「その部品がなければ、ロケットは飛ばない。」
2010年に刊行され昨年夏にはドラマ化もされているこの作品をなぜ今頃...、なんて言わないで! 第146回直木賞(2011年度下半期)が発表の今日、あえて前回受賞作品に焦点をあてます。
池井戸潤さん作の「下町ロケット」は、ガジェット好きならば手に汗握り、ページを繰るのももどかしく感じる胸が熱くなる小説。いわば、ギークな大人の青春小説です。主人公の佃航平は、精密機械の製造を請け負う佃製作所の社長。父親の死をきっかけに家業をついだのだが、前職はなんと宇宙化学開発機構の研究員、しかも専門はロケットエンジンであった。
かつて最新テクノロジーで大気圏の遥か向こうを見ていた彼だが、今は中小企業の経営者として山積みな問題のせいで一寸先も見えやしない。得意先からの急な取引停止、ライバル企業の嫌がらせ、社内の反発、銀行からの嫌みと資金繰り、さらには技術特許に関する裁判。テンテコマイだ! しかし、そこにロケット開発に取り組む超大企業が、佃製作所が保持するロケット技術の特許に目をつけた! 山積み問題を解決するためには経営者として考えるべきか、技術者として考えるべきなのか。特許を売るべきか、特許使用許可で儲けるべきか? それとも...。
佃製作所の未来は、日本のロケット開発の未来はこの技術にかかっている。
「その部品がなければ、ロケットは飛ばない。」のだ。
「下町ロケット」の魅力は、物作りをする開発者達の夢とアツさ。しかし、真の魅力は、その下にある特許の大切さにあると思います。特許とは技術者にとって我が子も同然。普段「特許」なんて意識したこともない素人でもわかるように、技術開発においての特許の重要性・良い特許と悪い特許の違い・特許によるビジネス等が、実にわかりやすくエンターテイメント満載で書かれています。
読後感爽快の小説ですから、リアル開発者ならストーリーに対して「こんなことない! 都合良すぎ!」と思うかもしれません。しかし、そこは小説ですもの。読書というエンターテイメントの1部を担う本には、主人公が勝利する愉快痛快ストーリーも時に必要不可欠です。むしろ、事実は小説より奇なりというくらいですから、現実の開発の場ではもっと驚くドラマが日々起きているのかもしれませんね。
ガジェット界で最も巨大なガジェット、ロケット。ガジェット好き技術好きなら実に楽しめる小説だと思います。まだの方は是非!
最後に、心に残った箇所をいくつか引用します。
それは、キーデバイスに関する技術で先を越された会社のいうことじゃない。
ウチは日本の会社なんだし、外国のロケットではなく、国産のロケットに搭載されてしかるべきじゃないんですか
知的ビジネスで儲けるのはたしかに簡単だけども、本来それはウチの仕事じゃない。(中略)いったん楽なほうへ行っちまったら、ばかばかしくてモノ作りなんかやってられなくなっちまう
どんな会社も設立当初から大会社であるはずはない。ソニーしかり。ホンダしかり。土壇場で資金繰りにあえいだことさえある中小企業が、誰もが認める一流企業にのしあがったのには理由がある。会社は小さくても一流の技術があり、それを支える人間たちの情熱がある。
ほらね、読みたくなってきたでしょ?
[下町ロケット]
(そうこ)