後編では、ウォープのひみつやパンプキン王国の描き方、作品づくりで大切にしていることなどをうかがった。
【インタビュー前編はこちら:当初の敵は「お父さん」と「お母さん」だった。映画「プリンセスプリキュア」監督に聞く】
ひとりよがりの青二才・ウォープ
──ゲストキャラについて、細かく伺っていきます。ウォープのようなキャラクターのバックボーンが気になるのですが、裏設定などは……?
座古 ウォープは、もともとディスピアにいたメンバーのひとり、という設定がありました。「自分は能力があるのに、正当に評価されていない! あいつらはバカな組織だから、オレは出ていくわ!」くらいのことを考えて、出ていっちゃったイメージ。なんというか、プライドが高くてひとりよがりの青二才ですね。
二階堂 ディスダークは夢を封じ込めて、ウォープは夢を歪める。そういう意味での差異があって、「俺はあいつらとは違う!」と思っている……。シナリオ段階では「ディスピアと俺は違うんだ!」みたいな当てつけの台詞もありました。
座古 本人の能力はすごく高いんだけど、自分の能力を過信しすぎているがゆえに、足元をすくわれてしまう。プリキュアに対して、ナメてかかってるんですよね〜。最初は慇懃なキャラとして出てくるけど、見抜かれるにつれて対応が「バレてるからいいだろ!」と雑になってきて、「このまま勝っちゃったら面白くないから遊ぶか」と余裕を出して、負けちゃう。まあ若さゆえのあやまちなんでしょうね……(笑)。
──ウォープの目的が「パンプキン王国を手に入れること」ではなく「プリキュアをコレクションすること」だったのにはびっくりしました。
二階堂 ウォープが「コレクター」というアイデアは、シナリオ作業の後半で出てきました。「結局ウォープは何がしたいんだ?」と座古監督もすごく言っていて。彼が戦う理由を考えたら、コレクターというちょっとアブノーマルなもののほうが合うのかなと。そういう理屈ではとても説明しきれない想いや衝動がこの世に溢れているので、逆に人間味を感じてもらえるんじゃないでしょうか。
座古 パンプキン王国は、ウォープに歪められた王様とお妃さまによって妖精たちが酷使されて、ひたすら富の二極化が起こっている国。その頂点で元凶のウォープが「プリキュアをコレクションしたい」というのは、なんとなく一貫性がないんじゃないか? とも思ったんですが……でも、よく考えたら、そういうやんごとない人たちって、わりとどうでもいいことを気にして生活している印象がある。そういう意味では、ウォープのあの属性は実はハマっているんじゃないかな。「あれが欲しい、これが欲しい」なんて言ってるけど、どうでもいいだろ! 目の前で人が死んでんだぞ! みたいな思いを、僕は世の中に対して抱いているんです。
──ウォープはクライマックスで、異形の生き物に変化します。ものすごく怖くて、「子ども、泣くのでは!?」と思いました。
座古 ギリギリ泣くか泣かないか……くらいの怖さですよね(笑)。最初は「権力の象徴である城そのものが変形する」というアイデアがあったんですが、自分の中でピンと来なくて。プリキュアシリーズって、敵にモチーフがあることが多いんですよ。たとえば「プリンセスプリキュア」のクローズはカラスをモチーフにしている。なので、ウォープも生き物モチーフにしてみようというのが出発点です。
──怪獣だ!と思いましたが、なんの生き物なんでしょうか?
座古 あれ、カメレオンなんですよ! ウォープはガラス属性なので、ガラスっぽい生き物を考えたら「ガラス=透明」「透明=カメレオン」。それからカメレオンの目って宝石のような形をしているので、ウォープの片眼鏡(モノクル)を2つにしたらそのままカメレオンっぽくなるよな……という連想で、「これがいいや!」と。ジャクソンカメレオンというカメレオンが、頭に3本ツノが生えている生き物なんですよ。キャラデザの香川久さんに資料を送って、デザインしてもらいました。
──口の中に歯がいっぱいあるのが、ものすごく怖かったです……。
座古 カメレオンには歯がないんですけどね(笑)。プリキュアが「これには勝てない」と思うくらいの造形である必要があったので、怖くしてもらいました。
「ブラック企業」的なパンプキン王国は、世の中を見渡すとふつうにある
──ウォープにこき使われる妖精たちの描写は、かなりブラック企業的なところがありますよね。
座古 本来であればみんな仲良く暮らしていけるのに、ウォープによってゆがめられてしまって、お互いを監視しながら過酷な状況に身を置いている……。絶望した妖精がゼツボーグになってプリキュアや妖精を襲うところもそう。世の中を広く見渡すと、ああいうシチュエーションって普通にあるじゃないですか。本当は手をつなぎ合わなくちゃいけない人たちが、お互い「あいつのせいだ」と指さしながら生きているさまっていうのは、非常に心苦しいと日ごろから思っているんです。
──たとえば、どういうことでしょう。
座古 いき過ぎた公務員バッシングや、生活保護バッシングでしょうか。生活保護に「なんで働いてないのにお金をあんなにもらえるんだ!」と怒る人がいるけど、「あなたがそんなに働いてるのに、それだけしかもらえない状況がおかしいんですよ!」。どこかにウォープみたいな存在がいて苦しめられているのに、それが見えていない。
──希望を持って立ち上がって、プリキュアが一緒に戦ってくれる。
座古 それも、ただプリキュアが戦うだけじゃなくて、妖精たちが一緒に行動してほしいという気持ちはありました。その世界に生きている人たちがきっかけになってパンプキン王国が変わるという物語を大事にしたかったんです。
──プリキュアたちは一度はウォープの強さにくじけそうになりますが妖精のプウの行動がきっかけで再び立ち上がります。
座古 プウは一番泣き虫のキャラクターですが、自分たちの仲間がゼツボーグにされていることを知って、すごく怒るんです。そして、プリキュアたちを閉じ込めているガラスに体当たりする。物語の構造は現実の写し鏡で、現実の世界が抱えている問題やこうあってほしいという理想が描かれるもの。そういう考えをもとに、妖精たちの活躍を主体的に描いています。
「かぼちゃのドレス」デザイン秘話
──ウォープが妖精たちを絶望させる存在としたら、パンプルルは妖精たちの希望のみなもとです。パンプルルについても詳しく教えてください!
座古 劇中では言っていないですが、どんなにウォープががんばっても絶望しなかった、ただ1人のキャラなんですよね。
二階堂 籠の鳥のパンプルルは一番無力で、ある意味はるかに一番近い。閉じ込められてしまって何もできないけれど自立と博愛の精神を忘れないパンプルルと、トワやきららやみなみのような華やかな特技は持っていないけど、あたたかさで人の心を変えるはるか。「プリンセスらしさって本当はなんなんだろう?」ということを考えさせてくれるという意味で、すごく近い位置にいる2人ですね。
──パンプルルはすごく凛としていて、なおかつとてもかわいいキャラクターでした。
二階堂 かぼちゃをモチーフにしたドレスってどうしても芋っぽい感じが出てしまうんじゃないか?と最初は不安だったんですが、杞憂でした。出来上がったデザインはちゃんと高貴なプリンセスに見えるし、とてもかわいいですよね!
座古 モードエレガント・ハロウィンも、パンプキンプリンみたいなデザインでかわいいですよね。僕の中ですごく腑に落ちました。
──モードエレガント・ハロウィンといえば、今回ドレスを実際に作って、イベントやバルト9などに展示されていますね。
二階堂 「実物のドレスを作ってみたい」という鷲尾プロデューサーのアイデアです。プリキュアを見ている子どもたちに、本物のドレスを見せたい。本物を見る目を子どもたちに養ってほしい……という気持ちがありました。なので始めにドレスのデザインを服飾のデザイナーさんに依頼し、そのラフから香川さんにアニメ用の設定を起こしてもらうという形をとっています。
──すごい。逆なんですね!
二階堂 「かぼちゃのドレスってどんなものになるんだろう?」とはじめは想像がつかなかったんですが、デザイナーさんがその場で描いてくれたラフを見て「これはいける気がする!」と。(笑)そのラフを香川さんにお渡ししたら、アニメのデザインとしてきれいにまとめてくださいました。最終的には実物のドレスも香川さんの設定に寄せて仕上げてもらったので、かなりイメージ近しい物が完成しましたね。
座古 一点ものなんだよね?
二階堂 はい。量産がなかなかできなくて…。まずは「この一着が本当にあるんだよ!」ということをしっかり見せられればと。モデルさんによる実際の着用写真を誌面の特集で取り上げて頂きましたし、今後もT-JOY大泉などで展示される予定です。
──小さいおともだちが着ているところを見てみたいです。
二階堂 そうですね、でも、試写会に来てくれた女の子が、お母さんに作ってもらったのか、モードエレガント・ハロウィンのドレスを着てきてくれたのを見てかなり感動しましたね。実物の写真を参考にして頂いたようで、素材の再現度もかなり高くて!本物志向を目指してもらいたいという意図が、まさに叶いました……!
物語を自分とリンクさせていかないと、作品は作れない
──映画全体を通して、監督お気に入りのシーンはどこでしょうか。
座古 どのシーンも好きですが、ものすごく胸の熱くなるシーンは、プリキュアと妖精が一緒に戦って次々とゼツボーグを浄化する中で、パンとプウとキンが一生懸命階段を上るシーンです。あとは最後の家族が駆け寄るシーンとか……挙げていくと「全部」になっちゃいますね(笑)。
──バトルシーンも魅力的でした。今回は必殺技バンク以外はバトルでCGを使っていないですね。
座古 全く使ってないですね。フルCGの短編と中編があるとわかった時点で、すべてセルアニメーションで行きましょうと決まりました。優秀なアニメーターさんがたくさん参加してくれて、非常に迫力のあるバトルを描けたと思います。
──テレビシリーズと劇場の演出で、大変さに違いはありますか?
座古 劇場のほうが画面の密度が上がるので、そこがいちばん大変。枚数は単純に3倍4倍になるので、劇場でしかできないアクションや、テレビでは省略することを、全部やっていかないといけない。体力の続く限りコンテを描かないと、劇場としては成立しない。テレビとは演出やコンテのやり方がすこし変わってくるなという感じです。
二階堂 私は鷲尾プロデューサーや座古監督、また、かつてシリーズに関わってこられたスタッフの皆さんがプリキュア達にこめる熱い想いを間近で見てきました。今回、劇場のアシスタントプロデューサーとして初めてプリキュアに参加して、本当に「目の前のことに一所懸命になってる女の子たち」をしっかり描ききろうとする、その真剣な姿勢にすごく感動しましたね。プリキュアと一緒になって格闘している座古監督たち……。
座古 そうね……。おっさんだけどね……(笑)。ぎりぎりまでコンテを考えました。フローラの「私たちは誰一人、貴方には屈しない!」という台詞がすごく気に入っているんですが、それも考え抜いて生まれたものです。
二階堂 突き詰めて考えてこそ納得できる作品を生み出せるんだなと、見ていて感じました。
座古 描かれる物語を、自分の中にある「大切なこと」や「美しいと思うもの」とリンクさせて、自分のものにするという過程が本当に大変なんですよね。ひとつひとつ、自分の人生との接点を探すというか。「パンプキン王国のたからもの」だと、家族の関係や、妖精たちの生活や生き方ですね。僕はああいう世界が幸せだと思っているから、このような物語になりました。自分の人生とつなげるような気持ちがないと、作品は作れないと思っています。
(青柳美帆子)
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