新作アニメが始まると、こんな言葉がネットに飛び交うようになります。
「これブヒれる?」
「ブヒイ」
豚ですね。
そう、豚なのです。
 
2010年末くらいから今年にかけて、急激に広がったのがこの「ブヒる」という動詞です。
端的に言うと「萌え」を超えた、一つ上の表現です。
ちょーっと「萌え」文化を巡る足跡を言葉からたどってみるとしてみます。

90年代から広がった「萌える」という単語。可愛い子を見て高ぶる気持ちの表現として、ネットスラングになりました。インターネットのないパソコン通信時代ですね。
最初は動詞でしたが、次第に「萌え」という名詞に変化します。
つまり、ある対象、主に二次元のキャラクターに対して感じた感情表現から、キャラそのものの持つ属性へと変わった、ということです。
注意したいのは、「萌え」=「性衝動」ではないところ。どうしても男性が女性キャラに使うことが圧倒的に多いので「萌えって女の子キャラでしょ?」となりがちですが、必ずしもそうではないです。「廃墟萌え」「田んぼ萌え」のような使い方もします。
「好き」に近くて、それより興奮に近い。ちょっと変化球。
ちなみに、「萌え」と実際に口に出すオタクは現時点ではほとんどいないヨ。

と、ここまで書いてきて「それは違うよ!」と思う人多いと思います。
はい、そのとおりです。
というのも、今は「萌え」自体が文化に浸透してしまって、どこからどこまでが「萌え」なのか分からなくなってきているからです。
最初は「キャラクターが好きだから萌える」と感じていたのに、「萌えキャラ」と先行してしまい、逆転する現象が00年代に起こり始めます。マスコミのフィルターも通すことで、さらにいびつで不思議なものに変化していきます。
「萌え」の語は100人いれば100通りの解釈のある、定義のしようのない言葉になりました。

ここで「萌え」派生語として「俺の嫁」という言葉が生まれます。
読んで字のごとし。そのキャラと結婚したいくらい好き、という意味です。

キャラクターAに対して、恋愛感情をいだいている、という極めて分かりやすい物。女性が男性キャラに使うこともあります。しかしこれも、男性が男性キャラに使うこともあるので、必ずしも恋愛感情のみではありません。「萌え」の一歩上だ、と考えるのが分かりやすいです。
で、現在でも使われていますが、割と減ってきました。
なぜなら「その子を俺・私が好き」ではなく「キャラクターがそこにいるだけで幸せ」という見方に変わってきているからです。

そこに来て!
10年~11年度に入っての「ブヒる」ですよ。
「萌え」のような曖昧さは一切排除。「俺の嫁」のような自分との関係性もなし。
名詞じゃないのがポイントですね。
つまり自ら選んで行動するのです。
一見侮蔑語のように見えます。
だって、豚だもんねえ。豚って言われて嬉しい男性も女性もいないよ。元になっている「萌え豚」自体は蔑称でしょう。
ところがこれ、ものすごいプラスのイメージで、自ら使うこと圧倒的に多いんですよ。
ここが面白い。

言葉自体は前からあったかもしれませんが、実際に広くネットで使われるようになりはじめたのは、「IS<インフィニット・ストラトス>」からです。
具体的どういう状態かというと、好きなキャラクターに興奮していることです。
あっ! すっきりと最初に戻った!
加えて、「キャラ対自分」というだけではなくなりました。「とにかく見ていられればいい」という第三者視点の意味あいも非常に強くなってきています。例えばヒロインに彼氏ができても、それがニヤニヤできるようなかわいらしいものだったら「ブヒれる」のです。

例えば、現在人気の「花咲くいろは」という作品は、多くのファンにブヒられています。
なんせ、キャラクター原案の岸田メルがこう自ら言っていますからね。

Twitter / 岸田メル: 萌え豚とブヒるって言葉すごい好きです。ブヒってもらえるよう頑張ります。俺もブヒっていきたいと思います。
Twitter / 岸田メル: あとこのアニメは ブ ヒ れ る#hanairo
なんか、潔いですよ。

「萌え」が何らかのかわいらしいものへの概念になったとしたら、「ブヒる」はきっちりと自分がそのキャラや関係性を「好きです、興奮します!」と言い切る。使い分けられるようになったんです。
この言葉を発明した人はすごいですね。
同時に、文化的に難しくなってしまった「萌え」の概念論争から「そういう論争するより、好きなキャラ見ていたいですから!」と決別している言葉にもなっています。
非常にライトに作品楽しんでいるんですよね。
最初にも書きましたが、アニメが始まるたびに「どの子にブヒる?」とか会話するようになりました、ネット上で。
え? 人を捨てたのかって?
そうかもしれない、でも人を通り越したとも言えるかもしれない。

まだまだ歴史のあさい「ブヒる」という語ですが、今後どう展開していくか気になるところ。

……ですが、ぶっちゃけ難しいこと考えるより「○○ちゃんブヒィ!」って言っている方が楽しいです。
ちなみに最近ぼくは「DOGDAYS」ってアニメで思う存分ブヒってます。
ブヒィ!
(たまごまご)
編集部おすすめ