左が新素材「Zetix」、右は一般の防弾繊維。
車爆弾を何回か爆破させた実験結果ですけど、「Zetix」は穴ひとつ開いていません。
どういうことなんでしょう?
「Zetix」は爆弾のエネルギーを吸収し、分散させる、内部構造になっています。防弾窓や防弾チョッキ、軍用テント、ハリケーン防止壁はもちろん、僕の別れた奥さんからも守ってくれそうです。爆弾の心配のない平時には、医療用の縫合糸に使うと筋肉を傷めないようですよ?
それもこれも物理法則に挑む、特殊加工の賜物。「Zetix」は縦に引っ張ると横にも膨らむ「オーセチック (Auxetic)繊維」の原理を応用した新素材なのです。
「そんな馬鹿な…ゴムも水飴も紐も引っ張ると細くなるんじゃ?」
むー、僕らも考えると頭の方が爆発寸前ですけど、まあ、以下でちょっと詳しく見てみましょう。
「Zetix」の構造を理解するには糸の動きを考えるのが一番です。命綱を括り付けて橋からバンジージャンプすると、体重に重力がかかってビョ~ンと下に伸びますよね? このとき命綱の糸はギューーーッと真ん中に寄って長く長く伸びようとします。
でも命綱の周りに紐をグルグル巻きつけたらどうでしょう? 突如ロジックが反転するんです。つまり伸びれば伸びるほど全体構造は太くなる。ご覧の画像のように命綱の周りの紐がピンと張り詰め、中の綱が外側に…曲がっていくんでございます。これがいわゆる「helical-auxetics」の原理。2つの繊維を一緒にすると、横にも縦にも広がるオーセチックな構造が生まれるというわけですね。
ミクロのレベルで想像してみてください。螺旋に絡まる糸を何千本も織り込んだ布…すんごく強そうです。車爆弾の衝撃でも破れない「Zetix」の世界がイメージできると思います。(オーセチック繊維のさらに詳しい解説はこちら)
この新素材を考案したパトリック・フック(Patrick Hook)博士は、カーレースのエンジニアからアカデミアに戻って英国のエクセター大学で繊維を学んだ人です。実用化目指して新会社Auxetix Ltd.を立ち上げました。今回ギズモの取材にこう語ってます。
「大体の防弾は1回の爆弾に対処する能力しかありません。一度使ったら防御の要の部分は全て失われてしまうのです」
なるほど。最初の写真でもそれは分かりますよね。氏はテロ対策や防弾以外にも、保護が長持ちするので救助活動とかでは人命救助の時間が稼げるし、ハリケーンなどの自然災害にも応用できると話しています。
「Zetix」のもうひとつのメリットは安価なコストで、ほかの耐爆性繊維は丸ごと高性能素材という製品が多いのですが、「Zetix」が高性能素材を使うのは非常に限られたパート。高品位なものを「比較的安いコンポーネント」と1対100の比率で組み合わせて、コストを抑えながら、防弾の強度を維持しているのです。しかも1回で用済みじゃなく何度も繰り返し使えるんですから、とんでもないコスト差です。
ハリケーンやトルネードに備えて最寄りのホームデポ(米国の大手DIYチェーン)で買える日はいつになるものやら…。iPhonhttp://www.gizmodo.jp/2007/04/ipod_17.htmleやWiiリモコンをパンツにしまいたがるチェン記者なら100%「Zetix」のパンツとか飛びつきそうですけど、大量生産に向け現在、複数のメーカーさんと交渉中とのことです。
[Auxetix]
JESUS DIAZ(原文/訳:satomi)
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