銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

裁量労働制についての正確な知識と銀行における問題点

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今回の記事は裁量労働制についてです。

政府が導入対象を拡大しようとしている裁量労働制は「定額働かせ放題」の制度であるとの批判が多くなってきているようです。

今回は、裁量労働制についての正確な内容を確認するとともに、特に銀行における問題点について考察いたします。

裁量労働制とは 

まずは、既存の裁量労働制がどのようなものか確認していきます。

裁量労働制とは、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に携わる労働者について、労働時間の計算を実労働時間ではなくみなし時間によって行うことを認める制度です。

裁量労働制には、専門的な職種の労働者について労使協定によりみなし時間制を実施する「専門業務型」と、経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務に従事する労働者に関し、労使委員会の決議によって実施する「企画業務型」の2種類があります。

労働基準法上の労働時間は実労働時間によって算定するのが原則ですが、事業場外労働のみなし時間制(労基法38条の2)のほかに、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に従事する労働者についても、みなし制の適用が可能な場合があります。

この制度は、裁量労働のみなし時間制と呼ばれ、1987年の労基法改正により導入された際には、システムエンジニアなどの専門職にのみ適用されるものでしたが、1998年の法改正により、企業の中枢部門において企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲のホワイトカラー労働者を適用対象とする新たな制度が設けられました。現在、前者の制度は専門業務型裁量労働制と呼ばれ、後者は企画業務型裁量労働制と呼ばれています。

この企画業務型裁量労働制こそ銀行等金融機関で主に導入がなされているといっても過言ではないでしょう。専門業務型裁量労働制では、いわゆる証券アナリスト等が対象となっていますが、銀行等金融業界全体でみれば割合は小さいためです。

この、企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものです。このような労働者も、専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当な場合があることを根拠としたものですが、濫用のおそれもあるため、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっています。

企画業務型裁量労働制の対象業務に当たるか否かは個々の労働者ごとに判断され、「企画課」などの部門の全業務が対象業務になるわけではありません。

また、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験をもち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験をもつ者が想定されています。

この制度を実施するには、上述したように、使用者および事業場の労働者を代表する者からなる労使委員会による決議が必要です。労使委員会の委員の半数以上については、事業場の過半数組合、そうした組合がない場合は過半数の代表者が任期を定めて指名することを要します(労基法38条の4第2項)。

労使委員会の決議事項は、a.対象業務と対象労働者の具体的範囲、b.みなし労働時間、c.対象者の健康・福祉の確保措置および苦情処理措置、d.実施にあたり対象労働者の同意を得ること、および不同意を理由に不利益取扱をしないこと、e.決議の有効期間、f.記録の保存などです(労基法38条の4第1項、労基則24条の2の3第3項)。

以上のうち、対象者の健康・福祉の確保措置としては、代償休日や特別休暇の付与などがあげられます(健康等の確保の前提として、始終業・入退出時刻の記録等により勤務状況を把握することも必要になります)。また、決議に基づく労働者の同意は、各人ごと、かつ決議の有効期間ごとに得なければなりません。なお、裁量労働制のもとでも、使用者が安全配慮義務を負うことに変わりはありませんので、使用者としては、労働者が心身の健康を害するような働き方をしていないかどうかに注意し、必要に応じて適切な措置をとることが求められます。

以上、労働政策研究・研修機構のホームページから筆者引用(抜粋に加え加筆修正あり)

出典 Q6.裁量労働制とは何ですか。|労働政策研究・研修機構(JILPT)

なお、専門業務型裁量労働制の対象職種については以下に限定されています。

ご参考として掲載しておきます。

1. 研究開発
2. 情報処理システムの分析・設計
3. 取材・編集
4. デザイナー
5. プロデューサー・ディレクター
6. コピーライター
7. システムコンサルタント
8. インテリアコーディネーター
9. ゲーム用ソフトウエア開発
10. 証券アナリスト
11. 金融工学による金融商品の開発
12. 大学における教授研究
13. 公認会計士
14. 弁護士
15. 建築士
16. 不動産鑑定士
17. 弁理士
18. 税理士
19. 中小企業診断士

(ご参考)労基法の条文 

裁量労働制についての記事・ニュースをみると、労基法の条文がどのようになっているかという根本を説明していないものが多いように感じます。

労働法制については特に法律の条文をしっかりと押さえておいた方が良いと思われますので、以下掲載します。

【労働基準法】※筆者抜粋

第三十八条の三 

使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。

一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)

二 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間

三 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。

四 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。

五 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。

六 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 

第三十八条の四

賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。

一 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。)

二 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲

三 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間

四 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

五 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

六 使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

(2) 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。

一 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。

二 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。

三 前二号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件

この条文でポイントとなるのは、「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしない」業務が適用対象となること、 企画業務型裁量労働制の導入について「労使委員会で5分の4以上の議決の賛成が必要であること」というところでしょう。

また、留意する必要があるのは、裁量労働制といえども深夜や休日労働は使用者が手当を払わなければならないという点です(上記労基法条文では触れていません)。

既存の裁量労働制における導入背景・目的 

そもそも裁量労働制を導入する理由とはどのようなものでしょうか。

厚労省のホームページに裁量労働制についての説明があります。

まずは、どのように説明されているかを確認しましょう。 以下は企画業務型についてのものです。

経済社会の構造変化や労働者の就業意識の変化等が進む中で、活力ある経済社会を実現していくために、事業活動の中枢にある労働者が創造的な能力を十分に発揮し得る環境づくりが必要となっています。労働者の側にも、自らの知識、技術や創造的な能力をいかし、仕事の進め方や時間配分に関し主体性をもって働きたいという意識が高まっています。
こうした状況に対応した新たな働き方のルールを設定する仕組みとして、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象とした「企画業務型裁量労働制」が2000年(平成12年)4月より施行されましたが、平成16年1月1日より、この制度がより有効に機能するよう、その導入に当たり、労使の十分な話合いを必要とすること等の制度の基本的な枠組みは維持しつつ、同制度の導入・運用についての要件・手続が緩和されています。
関係労使におかれては、本制度の趣旨及び内容を理解され、創造性豊かな人材が、その能力を存分に発揮しうるよう自律的で自由度の高いフレキシブルな働き方の実現に向け、労働時間管理のあり方を見直し、本制度の導入について御検討ください。

出典 厚生労働省ホームページ「企画業務型裁量労働制」

この厚労省のホームページで述べられていることを額面通りに受け取るならば、「創造性豊かな人材が、その能力を存分に発揮しうるよう自律的で自由度の高いフレキシブルな働き方の実現に向け、労働時間管理のあり方を見直」すことが裁量労働制の導入目的です。

すなわち、企業における始業時間や終業時間(何時までに会社に来なくてはいけない、何時までは会社にいなくてはならない)から、働く人の一部を自由にすることにより、創造的に働き、成果を出して欲しい、というのが趣旨のはずなのです。

これが実現出来るような職種、業務ということで、専門業務型と企画業務型として限定的に裁量労働制は導入されているのです。

まずは、この点がポイントです。

企画業務型裁量労働制の導入におけるポイント

銀行で主に関係する(問題にもなる)企画業務型裁量労働制について、導入における留意点について再度確認しておきます。

以下は厚労省のホームページに掲載されているQ&Aを抜粋(加筆修正あり)したものです。

対象となる事業場

企画業務型裁量労働制を導入できる事業場は、いかなる事業場においても導入できるということではなく、「対象業務が存在する事業場」であり、以下の事業場が該当します。
1 本社・本店である事業場

2 1のほか、次のいずれかに掲げる事業場 

  • 当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
  • 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場

※個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできません。

労使委員会 

労使委員会の委員に関する要件は次のとおりです。

  • 労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成されており、労働者を代表する委員が半数以上を占めていること
  • 労働者を代表する委員は、1過半数組合又は過半数代表者に任期を定めて指名を受けていること

 労使委員会では以下の1~8の事項について、労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により決議することが必要です。

1 対象となる業務の具体的な範囲(「経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務」など)

※ 対象となる業務は、企業等の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の遂行方法等に関し使用者が具体的な指示をしないこととするものです。したがって、ホワイトカラーの業務全てが該当するわけではありません。

2 対象労働者の具体的な範囲(「大学の学部を卒業して5年以上の職務経験、主任(職能資格○級)以上の労働者」など)

3 労働したものとみなす時間

4 使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容(「代償休日又は特別な休暇を付与すること」など)

※ 4とあわせて、次の事項についても決議することが望まれます。
  • 使用者が対象となる労働者の勤務状況を把握する際、健康状態を把握すること
  • 使用者が把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、対象労働者への企画業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うこと
  • 使用者が対象となる労働者の自己啓発のための特別の休暇の付与等能力開発を促進する措置を講ずること

5 苦情の処理のため措置の具体的内容(「対象となる労働者からの苦情の申出の窓口及び担当者、取扱う苦情の範囲」など)

6 本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し不利益取扱いをしてはならないこと

※ 6とあわせて次の事項についても決議することが望まれます。
  • 企画業務型裁量労働制の制度の概要、企画業務型裁量労働制の適用を受けることに同意した場合に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容並びに同意しなかった場合の配置及び処遇について、使用者が労働者に対して明示して当該労働者の同意を得ることとすること
  • 企画業務型裁量労働制の適用を受けることについての労働者の同意の手続(書面によることなど)
  • 対象となる労働者から同意を撤回することを認めることとする場合には、その要件及び手続

7 決議の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています)

※ 7とあわせて、次の事項についても決議することが望まれます。
  • 委員の半数以上から決議の変更等のための労使委員会の開催の申出があった場合は、決議の有効期間の中途であっても決議の変更等のための調査審議を行うものとすること

8 企画業務型裁量労働制の実施状況に係る記録を保存すること(決議の有効期間中及びその満了後3年間)

☆ 1~8の他に次の事項についても決議することが望まれます。

  • 使用者が、対象となる労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を変更しようとする場合にあっては、労使委員会に対し事前に変更内容の説明をするものとすること

同意

対象労働者に本制度を適用するには、上記決議に従い、対象となる労働者の個別の同意を得なければなりません。
また、不同意の労働者に対しては、使用者は解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

出典 厚労省ホームページ 

「企画業務型裁量労働制」

 

以上を確認すると、裁量労働制を導入することは、かなりの手間が会社側にもかかるということです。

同時に裁量労働制では人事評価も今まで以上に難しくなります。管理職は、勤務時間も様々な部下の業務におけるプロセス、アウトプットを把握、評価しなければなりません。

法律を主旨も含めてきちんと遵守する企業にとっては、相応の負担となるということなのです。

銀行における裁量労働制の実態 

裁量労働制については、メガバンクおよび一部の地銀では導入されているものと思われます。

公式に発表されているものは見当たりませんが、就活・転職情報サイト等にはメガバンク等の本部で導入されているとの情報が掲載されています。

では、各行のみなしの時間外労働時間はどの程度となっているのでしょうか。

こちらは一概にはいえませんが、月に40時間程度となっているものと推測されます。

36協定との関係もありますので、月に45時間超とすることはないものと考えられるからです。

以前であれば、実際の残業時間は月45時間を大幅に超過していたでしょうが、現在は少しは労働時間が減少しているものと想定されます。

表面的な法令遵守はしっかりと対応する銀行ですから、対象業務は本部の企画に限定されているものと想定されます。

政府が目指す企画業務型裁量労働制の対象業務拡大

政府が成立を目指す裁量労働制の対象業務の拡大は銀行にとっても影響は存在します。

政府は裁量労働制の企画業務型裁量労働制について対象業務の拡大を目指しているからです。

政府が課題として挙げているのは、企画業務型裁量労働制の業務は「企画·立案·調査·分析」の業務であるものの、「対象業務が限定的でホワイトカラーの業務の複合化等に対応出来ていない」というものです。

そのため、労基法の改正案として「企画·立案·調査·分析」の業務をベースにした2類型を対象業務に追加しようとしています。

ⓛ課題解決型提案営業(ソリューション営業)
厚労省が挙げている事例としては、「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた商品やサービスを開発の上、販売する業務」等を追加するとしています。
労基法改正案では「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調
査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該
顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務」とされています。
これは銀行においても当てはまるものと思われます。
特に新商品開発部署、コンサルティング部署では適用となる対象者が出てくる可能性があります。

②裁量的にPDCAを回す業務
厚労省が挙げている事例としては、「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」等も改正案では追加されています。
当該業務は銀行では関係ないものと想定されます。

裁量労働制についての所見

裁量労働制は、上記でみてきたように特に銀行で関係する従業員が多い「企画業務型裁量労働制」を導入するのは相応のハードルがあります。

また、労使委員会では労働者側が過半数を握ることになっていること、また、従業員個人が同意しなければ良い(同意しなくても不利益は被らない) ことになっており、その点でも歯止めは法律上効いています。

但し、銀行という組織は(多くの日本企業も同様でしょうが)同調圧力が強く、雰囲気、空気感として裁量労働制を選択しなければならない銀行員は多いものと推察します。

裁量労働制が導入され、対象業務の範囲も拡大された場合、銀行員(および一般企業の従業員にとっても基本的には同様)にとっての問題点はどのようなものになるでしょうか。

最大の問題点は、「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしない業務」だったとしても、「従業員には業務量を決める裁量がない」ということです。
この点が大問題なのです。

業務遂行の手段や時間配分に裁量があったとしても、仕事が終わらないほどの量の業務遂行を指示された場合、結局は時間を多大にかけて業務を行うしかありません。

そして、銀行には、本質的には「企画」の仕事はほとんど存在しません。

経営陣の思いつきに対応し実現すること、各部署との調整を行うこと、そして、お上である金融庁等とのやりとりをすることが、銀行における企画といわれている業務なのです。

護送船団方式であった時代の名残といえるでしょうし、規制業種だからともいえるでしょう。

上意下達・滅私奉公を求めがちな日本型組織、そしてその典型である銀行では、終わらない業務量(もしくは事務量)に従業員が押しつぶされる可能性があるのです。

これを防止するのは、現行の法制度および政府が成立を目指す働き方改革法案では十分ではないでしょう。

最も有効なのはインターバル規制であり、これを全労働者(裁量労働制対象者も管理監督者にも)に適用することです。

これで長時間労働の問題は解決します。

しかしながら、経営者側がそう簡単には導入義務化を認めないでしょうから、実現は難しいでしょう。

また、転職を容易にすることは、業務量に対応しきれない従業員が条件の良い他社に転職することになるので有効な歯止めになります。

しかし、これも現時点では難しいでしょう。

この働き方改革および裁量労働制の問題点には簡単な処方箋はありません。

複合的な対処法が組み合わされなければ、実効性は担保されません。

現在は経営者、上司等の良心に究極的には頼らざるを得ないのです。

裁量労働制の問題は、まさに従業員に業務量の裁量がないことにあり、長時間労働をきっちりと防止するには規制が存在せず、究極的には経営者・上司の良心に依存していることにあります。

現在、日本で起きている裁量労働制への反対は、このような問題点を感覚的にでも認識している人が多く存在しているからでしょう。

しかし、働き方の改革が日本のために必要なのは間違いありません。

より創造的に働かなければAI時代には海外企業との戦いには勝てないでしょう。

また労働人口は少子高齢化により、間違いなく減少していきます。人手が足りない時代がきているのです。

このような環境下、日本にとって最善の方法を見つけ出していくことが、今、求められているはずです。

少なくとも、本質的な議論もないまま政治家が争いを繰り返している時間はないはずなのです。

ぜひ、国会では本質的な問題に目を向けて欲しいと思います。

 

なお、銀行においては名ばかり管理職問題も存在します。こちらも併せてご覧下さい。