1979年から82年まで総合テレビで放送された同番組は、NHKにも映像がほとんど保存されていなかった。しかし「番組発掘プロジェクト」の一環として調査や呼びかけを行なったところ、出演者のひとりだった声優の神谷明など番組関係者が個人的に録画・保存していたことが判明。今回の再放送はそのテープを借りることで実現した(くわしい経緯はこちらを参照)。
テレビのなかにテレビが!?
先週放送された第1話と第2話(各話15分)では、主人公のプリンプリン(声:石川ひとみ)の誕生秘話が描かれた。どこかの国のプリセンスらしきプリンプリンは生まれてまもなく、小さな箱舟に乗せて海に流され、それをアル国アルトコ県アルトコ市の三人の漁師に拾われる。
初回冒頭、プリンプリンのあいさつのあと、アルトコ市中央テレビ局(略称はアル中テレビ!)の「花のアナウンサー」(声:つボイノリオ)と一台の大きなテレビが登場する。プリンプリンの誕生と命名の経緯は、花のアナウンサーの実況のもと、この劇中のテレビを通して描かれた。ほかの登場人物も、テレビをおのおのの場所で見ている場面を介して、視聴者に紹介されていた。
それ以前のNHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」でも、某国の大統領だったドン・ガバチョがテレビ画面から押し出されてひょうたん島にやって来るという演出があったけれど、「プリンプリン物語」ではこの手法をさらに過激に発展させた。たとえば、例の三人の漁師は、自分たちに名前がないと気づくや、画面から外に飛び出し、名前をつけろとNHKのディレクターに迫り寄る。このディレクターが生身の人間(演じるのは三波豊和)というのも斬新だ。
このように、「プリンプリン物語」は入れ子構造になった物語を、子供たちになじみやすいテレビを使って見せているのがユニークだったといえる。
時事ネタ、古典ネタも満載
「プリンプリン物語」の楽しみのひとつに、各場面やセリフにちりばめられた小ネタがある。放送当時の時事ネタもふんだんに出てくる。
くだんの漁師たちが登場時、「アー」とか「ウー」とか不明瞭な言葉を発しているのは、おそらく時の首相・大平正芳の口癖「アーウー」が元ネタだろう。また、漁師たちが拾い上げた赤ん坊(のちのプリンプリン)のため、名前を考える場面では、各国の女性の名前に交じって「コウセイ」という名も候補にあがる。これは中国の初代国家主席・毛沢東の未亡人で、このころ裁判にかけられていた江青のことに違いない。
ほかにも、漁師たちがようやく赤ん坊をプリンプリンと命名し、出生届を市役所に出しにいくと、窓口では対応しかねると、課長から部長、さらには市長へとたらい回しにされる(最後の最後で市長の判断により、世界各国に向けて赤ん坊の身元を確認することに)。これなど、いわゆるお役所仕事に対する風刺だろう。
そもそも、三人の漁師が箱舟を拾い上げ、赤ん坊に名前をつけるというこのエピソード自体が、ひょっとすると、キリスト生誕に三人の博士が偶然にも立ち会い、贈り物を献じるという『新約聖書』の話を下敷きにしているのではあるまいか? 今回見ていて、ふとそんなことに気づいた。どうやら、「プリンプリン物語」には時事ネタだけでなく、世界中の神話や古典などからもさまざまな題材が引用されているらしい。
大人になったからこそ、より楽しめるところも
このように、ときには物語の枠組みからはみ出す演出といい、風刺やパロディなどさまざまな要素が盛り込まれているところといい、「プリンプリン物語」は仕掛けに満ちていて、大人でも楽しめる。むしろ大人になったからこそ楽しめる部分も多い。
脚本の石山透をはじめ、この作品のつくり手はあきらかに子供向け番組だからといって、けっして子供におもねってはいない。子供の知らないようなこともたくさん出てくるが、それはそれでまわりの大人に聞いたり、成長するうちに理解してくれればいいと、石山たちは考えていたのではないだろうか。
本放送は夕方にオンエアされていたが、今回の再放送は深夜の大人の時間帯だ。
(近藤正高)