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完全燃焼したかった

――梅澤さんは現在放送中の「スイートプリキュア♪」、10月29日から全国ロードショーの「映画 スイートプリキュア♪とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪」のプロデューサー。
梅澤 私がさいしょに手がけたのは「映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!」(07年)。テレビシリーズだと6年目の「フレッシュプリキュア!」(09~10年)からプロデューサーを務めています。
――さいしょは映画からなんですよね。そこからテレビシリーズにうつった経緯は。
梅澤 初代の「ふたりはプリキュア」から「Yes!プリキュア5GoGo!」まで鷲尾天プロデューサーが5年間勤め上げた。「フレッシュ」を担当するときに私が会社から言われたのは「新しい『プリキュア』を5年間つくってくれ」と。あ、さいしょから5年って決まっているわけではないですよ? それくらいの意気込みで、ということですね。
――鷲尾さんが「プリキュア」を立ち上げて、5年目にはもうすっかり「プリキュア」というシリーズは定着していました。そこから新しいものをつくるというのは大変ですよね。
梅澤 子どもたちに絶大な人気があり、ブランドも固まっていた。
ここから「新しいもの」と言われても、うーん……って(笑)。考えていたのは、なにをもって「プリキュア」なのかということと、子どもたちはなにが好きなのかを調べることからはじめました。
――マーケティングを。
梅澤 徹底的にね。子どもたちの好きなものを全部取り込んでみようと「フレッシュ」ではプリキュアたちにダンスをやらせた。ダンスの振付は「デジモンセイバーズ」で知り合った前田健さんにお願いしようと、まっさきに声をかけたんです。まだスタッフもなにも決まっていないのに(笑)。
――そうなんですか。「フレッシュ」は梅澤さんと前田さんふたりでスタートしたんですね。
梅澤 そしてほかのキャラクター、キュアベリー・蒼乃美希はファッションモデル、キュアパイン・山吹祈里は動物病院。あと、商店街を舞台にして花屋さんやパン屋さんを盛り込んでいった。
――梅澤さんの「プリキュア」はストーリーの途中でプリキュアが追加されるのが特徴的ですよね。
「フレッシュ」では敵キャラクターだったイースがキュアパッションになりました。
梅澤 途中から現れるプリキュアは、「プリキュア」でやろうとしているテーマにとても効果的に反映できるんです。「フレッシュ」は「幸せとはなにか」というテーマがある。プリキュアと敵組織ラビリンスが思う幸せは違う。どちらが悪いということではないんですけど、ラビリンスは人を不幸にしている、行為は悪いんです。その狭間で「幸せとはなんだろう?」ともがく人間が必要だったんです。それがイースであり、キュアパッション。
――テーマからキャラクターが生まれているから、物語の展開に合わせて、自然と追加キャラクターがでてくるんですね。これは絶対やめようというか、守っていたことってありますか?
梅澤 1年でやりつくしたいから、2年続けるのはやめようと思っていました。完全燃焼したかったんです。


「鏡の国」から「ハートキャッチ」へ

――次の「ハートキャッチプリキュア!」(10~11年)も?
梅澤 そうです。でも、人気がすごければ2年やったかもしれない(笑)。

――「ハートキャッチ」ってすごい人気ありませんでした?「プリキュア」を知らない大人がみんな観ていたり。
梅澤 そこはほとんど関係ないです。もちろん大人のみなさんの人気はありがたいんですけど。
――そうなんですか。子どもたちはいつもどおりだったんですね。大人向けにつくってみたいとか思ったりはしないですか?
梅澤 大人向けにつくりはじめると子どもは気づいてしまう。これは自分たちのものじゃないなって。それに親御さんも敏感ですからね。「フレッシュ」で「告る」「彼氏」ということばを使ったんですけど大ブーイング。親としてはまだ子どもたちにはそういうことばを使って欲しくないんです。だからプリキュアたちは中学生でありながら、子どもたちの身近な、たとえば幼稚園で起こっていることを違和感なくストーリーとして進めています。
――とてもじゃないですけど、恋愛要素は入れられないですね。

梅澤 入れることによって意味が出てくれば問題ないですよ。ん~、でもまだ私のなかで「プリキュア」に恋愛が必要だとは思っていないんです。
――「フレッシュ」がはじまったとき雰囲気が変わったなと思っていたら、「ハートキャッチ」でまたガラっと変わりました。
梅澤 「ハートキャッチ」は苦労しました。次なにでいこうって(笑)。「フレッシュ」のときにモチーフにしながらもフィーチャーできなかった「お花」と、人気があった「ファッション」を掘り下げました。
――ファッション部がすごい活躍していましたよね。えりかはいいキャラだったなあ。
梅澤 あと、「フレッシュ」はそれまでの「プリキュア」よりもストーリーを重くしたけど、子どもたちは割とついてこられた。もっとやってみようと、「心」をテーマに。
――人々が抱えている悩みを敵に利用され、怪物になる。それをプリキュアたちが救う。

梅澤 けっこう重いんですよね。だから、キャラクターの雰囲気を柔らかくするために馬越嘉彦さんにキャラクターデザインを頼み、ギャグも多くした。長峯達也監督の演出センスも欠かせなかった。
――第一話を観たときに「敵側にプリキュアがいる!」って驚きました。
梅澤 ヒントになったのは「映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!」なんです。「鏡の国」のテーマは「1秒前より成長している自分」。そのアンチテーゼとして、1秒前につくりだされたプリキュアのコピーであるダークプリキュアたち。「鏡の国」のダークプリキュアが「ハートキャッチ」のダークプリキュアに活きているんですよ。


ハミィはまったく揺るがない存在

――そして「スイートプリキュア♪」に。
梅澤 もう無理って。
――む……?
梅澤 次のモチーフはどうしよう~! ってなったときに「じゃあ音楽をやろう」って自分で決めました。でも、ほんとうはやリたくなかったんです!
――ええっ!?
梅澤 音楽をテーマにすると、嘘をつけないんです。
楽器の演奏シーンとか大変ですよ。
――ああ、ピアノのこの鍵盤押してこの音はでない! とか。
梅澤 そうそう。だからもっと大きいテーマでやればなんとかなるかなと。もの自体はなんでもないけど、使う人間によって善悪が決まるというのが「スイート」のテーマになっています。音符ってマイナーにもメジャーにもなる、楽しい歌も悲しい歌もある。これはぴったりだなと。みんなそれぞれ心のなかに音楽があって、それが集まるとひとつの壮大な音楽になる。そういう意味を含めて「組曲」なんです。
――さいしょに「スイート」と聞いたとき「あれ、どんな意味だったっけな」って考えました。
梅澤 「スイーツ」のほうと勘違いしませんでした?
――……しました。
梅澤 それでもいいなと思っていたんですよ。だから奏がよくカップケーキをつくっているんです。
――ああーそうだったのか! 妖精のハミィがすごい好きです。めちゃくちゃかわいい。同じ猫の姿の妖精セイレーンはキュアビートになりました。ハミィが人間になったりは?
梅澤 まったくないですね。善になるか悪になるかというテーマのなかで、まったく揺るがない存在なのがハミィなんです。これが姿形でも変わってしまうわけにはいかない。
――ちょっと安心しました(笑)。あのままでいてほしい。
梅澤 ハミィは「伝説の楽譜」に記された「幸福のメロディ」を歌いたいだけ。第1話から最終話までなにも変わることはないです。純粋無垢なんです、だから体も真っ白(笑)。
――……ほんとだ!
梅澤 つまり、まっさらな伝説の楽譜に音符をどう置くかが根幹のテーマ。それが登場人物の感情にもつながっているんです。みんな表と裏があって、使い方次第で喧嘩してしまうこともあるけど、仲良くもなれる。


ミューズの試練

――響と奏がさいしょによく喧嘩をしていたり、悲しい音楽の国マイナーランドのボスだと思っていたメフィストが操られていただけだったり、その部下のファルセットがちょっと黒幕っぽかったり。
梅澤 いろいろあるでしょう。それって幼稚園や保育園で毎日起こっているできごとと変わらないんですよ。
――え、あんな壮大な幼稚園時代だったかな……。
梅澤 ついなにかしてしまったときに謝ることができなかったとか、順番を守りましょうだったり、嘘をついたらいけないんだよもそうですね。そういう当たり前のことを大人っぽく描いているだけなんです。すごく単純なことなんですよ。だから今回の「映画 スイートプリキュア♪とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪」でも、お父さんと娘がコミュニケーションを取ることでひとつのパワーになる。そして操られている母親を……おっと、いけない。
――え、ちょっと……もう少し!
梅澤 続きは映画館のなかで確かめてください。それでは……。
――ああ、待ってください。もうひとつだけ!「スイート」の第35話、36話でとうとうキュアミューズの正体がアコちゃんだと判明しました。小学生なんですね。アコちゃんっていくつですか?
梅澤 小学3年生。9歳です。
――ひえー、一桁! 響たちは14歳だから5歳差。思い切っているなあ。
梅澤 そうですか?
――プリキュアは中学生のイメージがあって、「ハートキャッチ」のキュアムーンライトは高校生でしたけど。
梅澤 ムーンライトはけっこう受け入れてもらえましたね。子どもたちから観ると高校生は大人。小学生はまだ身近な存在だけど、中学校って未知の世界で、背伸びして届くか届かないかくらい。だからプリキュアは中学生なんだと思っています。
――そっか、ミューズはいままでのプリキュアのなかで、いちばん子どもたちに身近な存在なんですね。メイジャーランドのお姫様ですけど。
梅澤 そうですね。子どもたちに近い分、感情の変化やどう動くかは重要です。
――ミューズのことを考えるとつらくなりますよ。お父さんが操られていたと思ったら、こんどはお母さんが操られる。映画が終われば少しは落ち着くのかなあ。
梅澤 ふふふ。
――え?
梅澤 ミューズの試練はこれからです。ミューズは音の女神なので、そうすると敵は音を否定する存在になりますよね。
――ということは、ミューズがこれからの「スイート」を牽引していく?
梅澤 いえ、あくまでも主人公はキュアメロディ。ただ、ミューズは音楽の国のお姫様でもあり、プリキュアでもあり、ただの小学生でもある。そんな彼女がこの世界に起こっているできごとや、最後の敵ノイズとどう関わり、対処していくのか、これは今後大きな問題になっていくと思います。
(加藤レイズナ)
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