年末年始というと、大体何かしらの場所でダイハードな皆様が爆破事件に巻き込まれたり阻止したりカチコミしたりしている時期ですが、『Chicken Police – Paint it RED!』のニワトリ刑事(デカと読む)であるサニーの年末も、例にならって穏やかにとは行かないようです。見た目はヘンでもハードボイルドな『Chicken Police』の世界は、シリアスをキープしつつも動物的ユニークな表現が満載です。大晦日の夜に最後のタバコ一本しかお供がいない、そんな「鳥生」の時には本作は益々お薦めですよ。
Dialogue/World of Wildness
人間が存在せず動物たちが文明の中で暮らしている世界は近年の作品でも人気があり、ストレートでは厳しい人種的ステレオタイプやカリカチュアを表現しやすいので、社会的風刺を効かせた作品も多いです。人間がいない作品で大変なのが「人」という言葉を使わずにどうやって表現するかという点です。特に日本語だとあらゆる熟語や慣用句に「人」が含まれているので、英語では通じる部分もそのままとはいかず、それらをどう回避するか、あるいは動物らしい表現に変えるのか、翻訳では結構悩む部分です。
例えばハードボイルドものには欠かせない「Life」という単語。何もなければ「人生」を充てても問題は無いですが、本作ではサニーは「鳥生」ナターシャは「猫生」とし、種族それぞれに合わせて書き換えていました。一方その都度の場合だと共通項としての「Life」の意味が薄れてしまうので、「獣生」だと広い範囲をカバーできますが、では鳥と獣はまとめて良いのか、虫が出てきたらどうするのか、と最大公約的な言い方を探すのもなかなか大変です。映画「ズートピア」では登場を哺乳類に限ったりもしていましたが、『チキン・ポリス』を含む「World of Wilderness」では雑多な種族が登場するので、翻訳の難しさは推して知るべし、といったところでしょう(口調ブレはどうにかしてもらいたいですが)。
Person:個人
Personnel affairs:人事
Popular:人気
Population:人口
Artificial:人工
Headcount:人数
Murder/Homicide:殺人
Culprit/Criminal:犯人
Defendant:被告人
Witness:証人
Counsel:弁護人
この手の作品に当たるときには英語のことわざにも通じていないと、交わされるジョークをスルーしてしまうこともあるでしょう。よくあるのがことわざをベースにしたステレオタイプ的揶揄です。種族間の軋轢を印象づけるために必ずと言って良いほど出てきますし、それぞれの動物が欧米圏でどのようなイメージがあるか、イソップ童話などを参照して把握すると良いでしょう。
Birds of a feather flock together:類は友を呼ぶ(似たものは集まる)
Elephant in the room:見て見ぬ振りをする
Dog days:真夏(おおいぬ座に由来)
When pigs fly:ありえない
Rain cats and dogs:土砂降り
Eat like a horse/bird:大食/小食
Early bird:早起き
Night owl:夜更かし
You can’t teach an old dog new tricks:老い木は曲がらぬ
Don’t count your chickens before they hatch:捕らぬ狸の皮算用
When the cat’s away, the mice will play:鬼の居ぬ間に洗濯
また、動物の名前が動詞化したものもあり、こちらは習性に由来するものが多くなんとなく分かるのではないでしょうか。
Monkey(動):ふざける、余計なことをする
Dog(動):つきまとう
Ferret(動):探し出す
Squirrel(動):溜め込む
Rat(動):裏切る
Bug(動):盗聴する、悩ませる
Horse(動):騒ぐ
他にも、とあるSF小説では「語り手が犬だと最初は伏せておきたい」状況で、人間と犬が同居するチームの人(?)数を出す、という場面がありました。翻訳者は「○人」を避けて「○名」の書き方でクリアしたようですが、こうした単位一つでも読み手のイメージを左右してしまうので、異なる世界でこそ普通に使う言葉をよくよく見直すことが大事です。
World of Wildernessシリーズはスピンオフの『Zipp's Cafe』、先月には待望の続編『Into the HIVE!』、さらには『Moses & Plato - Last Train to Clawville』『WILD Tactics』と、まだまだ広がっていくようです。クロウヴィルで起きる次の事件が楽しみですね。