1983年から1985年にかけて週刊少年ジャンプで連載された、桂正和氏によるオリジナル変身ヒーローマンガ「ウイングマン」。先生のデビュー作でもあった本作は、独特の世界観で人気を博して1984年に「夢戦士ウイングマン」のタイトルでアニメ化もされました。
それがまさか、40年の時を経て特撮実写ドラマ化!テレビ東京系列の深夜枠ながらファンも納得の仕上がりとなりました。しかもバンダイスピリッツからは「S.H.Figuarts(真骨彫製法) ウイングマン」のフィギュアと「ドリムノート&ドリムペン」、書籍では「ドラマ「ウイングマン」コンプリートガイド」といった、まさかの新商品&グッズまで!
はたして誰がこの令和の時代に「ウイングマン」が復活し、特撮実写ドラマになると予想したでしょうか? しかも2024年はとくにマンガ原作の実写化について議論が巻き起こり、どこまで改変が許されるのか、何が正解なのか等さまざまな意見が飛び交った年。そんな中での大好評です。
そこで本稿では「なぜ成功したのか?」「そもそもなぜ原作は人気だったのか?」というポイントに焦点を絞りつつ、当時の読者目線で人気の秘密やヒーロー事情を振り返りたいと思います。
◆連載スタートの年の戦隊は「科学戦隊ダイナマン」!
「ウイングマン」とは、中学生「広野健太」が、ポドリムスと呼ばれる異次元から来た少女「アオイ」と出逢ったことから本物のヒーローとして成長する物語です。
ケン坊(健太)はもともとヒーロー好きで、オリジナルヒーロー「ウイングマン」のコスプレをしては授業中の居眠りなどを注意していたのですが、アオイさんが持つ“どんな夢も叶うノート”ことドリムノートにウイングマンを書き込んだことから変身能力を獲得。以降、ノートに必殺技を追加しつつ自身もトレーニングをすることで戦士として成長し、ノートを狙うポドリムスの支配者「リメル」らと戦いました。
連載されていた1983年から1985年と言えば、「科学戦隊ダイナマン」「超電子バイオマン」「電撃戦隊チェンジマン」のころ。ウルトラマンは一旦シリーズがお休みとなっており、雑誌展開を中心とした番外編「アンドロメロス」が話題になっていました。
そのほか宇宙刑事シリーズでは「ギャバン」の後継となる「シャリバン」と「シャイダー」を放送。「ペットントン」「星雲仮面マシンマン」「スケバン刑事(初代)」なども人気に。ただし70年代に盛り上がった特撮ヒーローブームは一旦落ち着きを見せており、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」もシリーズとしては谷間の時期にありました。
70年代は「スペクトルマン」などのピープロ作品、「シルバー仮面」などの宣弘社作品、「恐怖劇場アンバランス」のような大人向け特撮ドラマ、「スーパーロボット レッドバロン」のような巨大ロボットモノなどジャンルも制作会社もさまざま存在していましたが、70年代中頃から放送作品数が少しずつ減少していたのです。
現在ならMCUに代表されるアメコミ映画もありますが、当時のアメコミ映画は1978年から続くクリストファー・リーヴ主演の「スーパーマン」くらいしかありません。ひとつの大作映画としては人気でしたが、現在のような翻訳版のアメコミが出版されたり、グッズ展開を連発したりするような状況ではなかったのです。
そんな中で連載が始まった「ウイングマン」は、スーパー戦隊ヒーローでもメタルヒーローでもなく、ましてや「ペットントン」のような東映不思議コメディーシリーズでもない、まったく新しいヒーローとして輝いて見えました。
黒をベースとした青いコスチュームがそう思わせるポイントのひとつ。赤色になりがちなカラーリングを黒ベースにしたり、特撮ヒーローとは思えない鋭角的なパーツを多用したりと、既存の特撮ヒーローからヒントを得つつ、“特撮ヒーローっぽいけど、どこか一線を画すシャープなデザイン”でマンガならではの新しいヒーロー像を魅せてくれたのです。
◆ここが凄いよウイングマン!
「ウイングマン」の特徴といえば学園を舞台にしているところも大きなポイント。それまでのスーパーヒーローといえば、比較的「選ばれた人間」しかなれないものが多かったのですが、ウイングマンはご近所が舞台になっているところに親近感があり、しかもドリムノートに書き込めば誰でも変身できるという「自分もなれるのでは?」と思わせてくれる“妄想の隙間”がありました。
さらにSFを意識した桂先生の創作スタイルも特徴的だったと言えるでしょう。
現在ならリアリティーを重視する創作スタイルが一般的ですが、80年代当時といえば、まだまだ荒唐無稽な作品が多い時代。そんな中で「フィクションの世界」と「リアリティー」のバランスが絶妙だった桂先生は、得意のSF的思考を駆使して我々読者に「現実にありそうな世界」を魅せてくれたのです。
とくに印象に残っているのは第1話の職員室のシーン。“正義の味方ごっこ”をするケン坊を担任の松岡先生が注意するのですが、そこで「科学が発達しているのだから、将来的にはヒーローになれる薬や服ができるはず」と主張するケン坊に対し、先生はこう言って諭します。
「テレビと現実はぜんぜん違うのよ。テレビのような超人をひとり生みだすより、警察を強化するにきまってるでしょ」
……もっともです。まさにその通りです。反論する余地などございません。
しかしその視点はある意味リアルでしたし、桂先生のこの作品に対する立ち位置が明確に表現されたシーンではないかとも思えたわけです。
ヒーローが存在し得ない世界にもたらされた一冊のノート。そこから劇中の“現実” はどんどんと夢の世界へと書き換えられていく……。一定のリアルが求められるようになった当時の特撮作品と比べても劣らないしっかりとした世界観ですし、恋愛模様や学園生活を描写することで、より身近に思える世界観が構築されていました。
またケン坊がドリムノートに頼るだけではない部分も読者のハートをつかんだポイントでした。ドリムノートによる変身能力は、あくまで姿を変えるだけのもの。超人的な技を書き込んだところで当然使いこなせるわけがありませんし、身体に反動が来るのも当たり前。そこでケン坊はランニングや筋トレを通じて自身を鍛えることにします。ドリムノートによるご都合主義を回避するだけではありません。ケン坊はウイングマンになった後も、「本当のヒーロー」になるために努力を続けるわけです。
ここまでひたむきに「ヒーロー」に打ち込むことができるケン坊を応援しない理由などありません。そこに読者はかつてなりたかった“自分”を投影し、憧れを抱いたのでした。当時の読者にとっては、ジャンプ本誌や「ウイングマン」の単行本がまさにドリムノートだったわけです。
◆実写化の成功は奇跡的だった!?
原作の「ウイングマン」の驚くべきポイントはまだあります。各エピソードのテンポが素晴らしく良いことです。原作はコミックス全13巻。しかも第9巻からは新たな敵「帝王ライエル」が登場し、いわば「仮面ライダーBLACK」と「仮面ライダーBLACK RX」を全13巻に凝縮したような状態でした。
「リメル編」と呼ばれる第9巻までのエピソードにいたっては、頻繁に新しい技をお披露目したり、新たな幹部が登場したりして、特撮番組で言えばつねにテコ入れ回が続くようなもの。お色気描写や特撮ヒーローのパロディに目が行きがちになりますが、もとから特撮ヒーロー好きだった桂先生の、まさに真骨頂の部分がギュギュッと詰まったような内容となっていました。
ただ「ヒーローものをやりたい」「かっこいい場面を入れたい」というだけではない、先生の読者目線の創作スタイルが人気の一端を担っていたのではないかと思えます。さらに前述した松岡先生のセリフに見られるように、桂先生のヒーロー観が結晶となったのがまさに原作の「ウイングマン」でした。
さてそうやって人気を博し、今なお根強く支持される「ウイングマン」。実写化にあたっては桂先生が積極的に制作に参加することで、「原作とは異なるウイングマン」を納得のクオリティーに磨きあげたとのこと。当初の脚本では原作に忠実な物語にする予定だったそうですが、桂先生の提案により一部設定を現代に合わせて変更。物語全体の流れも、30分全10話の枠になるべく違和感なく収まるよう再構成したそうです。
そのあたりは「バットマン」をはじめとするアメコミ映画にも精通する桂先生らしい采配だと言えます。アメコミ映画は原作エピソードを下敷きにしつつ、約2時間の、しかも単発の作品として成立するよう再構成が行われ、結果としてまったく異なるストーリーになることがほとんどです。(「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」など)
キャラクター性や各原作エピソードの面白さを損なわないよう再構成するのがポイントなのですが、アンテナが高く大のバットマンファンでもある桂先生のこと。きっとそのあたりのやり方をアメコミ映画で研究し尽くしているはず。
それに作品のトーンもニチアサ(日曜朝枠)と違っていて新鮮でした。シリアスが多めですし、毎回クリフハンガーで「この先どうなるの!?」と思わせてくれるワクワク感、それに「宇宙刑事ギャバン」のスーツが登場するなどのファンサービス等々……。
変身バンクや必殺技バンクのないシームレスなシーンになっているのも特徴的です。これにより、たとえば変身前後のテンションを維持するとともに、キャラクターの感情にも連続性を持たせるという、より引き込まれるドラマ作りとなっていました。そのあたりは坂本浩一監督や、企画・脚本監修の酒井健作さんといったスタッフの力量やバランス感覚のおかげです。
かつて原作版「ウイングマン」は、ケン坊以外の人間でも変身できるようになり、老若男女・職業問わずに“ウイングマン”に変身して帝王ライエルの軍勢と戦いました。あの時に読者だった人たちは今や大人になり、番組を企画したり、監督としてメガホンを取ったり、コスチュームを作ったり、アクションを担当したりして夢を現実世界に引っ張り込んでくれました。そしてそれを当時の読者を中心としたファンが応援する……。それはまさに、一般人も“ウイングマン”に変身した総決戦と同じような状況ではないでしょうか?
物語は最終回を迎えましたが、番組のすべてを詰め込んだコンプリートガイドが発売されましたし、2025年3月には番組のBlu-rayが、バンダイスピリッツからは3月と8月にそれぞれ「ドリムノート&ドリムペン」「S.H.Figuarts(真骨彫製法) ウイングマン」のフィギュアが発売されます。
原作未体験のかたはぜひコミックスをチェックしていただきつつ、DMM TVでは実写ドラマ版本編が全話配信されているので、未見の人もすでに全話視聴した人も、この年末年始にあの夢の世界に浸ってはいかがでしょうか。
ドラマチューズ!「ウイングマン」
【STAFF】
原作:桂正和「ウイングマン」<集英社文庫(コミック版)>
監督・アクション監督:坂本浩一
脚本:山田能龍、西垣匡基、中園勇也
オープニングテーマ:BLUE ENCOUNT「chang[e]」(Sony Music Labels Inc.)
エグゼクティブプロデューサー:伊藤和宏(DMM TV)
プロデューサー:倉地雄大(テレビ東京)、前田知樹(テレビ東京)、山田真行(東映ビデオ)
制作:テレビ東京、東映ビデオ
制作協力:DMM TV
製作著作:「ウイングマン」製作委員会
【CAST】
藤岡真威人、加藤小夏、菊地姫奈、片田陽依、上原あまね、丈太郎、大原優乃、三原羽衣、橘春軌 ほか
(C)桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会