば、ジョナサン・アイヴ氏がスコット・フォーストール氏の後を継いでからの8ヵ月間の仕事はやり切れないほどあります。それによって、いくつか大事なことが見過ごされていたかもしれません。

色使いがイマイチ

正直、これまでのアップルのソフトウェアにもこの問題が長く存在していたと思います。これはハードウェアのデザインであれば、そこまで問題にならない部分です。というのは、アップルの象徴的なグレーのアルミニウムは、周りの環境に応じて違う陰影を見せられるからです。でもソフトウェアにおいては、ぼけたグレーはいつだってぼけたグレーです。

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電卓アプリアイコンは、このイマイチな色使いの好例です。率直に言って、この色はまるでWindowsのMetroから引っ張り出してきたかのように見えます。それは良いことじゃありません。

デザイナーのコミュニティサイトDribbleで、UIデザイナーのジャッキー・アンがもっと見た目的に魅力的なアイコンを提案しています。オレンジの色みをちょっと変えて微妙なグラデーションを入れて、ぼんやりしたグレーをなくすと、電卓アイコンは明らかに良くなります。それに、その方がiOS 7全体のトーンともより良く調和します。

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この色相の反対側には、電話やFaceTime、メッセージアプリがあって、こちらはすごく彩度が高く、コントラストの低い色を使っています。僕の高校の先生だったら「チューブから直接出したような色」、つまり何も考えないで絵の具の色をそのまま使ったような色だって指摘しそうです。

純粋な真っ黒があまり使われないのと同様、「チューブから直接出したような色」も避けるのが普通です。品がなく、安っぽい感じに見えるからです。

ファッションの世界では、お洒落な若者がネオンカラーの服を着ていた時代もありました。でも今はそうじゃありません。

メタファーの使い方

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連絡先アプリアイコンにも、ちょっと問題がありそうです。まず色がぱっとせず、ここでもぼけたグレーが使われています。

でもさらに大きな問題は、ここでもアドレス帳のメタファーが使われてるってことです。今回のiOSでは、ジョブズやフォーストール氏が愛した不要なSkeumorphism(アナログの事物の意匠をデジタルで使うこと)を取り除くことが大きなポイントだったはずです。見た感じ、連絡先アプリの中ではそれがほぼできているのに、唯一アイコン上にはその名残が残っていました。

アドレス帳なんて、過去10年間にリアルで目にした人がいるんでしょうか?

で、僕自身連絡先について良いアイデアを思いつこうとしたんですが、できませんでした。そして気づいたのは、僕は連絡先アプリを使ってすらいないってことでした。もうずっと前に、「ジャンク」フォルダに入れたっきりでした。

だって誰かに電話するとき、僕は電話アプリを使います。友達の様子を見たいときはFacebookアプリを使います。そして、友達のリストを整理したいときはBrewsterみたいなアプリを使います。だからもしアップルが連絡先アプリを削除してしまっても、僕は気づかないでしょう。これについては後述します。

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Skeumorphismに関していうと、メモアプリでもメモ帳のデザインが残されていますが、これはどうなんでしょうか? 今回iOS 7では、従来のそれなりにちゃんと作られたアイコンをやめて、メタファーの扱いはそのまま、意匠だけOmniGraffleのスケッチみたいなものに変更しています。

僕は、必ずしもメモ帳が悪いとは思いません。Squarespace Noteアプリのデザインが良い例だと思います。ちょっとSkeumorphismが入ってますが、同時にごくシンプルなものに仕上がっています。

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それからビデオアプリアイコンも、Skeumorphismを使いつつあまり役に立っていないままです。僕の中では、この白黒ストライプと動画が結びつかないんです。それで気づいたんですが、このストライプは映画と結びつくものであって、動画一般じゃないんです。

もしこのデザインを変えられるとしたら、「再生」アイコンを入れるべきじゃないかと思います。Dribbleで、Graph Conceptsが提案しています。それはYouTubeやVimeoといったサービスを通じてみんなが慣れ親しんだアイコンです。これこそ、「動画!」ということがより早く伝わる表現だと思います。

デザイン言語に一貫性がない

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新しいカメラアプリアイコンは、新アイコンの中でも僕が一番気に入らなかったものです。なぜなら、iOS 7全体のデザイン言語との一貫性がないからです。iOS 7全体では不要なものを極限まで排除しようとしているのに、ここでは余計な細かい線やフラッシュ、小さなボタンまでがきっちり書き込まれています。

余計な要素が書かれてるだけじゃなく、ロックスクリーン上のカメラアイコンとも違うものなんです。どうしてでしょうか?

実は僕は従来のカメラアイコンが好きでした。美しく幾何学的で、抽象化されていました。Skeumorphicじゃなくて、カメラの反対側にあるハードウェアを(初代iPhoneのアルミニウムのケースでは特に)きっちり表現していました。まるで、背面のカメラを魔法で操作しているみたいでした。

そんな「魔法」が、新しいカメラアイコンでは使えなくなってしまいました。このアイコンは、「保存」のアイコンとしてフロッピーディスクを使っているのと同じです。自分が操作するハードウェアを元にしたデザインじゃなく、昔のカメラの絵が使われてるんです。

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それからリマインダーアプリのアイコンも残念です。というか、このアプリ自体が残念な存在です。Siriで無理やり新しいリマインダーを作ったりしない限り、このアプリ自体、使ってみてメリットを感じることがありません。

リマインダーアプリは、アップルが今回はリデザインできないと見限った存在のように感じます。というのはこのアプリは、iOS 7においていまだにニセ紙のテクスチャーを使っている唯一のアプリだからです。リマインダーって素早く使いたいものなので、昔ながらの紙を思わせるようなものであってはならないはずです。

そしてアイコンもぱっとしません。グリッドシステムの犠牲になっています。要素が適当にグリッド上に並んでいるだけで、デザインに関して明確なディレクションがなかったようにすら感じられます。僕らがアップルに期待するクオリティに届いていません。

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一貫性がないと言えば、ゲームセンターアイコンも、どういうことなのかわかりません。アップルは全てにおいてツヤ感のあるデザインを排除しましたが、ゲームセンターアイコンにだけはこのキラキラしたガラスの球体みたいなものが残っています。これが「ゲーム」のメタファーに最適なら納得も行くんですが、そうは思えません。

そもそもなくていいアプリ

上に書いた連絡先アプリみたいに、デフォルトのアプリでもうやめた方がいいものがいくつかあります。って、そこまで言うともうアイコンのデザインの話じゃないように思われるかもしれませんが、この種のアプリは(おそらく)デザインの過程でも軽視されているので、それがアイコンのデザインにもにじみ出てしまってるんです。

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まず、株価アプリがそのひとつです。このアプリは、株価をつねにチェックしたいような人のニーズを満たすものになっていないのに、数年間削除もされず残っています。これまで、この株価アイコンが美しかったことはありませんでした。他のグラデーションとかツヤ感の後ろに隠れて、誰にも気づかれなかったんです。

でも今、iOSが「フラット」になり、後ろに隠れにくくなりました。新しいダークなアイコン上のチャートの線は、リマインダーやメモアプリと同様に弱々しいものです。そしてここで使われている色は、アプリ内で使われている緑や赤じゃなく、なんでかライトブルーです。

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またiTunesも、意識の中に存在しないアプリです。このアイコンから丸を取り除いたら、ミュージックアプリと色違いになるだけです。なぜかって、音楽目的でiTunesアプリ内ですることはすべて、ミュージックアプリにあるべきだからです。同様に、ビデオ関連の全てはビデオアプリにあるべきです。そんな風に、iTunesアプリの中には何のコンテンツも残らなくなります。

うまく行っているデザイン

ここまで散々に書いて来ましたが、いくつかのアイコンではデザインが成功していると思います。新しい美しさと、そのアイコンが表すアプリの精神の間のバランスをうまく取れているものです。全部が全部ダメって言いたいわけじゃないんです。

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ベストアイコンのひとつは、ミュージックアプリのアイコンです。「これもネオンカラーじゃん!」と思われるかもしれませんが、それはまあその通りです。

でもミュージックアプリでは、正しい色を使っていると思います。これは「チューブから直接」じゃなくて、慎重に選ばれています。このピンクがかったオレンジは、MTVやVEVOやテイラー・スウィフトをうまく喚起させていて、「音楽」らしさを感じさせます。

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カレンダーアプリアイコンも成功例のひとつです。従来のアイコンは多分iOS 6では最悪のデザインだったと思います。そしてそれは、白でハイライト、黒で影という色使いによる部分が大きかったと思います。

一方、新しいカレンダーアイコンはシンプルながら、今日の日付を表示するという仕事をきっちり果たしています。

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日付を表示、と言えば、時計アプリアイコンではついに現在時刻を表示するようになりました。アイコン自体はiOS 6からのマイナーチェンジですが、細かいながらも丁寧に変更されています。時計中央のムダな黒丸がなくなり、ツヤ感も消え、針が細くなり、文字盤のフォントはHelveticaになって他のインターフェースとそろいました。完ぺきです。

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他にも、ホームスクリーンにはないけど美しいデザインのアイコンがいくつかあります。僕は上の3つをApple.comのプロモーションサイトでしか見つけられませんでした。これらはみんな美しくシンプルで、幾何学的な形とクリーンな線でできています。アップルがこんなクオリティをiOS 7の正式公開までに他のアイコン全体に広げてくれるなら、うれしいことです。

拡張の機会を逃したもの

僕は環境に合わせて変化することで利便性をもたらすようなアイコンが好きです。それが何かっていうと、たとえば時計とかカレンダーですが、この考え方は他でも応用できると思います。

たとえば株価アプリアイコンがそのひとつです。自分が登録してる銘柄の株価の変化を、アイコン上で表示してはどうでしょうか? さらに、登録してる銘柄が上がっていれば緑になり、下がっていれば赤になるとか。そうすれば、アプリを開かなくてもパフォーマンスを大体把握できるようになります。目的を持った色使いです。登録してる銘柄がない場合は、S&P 500みたいな代表的な指標でもいいです。

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ニューススタンドアプリも一例です。iOS 6ではこのアイコンをフォルダに入れられないってことで悪く言われてましたが、ユーザーが選んだコンテンツによってアイコン表示が変わるってところがユニークで興味深かったです。新しいアイコンでは、伝統的っぽい雑誌の表紙デザインが使われていますが、「ニュース」の未来を表しているとは言えません。

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同様に、他のアイコンももっとパーソナルにできるはずです。ミュージックにしてもビデオにしても写真にしても、最後に聴いたアルバムのカバーとか、最新のビデオ、写真を表示するとか、できると思います。これらのコンテンツは見栄え的にも十分なアートワークになっているはずです。それらによって、ホームスクリーンがもっとパーソナルになります。(Windows Phoneでも同じようなことができますが、だからってアップルが同じことしちゃいけないってわけじゃないと思います。)

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さらに思いのままに書くと、カメラアプリのアイコンが従来通りレンズ的なデザインで、そこには最後に撮ったものが映っているってのはどうでしょう? 便利かっていうとそういうメリットはありませんが、楽しくはなります。

iOSのアイコンデザインをしている人たちの中に、もっと異端児とか反逆者とか、トラブルメーカーがいたらいいんじゃないかと思います。

でもきっと、未来は明るい

最初は、このアイコンデザインがiOSのデザインの方向性全体をダメにするんじゃないかって、かなり暗い気持ちになりました。でも今はiOS全体を見て、それほど心配はしていません。

たしかにアイコンにはイマイチなものがいろいろあるんですが、iOS 7全体はすごくよくできていて、インタラクションのデザインが素晴らしいんです。アイコンデザインとインタラクションデザインどっちか選べと言われたら、僕はインタラクションデザインを取ります。

思うに、アイコンの役割はアプリの精神を伝えることにあるんですが、iOSのアプリの多くは今もリデザインの途上です。それは、少なくともiOS 8で完成するような大きなリデザインです。なので今はまだ、完ぺきなアイコンを求めるべきじゃないんだと思います。

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これから興味深いのは、デベロッパーが新しいiOSにどう合わせてくるかってことです。RdioとかBrewsterのアプリはすでにiOS 7ライクに、ミニマルでクリーン、エアリーになっています。

アイコンに関して言えば、デベロッパーはアップル以上に経験豊富です。彼らの成功はアイコンが押される回数に比例しているので、アイコンの完成度を高めようとたくさんの時間を費やしているからです。たとえば、時間ごとの予想気温を色で表示するアプリのBlueがアイコン表示も変化できるようにしたら、どんな面白いことになるでしょう?

Ian Storm Taylor(原文/miho)