2020年10月 5日
積み立て投資を複利で語ってみよう
日経電子版に「積立投資を複利で語るなかれ(大江英樹)」という記事が掲載されています。そこで筆者の大江氏は「そもそも『価格変動商品には複利の概念はなじまない』ということだ。」と書いています。
なじまないかどうかは僕にはよく分かりませんが、価格変動商品、すなわちリスクがある金融商品で複利計算をしたときに結果がどうなるかを計算したくて作ったのが「長期投資予想/アセットアロケーション分析 」なので、ぜひこの機会にこいつを紹介したなあと思って久しぶりにブログを書きました。
こいつを使えば、積み立て投資で複利で価格変動(リスク)がある場合の結果も計算できます。そういう計算をしてくれるツールがどこにもなかったので自分で作ったのですから。
複利っていうのは、要するに利子が利子を生むというやつですね。1年で7%増える金融商品があったら、1年後に100万円が107万円になって、2年後には107万円がさらに7%増えて114万4900円になって、3年後にはそれがまたさらに7%増えて、と加速度的に増えていくものです。
この複利の様子をグラフで描くとこうなります。元本100万円で年利7%を20年続けると、387万円に増えます。
期待リターン:7.00% リスク:0.00%
元本:100万円 総投資額:0万円 期間:20年
(期待値:387.0 標準偏差:0.0 中央値:387.0 最頻値:387.0)
ただしこれはリスクが全くない、毎年必ず7%ずつ増えてリスクが0の場合のグラフです。
ではリスクが25%あったらどうでしょう。「期待リターン7%、リスク25%」は、実は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2020年4月に発表した基本ポートフォリオで示された外国株式の期待リターンとリスクの値です(ここでは小数点以下を四捨五入しています)。
このグラフはこうなります。20年後の期待値は387万円とリスクがゼロの時と同じです。これは期待値が同じですから当然こうなりますが、リスクがあるので当然ながら結果にばらつき(確率分布)が生じます。中央値(上位50%)が227.4万円。最頻値は78.6万円で元本割れなのです。いくら期待値が高くても、リスクが高いとこんな怖い結果になるんですね。
期待リターン:7.00% リスク:25.00%
元本:100万円 総投資額:0万円 期間:20年
(期待値:387.0 標準偏差:532.7 中央値:227.4 最頻値:78.6)
さて、複利とリスクの関係を見ていたところで、ここから本題となる「積み立て投資と複利と価格変動(=リスク)」についても同じように見ていきましょう。
まず積み立て投資と複利の関係について見ていきましょう。
毎月1万円を20年積み立てるとして、これを7%複利(期待リターンが7%、リスクなし)で運用できたらどうなるかというと、総額で240万円の投資。運用結果は507.5万円となります。
期待リターン:7.00% リスク:0.00%
元本:0万円 総投資額:1万円 期間:20年
(期待値:507.5 標準偏差:0.0 中央値:507.5 最頻値:507.5)
毎月1万円積み立てて7%で運用すると、総投資額の240万円が2倍以上の507.5万円に増える。これはすごい! となって、あやしい投資の宣伝文句とかに使われるわけですよ。
でも、これはリスクがない場合です。
では、これにリスクが25%あったらどうなるでしょうか。20年後の期待値は507.5万円で同じですが、上位40%で470万円、上位50%=中央値が392.3万円です。
つまり期待リターンである507.5万円を上回る確率はだいたい35%くらいしかない。65%くらいの確率で507.5万円を下回る。中央値は392.3万円で、2分の1の確率でそれを下回る可能性もある、ということです。
そして、最頻値が234.3万円と、やはりリスクが高いと元本割れの可能性も高くなります。「年利7%で積み立てれば20年で2倍以上!」なんていう宣伝文句は真に受けない方がいいことがお分かりでしょう。
期待リターン:7.00% リスク:25.00%
元本:0万円 総投資額:1万円 期間:20年
(期待値:507.5 標準偏差:416.7 中央値:392.3 最頻値:234.3)
こんな感じで、積み立て投資でも複利でリスク(=価格変動)を考慮した結果がどうなるかは計算できます。
そしてこの計算結果を見れば、積み立て投資であってもそうでなくても、高い期待リターンに惑わされてリスクを取り過ぎているのではないか、といったことも判断できるのではないかと思います。
リスクを取り過ぎていると感じたら、選択肢は2つ。1つは投資額を減らすことでリスクにさらす絶対額を減らすこと。もう1つは、リスクの高い投資商品に対してそのリスクを打ち消せるような相関係数を持つ投資商品を見つけて、そこに投資することでリスクを下げること。例えば外国株式と国内債券を組み合わせるとか、そういったことです(相関係数もGPIFの資料に出てます。ありがたい)。
もちろん計算上でリスクが下がったからといって、それは過去の金融商品がそういう値動きをしていただけであって、将来もそうなるとは限らないことを肝に銘じておくべきでしょう。
とはいえ、それが積み立て投資であってもそうでなくても、期待値とリスクが分かれば予想結果は計算できるし、その予想をもとにどう振る舞うべきなのかも変わらないのではないかと思います。
[広告]
≫次 : 投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2020に投票しました
≪前 : 「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2019」に投票しました