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マーティ「2015年だって!? 未来にきてるの?」
とうとう、その未来が現実となってやってきた。
1989年公開の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(以下、BTTF2)。この映画のなかでは「現代」が“1985年10月”、「未来」が“2015年10月21日”として描かれている。つまり今日2015年10月21日がBTTF2 における「30年後の未来世界」なのだ。
BTTF2と「スポーツの過去・未来」
この「未来と現実世界の邂逅」にあわせるように、ホバーボードや自動靴ひもスニーカーなど、BTTF2で描かれていた技術の進歩はどうなった? といった検証記事を目にすることが多い。
その一方で見過ごしがちなのは、この映画の鍵は「未来技術」以上に「スポーツ」が握っている、ということだ。宿敵ビフは未来から持ち帰ったスポーツ年鑑を使って財を築き、パラレル世界となる「荒廃した1985年」を作り出している。
この「スポーツの過去・未来」を象徴的に語るために描かれているシーンがある。2015年、時計台前での乱闘劇直後のマーティ(マイケル・J・フォックス)の次の台詞だ。
「カブスがワールドシリーズで優勝!? しかもマイアミに!?」
このマーティの驚きにはふたつの意味がある。
ひとつが、優勝とはとことん縁がないシカゴ・カブスがワールドシリーズを制したこと。そしてもうひとつが、マイアミに野球チームがあることだ。
シカゴ・カブスと「ヤギの呪い」
シカゴ・カブスは、球団創設が1871年という、MLBがのなかでも歴史ある球団のひとつ。ただ、ワールドシリーズ(※MLBのナショナルリーグとアメリカンリーグの優勝チーム同士による年間王者決定戦)にはとことん縁がない。
MLB黎明期の1907・08年にシリーズ連覇を果たして以降、ワールドシリーズには7回出場して全て敗退。1945年以降はワールドシリーズへの出場すらできていない。
劇中で1985年を生きるマーティにとって、シカゴ・カブスとは「40年間ワールドシリーズとは無縁の弱小チーム」を意味する。そんなカブスが世界一になったから驚いたのだ。
カブスが優勝できない、というエピソードは、MLB好きにとっては「ヤギの呪い」として語られるほどの定番ネタだ。映画とは少し離れるが、ここで「ヤギの呪い」について書いておきたい。
1940年代、シカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドには、いつもペットのヤギを連れて球場入りし、声援をおくる熱狂的なカブスファンがいた。ところが、1945年のワールドシリーズ、シカゴ・カブス対デトロイト・タイガースの第4戦に限って、球団側は今まで問題にしていなかったヤギの入場を拒否したのだ。
このことに激怒した男は、「2度とここでワールドシリーズがプレーされることはないだろう」と言って球場を後にした。すると、この言葉がまるで予言であったかのように、カブスはここから3連敗してワールドチャンピオンを逃してしまう。そして70年たった今でも、ワールドシリーズはもちろんのこと、リーグ優勝もできないチームになってしまったのだ。
このエピソードを知っておくと、劇中でのマーティの怪訝な表情がより理解できるはずだ。
「マイアミ」になぜ驚くのか?
では、もう一方の「マイアミ」について。
マイアミのチーム、といえば、イチローが所属するマイアミ・マーリンズが思い浮かぶ。だが、カブスと違い、映画のなかで具体的なチーム名は言及されていない。なぜなら、1985年時点でマイアミにはMLBチームが存在しないからだ。
マーティが驚いたのは、まったく知らない球団が栄えあるワールドシリーズに出場していたから、にほかならない。
これは日本に置き換えると、2045年にタイムトラベルしてみたら「新潟の球団が日本シリーズに出場し、負けていた」という感じではないだろうか(なんか、ちょっとありそう、という点も含め)。
実際にマイアミにMLBチームができたのは1993年のこと(※当時は「フロリダ・マーリンズ」)。ただ、球団創設後わずか5年でワールドシリーズを制覇するという、カブスとは対称的な好成績も残している。
ちなみに、シカゴ・カブスとマイアミ・マーリンズはどちらもナショナルリーグ所属。リーグ再編がない限り、この先も映画のようにワールドシリーズで対戦することはありえない。
いずれにせよ、制作陣は最新VFXに頼らず、「シカゴ・カブス対マイアミ」という台詞だけで“意外性のある30年後の未来”を描いた、というわけだ。
2015年、シカゴ・カブスの「未来」は?
で、現実世界が面白いのはまさにここからだ。
2015年10月21日現在(※日本時間)、シカゴ・カブスはワールドシリーズ出場をかけた「ナ・リーグ優勝決定シリーズ」を戦っている。
この原稿を書いている時点ではニューヨーク・メッツに2連敗中。またしても「ヤギの呪い」に屈するのか。それとも、「カブスがワールドシリーズで優勝!?」というBTTF2の予言が現実となるのか。
映画ファンも野球ファンも、この先の「未来」に注目だ。
(オグマナオト)