天才プログラマーの突然の死に全ネットが泣いています。
14歳でRSS 1.0を共同編集し、Creative CommonsとReddit立ち上げに加わり、公文書公開、図書館無料アクセス解放、ネット検閲に反対するオンライン活動団体「Demand Progress」共同創業者としてフリー(無料、自由)なインターネットのため闘い続けたアーロン・シュワルツ(Aaron Swartz)が金曜、NYブルックリンの自宅アパートで首を吊って死んでいるのが見つかりました。
26歳の若さでした。
氏が創業したInfogami社は後にソーシャルニュースサイト「Reddit」と合併したため「Reddit共同創業者」の肩書きでも知られます。
2011年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)のデータベースJSTORに「違法」にアクセスし学術論文約400万件をダウンロードし、「P2Pファイル共有で無料で配り不当に利益を得ようと企てた」として有線通信不正行為、コンピュータ不正行為、不正アクセスによる違法な情報入手、 コンピュータ破損などなどの疑いで逮捕されていました。
本人は2012年9月に出廷し無罪を主張。
しかし主張はまったく受け入れられず、損害賠償100万ドルの支払いを巡る裁判の日が間近に迫っていました。その弁護費用で資産が食いつぶされても友だちにも相談できずにひとり悩んでいたようだ、とハーバード大学ローレンス・レッシグ教授は話しています。
自殺の直接の動機はわかりません。個人ブログには元々うつに悩んでいたことも綴られています。2007年にRedditがコンデナストに買収されると、傘下のワイヤード編集部に事務所が移転したんですが、オフィスライフに馴染めず長めのクリスマス休暇とって戻ってきたら辞任するよう求められた、という辛い経験もありました。その時も「自殺まで考えた」と書いています。
が、遺族は「マサチューセッツ検察とMITが彼を追い詰めた」と声明を出し、国にも責任の一端があると主張しています。
アーロンの死は単なる一個人の悲劇ではない。脅迫、行き過ぎた検察追求がはびこる刑事司法制度がもたらした帰結であり、マサチューセッツ連邦検察局ならびにMITも彼を死に向かわせた原因と無縁ではない。
米連邦検察局は異常に厳しい刑事起訴を数多く行い、場合によっては懲役30年を超える重刑となる可能性もあった。犠牲者がひとりもいない犯罪にこれだけの訴追を行ったのである。
なのにMITはJSTORと異なり、アーロンと自らの貴い学風を守るため戦うことすら拒んだのだ。(遺族の声明より)
Creative Commonを立ち上げた頃からのつき合いで、この一連のプロセスを友人としてそばで眺めてきたハーバード大学ローレンス・レッシグ教授(同じハーバードなので利益相反で途中で弁護の降板を余儀なくされた)も愛弟子の死に無念をにじませ、「検察のやったことはまるでいじめだ」と追悼記事で怒りをぶちまけています。
アーロンが「金儲け」のために動いたことなんて文字通り一度もない。[...]
金融危機を画策した張本人らはお咎め無しで、自分の過ちを認める必要もなし。ましてや「重罪人」とレッテルを貼られることもないまま、ホワイトハウスで定期的に晩餐だ。
そんな世界でなぜアーロン・シュワルツのような人が「重罪人」のレッテルを貼られなければならなかったのか。政府にはきちんと回答を出してもらわないと気が済まない。 [...]
懲役50年、これが政府の求刑だ。「自分は正しい。だからあんたに原爆落としてもいい」という我々の時代のこの倫理観はもうどうしようもない、なんとかして克服しないと。そのためにもまず必要なのはこの言葉だ。「SHAME(無念、慙愧の念、恥)」。
そして、この止まらぬ涙。
MITのThe Techが土曜未明に初報を伝えるや否や、ネットには生前のアーロン・シュワルツを偲ぶ声が沢山寄せられました。
14歳で親元離れてサンフランシスコのXMLプログラマーのもとに彼が転がり込んできた時からずっと見守ってきたBoingBoingのコーリー・ドクトロー(Cory Doctorow)共同エディターは「寝起きに知ったばかりで全く消化し切れていないが、何か書いて出さないと。アーロンは話題の中心にいるのが好きなヤツだったからね」と、真っ先に長い長い追悼記事を出しました。そこには本人から生前送ってきたというメールも転載されているのですが、才気溢れる若者の言葉が迸るままに書かれていてすごいです、神がかってます。
ちょうど自殺の2日前にはJSTORがアーカイブを一部無料で公開したばかりでした。たぶんこれもアーロン・シュワルツの行動と無縁ではありません。
悲報を受けJSTORは、「当人とは既に和解が成立していました。我々も彼の死を悼む皆さんと気持ちを同じくするものです」と声明を発表しています。JSTORがもう良いと言ってるものを国は何が気に入らなくてあんなに執拗に食い下がっていたんでしょうね...。
訃報を伝えるニュース
「Freedom to Connect」カンファレンス2012でSOPAについて語るアーロン・シュワルツ
若き天才の心には「情報はフリーになりたい」という天啓だけが鳴り響いていたのかもしれません。謹んでご冥福をお祈りしたいと思います。
[Image via Daniel J. Sieradski]
satomi(Taylor Berman/米版)