「レコード音楽は無料であるべき」と考えるGroovesharkの「6つの理由」

  • author 福田ミホ
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「レコード音楽は無料であるべき」と考えるGroovesharkの「6つの理由」

どんな曲も無料! で聞けるサービスの考え方は、どんなものでしょう?

利用されてる方も多いと思いますが、Groovesharkほとんどどんな曲でも無料でストリーミング再生できるサービスです。日本の曲も新旧とりまぜ無数に入っています。

ユーザーにとってはうれしいサービスですが、大きな問題がひとつあります。楽曲の著作権を持つアーティストやレーベルに対し、Groovesharkはライセンス料を支払っていないのです。ライセンス料が支払われないということは、ある曲が何千回、何万回も再生されても、その曲のミュージシャンや、そのミュージシャンが属するレーベル、それを作った作詞家・作曲家といった人たちに対し1円もお金が支払われないということです。

そんなサービスの成長を音楽業界が黙って見ているはずもなく、Groovesharkは今メジャーレーベルから訴訟を起こされています。でも、彼らには彼らなりの主張があるようです。デジタル音楽の話題を扱うサイトEvolver.fmのエリオット・ヴァン・バスカーク記者がGroovesharkの共同創業者でCEOのサム・タランティーノ氏にインタビューを行い、その主張を以下の記事にまとめていましたので、ご紹介します。

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ほとんどどんな楽曲もストリーミング再生できるサービスGroovesharkは今、四面楚歌状態に陥っています。唯一のメジャーレーベル・EMIとの契約が破棄されただけでなく、4つのメジャーレーベルすべてから訴訟を起こされています。レーベル側は、Groovesharkの行為は大規模な著作権侵害にあたると主張しています。

現在、Groovesharkでは月間3000万人のユーザーが楽曲データをアップロードしたり、それを無料でストリーミングしたりしています。それらの楽曲のほとんどは、アーティストからもレーベルからも音楽出版社からもライセンス許諾を受けていません。

先日、13日の金曜日、状況をさらに悪化させる出来事がありました。インディーズミュージックをiTunesなどに配信するTuneCoreの創業者でCEOのジェフ・プライス氏が、Groovesharkを痛烈に批判したのです。プライス氏自身もメジャーレーベルのあり方には批判的な人物なのですが、Groovesharkについては自社ブログで以下のようにポストしました。

「Groovesharkは頭から腐っていく魚だ」とプライス氏。「運営している人間に倫理観がなく、自分たちが儲けるために誰か、または何かが傷ついても気にかけていないんです。彼らに比べたら、メジャーレーベルも聖人みたいに見えます。私の立場から見ると、Groovesharkで真剣に働きつつ、本当にミュージシャンや作曲家のことを思っている人なんて、すごい妄想か妄信で現実を見失ってるんじゃない限り、存在しないと思います。」

うーん...。

同じ日、僕はGroovesharkの共同創業者でCEOのサム・タランティーノ氏をマンハッタンのオフィスに訪ねました。彼はギターを爪弾いていました。彼はEvolver.fmに対し、「なぜ彼の会社がしていることはずるくないのか」についてインタビューを行うことに同意していました。

現在、GroovesharkはWebアプリとして利用でき、それはユニバーサルなHTML5で書かれているのでほぼどんなスマートフォンでも使えます。ダウンロードして使うアプリはiTunesからもGoogle Playからも閉めだされ、他の同様のストアにもありません。タランティーノ氏によれば、Groovesharkはフロリダ州ゲインズヴィルに60人、ニューヨークで16人の従業員を雇い、そのほとんどは広告部門に所属しているそうです。

サム・タランティーノ氏は、大学をドロップアウトしたあと、19歳で友人のジョシュ・グリーンバーグとともにGroovesharkを創業しました。彼は飛行機での出張前の1時間近くにわたり、このインタビューで自社のアプローチを擁護し続けました。

以下6点が、タランティーノ氏が考える「レコード音楽が(Groovesharkのように)無料であるべき6つの理由」です。

1.レコードレーベルの要求する金額は多すぎる

タランティーノ氏によれば、Groovesharkはユーザーが不要な音楽を相互に売り買いするためのサービスとして始まりました。つまり、売買が成立して楽曲データが買い手側に送られると、売り手側のハードドライブからは消去されるというものです。でもiPhoneが世に出ると、彼はすぐに「音楽の未来はダウンロードではなくストリーミングにある」と確信しました。

「そこからバイラルで広がっていったんです」とタランティーノ氏。でも楽曲をストリーミングさせるということは、デジタルデータをユーザーからユーザーに完全に移動してしまうというそれまでのモデルとはまったく違います。手続き的に、レーベルからのライセンスが必要なはずです。

その頃、彼と共同創業者のグリーンバーグ氏はGroovesharkをフロリダ州ゲインズヴィルからシリコンバレーに移転させようと考えていました。でも結局そうしませんでした。レーベルからのライセンスには費用がかかりすぎると考えたのがひとつの理由でした。

こんな会話をしたのを覚えています。「シリコンバレーに移転しなきゃいけない。すべてがシリコンバレーで起こってるんだし、僕らはきっとそこに行く」と。その後、そうする意味がなくなったんです。Imeemも出てきたし、PlaylistとかLalaとかSpiralFrogとかQtraxとか、いろんな競合が出てきました。僕らは「この分野に投資されすぎてて、意味がない。ストリーミングされるごとにレーベルにライセンス料を払う仕組みは、機能しない。もうすぐ何かが崩壊する」ってね。だから、「このままここにいよう。それなら少なくともコストは抑えられるから」

タランティーノ氏によれば、お金がライブイベントにシフトしているこの時代にあって、レーベルたちはレコード音楽という間違ったビジネスに注力しています。もちろん、何十年ものレコーディング契約はアーティストがその音楽をレーベルに売り、レーベルがその音楽を販売することで建前上は両者が儲けられるようにするという考え方に基づいて作られています。それは短期的には崩せないものです。それでもタランティーノ氏は、音楽業界はなるべく早くレコード音楽販売の業態から脱皮するべきだと主張しています。

2.ミュージシャンはツアーで稼げるはず

タランティーノ氏は、自分はアーティストの視点から物を見ていると言います。そしてアーティストにとっては、レコード音楽はどっちみち儲からないと言います。

僕はこの問題をミュージシャン視点で見てきました。最近のジャスティン・ビーバーの曲を知ってますか? レコード音楽では、曲の売上をロイヤリティとして分け合うんです。ビーバーの「Boyfriend」は累積で4番目のベストセラーですが、ロイヤリティの分け方を見てみると、どうなんだろうと思います。レーベルに39万ドル(約3200万円)で、これだけがまともな金額ですが、あとはiTunesに20万ドル(約1600万円強)、そしてビーバー本人にはたった8万3000ドル(約670万円)、残りの作詞家・作曲家とかが2000ドル(約16万円)くらい、という取り決めになっています。

一方、ビーバーのツアーを見ると、その売上は5200万ドル(約42億円)くらいあります。それでつい「史上4番目のベストセラーアーティストの稼ぎが10万ドル以下で、しかもレーベル側から(売れる前の先行投資を埋めるために)中抜きもされてるとしたら...」って考えてしまいます。配信するiTunesが、アーティストの2倍も稼いでいるんです。でもこの先10年で(販売店が得る)インセンティブは横並びになり、楽曲が無料化されるのは必至です。どの店でも同じものを売っているからです。音楽産業としてみれば、消費者の財布のシェアをツアーの100ドルで取るか、CDの100ドルで取るか、気にする必要はないんじゃないでしょうか?

とはいえ、ツアーで収入を得る人たちは基本的にレコード音楽で収入を得る人たちとは違います。「360°契約」、つまりアーティストの収入のすべてに関して一定の割合でレーベル側が収益を受け取れる契約もあり、その契約の下ではレーベルが音楽出版社でもありプロモーターでもあり、マネージャーやブランドライセンサーでもあるのですが、その形態は比較的新しいものです。その点がタランティーノ氏の次の主張につながります。

3.音楽業界は動きが遅すぎ、一部はもう破たんしている

タランティーノ氏は音楽産業全体が360°契約に移行すべきだし、いずれそうなると考えています。そうなるとアーティストは、自分の演奏のレコーディングを売るだけでなく、その出版権やライブの収入や関連商品売上の一部、そしてブランディングの機会もレーベルに販売することになります。

その対価としてレーベルはより大きな先行投資を行い、アーティストの開発により多くの時間を割くはずです。レコード音楽の売上やサブスクリプション以上に大きな利害関係が発生するからです。

まず、彼はレーベルの考え方はわかっていると言います。

レーベルの抱えるコアな問題は、僕は必ずしも理解しなくもありません。というのは僕もその歴史を知っているし、その怖さも理解しています。MTVやアップルが音楽業界を傷つけてきて、そこにはつねに技術との対立関係がありました。わかります。でも根本的には、もし2000年の時点で音楽業界がビジネスを変化させてプロモーターを集め始めていたらどうなっていたでしょう?

たしかに、そうなっていればもっと早くライブ音楽に関わることができたし、360°契約にももっと早く取り組めたでしょう。でも、後からは何とでも言えることです。レーベル側は結局それをしなかったのですが、タランティーノ氏はライセンス契約をしようとした経緯について語りました。

問題のひとつは、当時僕が20歳で、僕のサービスもユーザー1万人程度だったってことでした。そんな僕が「みなさん、ライセンスとか、やりましょう、協力しましょう。僕らはあなたたちがA地点(レコーディング)からB地点(360°契約)に移る手助けをしてあげますよ」という感じでした。そしてレーベル側も同意はしたんです。「うん、我々も360°モデルに行こうとしてて、最終的には全体から少しずつもらうようになるんだ」と。

でも彼らは僕をオフィスから追い出して、「もっとユーザーがいるんなら、真面目に取り合ってやるよ」と言ったんです。だから10万ユーザーになったときに行ったら、「まあこれは面白いけど、きみのモデルがうまくいくかどうかわからないね」という感じだったんです。

てか、僕は起業家です。ノーという回答は受け取らないで、ドアが開かれるまでノックし続けますよね? だから200~300万ユーザーになったときに行ったら、「お前らは著作権侵害の悪人だ」と。こっちとしては、「最初に話を聞かなかったのはそっちじゃないか、ユーザーを増やせと言ったのはそっちじゃないか?」って思います。

僕らはEMIとの契約を100万ドル(約8100万円)以下で締結したんですが、今までに僕らが支払った金額は全部で約250万ドル(約2億円)、だいたい1ヵ月20万ドル(約1600万円)です。でもユニバーサルがEMIを買収するって話が急に起こって、「もうお前らの月20万ドルはいらないよ」みたいなことになったんです。

EMIはメジャーレーベルの中では最小だったので、250万ドルという金額は、もし全レーベルであれば2500万ドル(約20億円)くらいの規模だったでしょう。そこまでカバーするとしたら、Groovesharkはベンチャーキャピタルからの投資をもっと増やしてもらう必要があったでしょう。でもタランティーノ氏いわく、彼らは広告からのキャッシュフローだけでEMIへの支払いができており、ベンチャーキャピタルからの投資資金(累計400万ドル・約3億3000万円)から出す必要はなかったそうです。

彼の言う問題点を突き詰めると、レーベルが金を多く要求しすぎているということに戻ってきます。彼いわく、レーベル側は市場が生み出せる以上の価値をレコード音楽に求めているのです。一方、仮に2500万ドルのライセンス料が発生したとしても、Groovesharkがレーベルにその金額をただ渡すことに対しては投資家が黙っていないのでしょう。だから、Spotifyの2倍近い月間3000万人以上のサービスになってしまったGroovesharkとしては、ライセンス契約をするという選択肢が取れないのです。

タランティーノ氏いわく、レーベルの売上が過去10年間減り続けている原因は、360°契約へのシフトが遅れているためです。その様子はレコード音楽の価値が大規模な海賊行為などの影響で低下する一途なのと対照的だと言います。

彼らを殺しているのは海賊行為とかじゃないんです。それは彼ら自身が効率良くアーティストを育てたり、関連収入を作ったりできていないからです。(訳注:ユニバーサルミュージックとソニー・ミュージックエンターテインメントが参画してEMIも楽曲をライセンス提供し、広告モデルで運営される音楽ビデオサイトの)Vevoを見て下さい。無料の音楽はもう存在しているんです。それはYouTubeであり、Vevoです。合法的に、YouTubeからどんな曲でも聞けるんだから、彼らの考えを想像すると面白いなと思います。「なんで僕らのことは必至に攻撃するのに、Vevoをサポートしてるんだ?」と。意味不明です。

でもYouTubeとGroovesharkの違うのは、YouTubeでは今Groovesharkが直面しているのと同じ種類の訴訟をすでにくぐり抜けて、最終的に大手レーベルや音楽出版社からのライセンスを得られたということです。さらに、それがあったことでレーベル側は自前でVevoを作ることができたんです。そしてYouTubeといえば、以下のようにGroovesharkの基本姿勢に関わっています。

4.Groovesharkは初期の(訴えられた)YouTubeをモデルにしている

Groovesharkが実現しようとしているアイデアは、YouTubeがかつてしていて、現在も(ライセンスを受けて)していることです。つまり、ユーザーがどんな曲でもすぐに聞けるようにするということです。

僕らは2007年、iPhone登場の後で、YouTubeは誰でもすぐに動画が見られるという点で優れていると考えました。動画をクリックする、または誰かが動画を送ってくる、するとすぐに見られる。Groovesharkのコンセプトは「なるべく早く、簡単に曲を再生させる」ことにあります。そして、消費者が音楽に対してお金を払おうとする欲求から、ツアーや関連商品やオフラインにあるすべてへの欲求にシフトしていく可能性は無限にあります。

Beatlesの曲はGroovesharkにはありませんが(数少ないフィルターアウトされたバンドのようです)、彼いわくYouTubeのいたるところに出ています。

YouTubeで「Beatles」を検索するとBeatlesのマスターが出ています。でも僕はEMIとの怒鳴り合いで知ったんですが、BeatlesはiTunes以外に出ていてはいけないんです。なので僕らを悪者扱いするのは簡単ですが、YouTubeだって同じ事をしているんです。でもYouTubeはGoogleが運営しているのに、どうして違法なことができるんでしょう?

Beatles以外ではほとんど違法ではなく、というのはYouTubeはほとんどの音楽に関してレーベルや音楽出版社からライセンスを受けているんです。ライセンス契約がないGroovesharkはどうしているかというと、次のように対応しています。

5.Groovesharkは削除勧告には従っている

Groovesharkには、ほとんどすべての楽曲がライセンスなしの状態で存在しているので、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の「セーフハーバー」条項に従っています。セーフハーバー条項とは、ユーザーが侵害的コンテンツをアップロードした際にISPやユーザー作成のサイトの運営者の立場を守るために作られた条項で、Groovesharkのような会社は削除勧告に逐次従っていれば合法とみなされるのです。Groovesharkに敵対する人たちから見れば、腹立たしい点です。

僕らのところには6人います。法律の言い分、それにYouTubeをモデルにしたからには僕らが従おうとしていることを守るには、(特定の楽曲のアップロードを防ぐための)フィルタリングシステムすら必要ないんです。やらなきゃいけないのは、誰かが削除勧告を送ってきたら、それにちゃんと対応して「お咎めなし」にしてもらうってことで、だから僕らはそうしています。

正式なDMCAの通告じゃないものも受け取りますが、そんなときも削除対応しています。あとは最初(の削除通告)でそのユーザーのアップロード権限を止めて、3回目にはユーザーアカウント停止にします。僕らはDMCAの要求以上の対応をしています。でも、急速に伸びている時には、ルールを知らないユーザーがどんどん入ってきます。

そして、削除通告でなくなった楽曲をまたアップロードしてくれるのもそうしたユーザーであることが多いのです。だからGroovesharkでは、Beatles以外ほぼ何でも見つかるのです。

タランティーノ氏は、新しいアプローチで音楽産業全体を「レコード音楽は無料」という考えに転換させようとしています。次の項にその詳細をお伝えします。

6.Groovesharkの広告プラットフォームでは、無名のバンドを3週間で50万ビューに育て上げられる

Groovesharkは15グループほどのバンドをサービス上でプロモートして、それを一種のショーケースにしようとしています。その目的は、「レコード音楽自体は売り物ではなく、チケットや関連商品を見せるためにある」とレーベル側に示すことにあります。

今僕らのところには3000万人のユーザーがいますが、誰も僕らに「うちのアーティストをここに連れてきて、2000万ドル稼ぐツアーを裏で企画しよう」とか言ってきません。僕はそれをやろうとしています。「Quiet Company」という全く無名のバンドで、これをケーススタディとして音楽産業に見せようとしています。彼らはオースティンのバンドで、ストロークがすごく強くて、良いバンドです。彼らのエンゲージメント広告を打ちました。ユーザーがGroovesharkを1時間以上使っていたら、1回は見るようにしました。内容は完全にミュージックビデオ広告です。反応は圧倒的にポジティブなもので、これで離れていくユーザーはいません。

だからエンゲージメント広告をQuiet Companyで始めて、僕らはもう他の15アーティストともやっています。Quiet Companyのビデオでは3週間で50万ビューを生み出しましたが、その前は1000ヒットくらいしかなかったんです。僕らが10倍の規模になれば、3週間で500万ビューです。とんでもない数です。

僕がチャンスだと思うのは、多くの場が空きのままになっていることです。ユーザーは、ライブで聞きたいバンドに対してお金を払いたがっているんです。そしてそのチャンスを生かすために必要なのは、そんなユーザーの目をなるべくたくさん惹きつけるための無料の音楽なんです。音楽だけでもなく、全部です。

古いメディアは物事を制限する方向に考えます。「リリース日まで、どうすれば何も出さずにいられるだろうか? 何かエクスクルーシブにしようか?」テクノロジーの世界では、スケールが問題です。「どうすればなるべく多くの人に届けられるだろうか?」これはまったく違うマインドセットで、だから古い世界と新しい世界との間で衝突が起こるんです。

以上が「レコード音楽が無料になるべき」6つの理由です。彼の描く世界では、6番目の「理由」で彼が証明しようとしていることを以て、Groovesharkは完全に筋の通った存在になっています。

とはいえ、その世界が実際我々の住む世界かどうかは、まったく別の問題です。

[Evolver.fm]

Eliot Van Buskirk - Evolver.fm(原文/miho)