spoon. Magazine
ところが、知人と話していたら「spoon.ってアニメ雑誌でしょ?」と言われてひっくり返りました。
そういう認識にもうなったのね?!
spoon.自体はファッションやカルチャーの本なのはいまもかわりません。
2013年6月号も、アンジェリックプリティのコレクションが載っています。
あくまでも今も「スタイルのある女性のための情報セレクトマガジン」です。
でも今書店に行くと数多く並んでいるのは、アニメ表紙の方のspoon.。これは確かに勘違いされてもしかたない。
これを見ていく時にキーワードになるのは、上坂すみれという声優と、ロリータの2つです。
現在spoon.は細分化されています。
spoon.本誌→自らのスタイルを貫く女性の情報雑誌。女性誌棚にある。
別冊spoon.→アニメや音楽カルチャー寄りの写真多めな情報誌。
別冊spoon.2Di→完全にアニメ特化にした情報・インタビュー誌。
別冊spoon.Cloud_G→二次元のガールおよび二次元と精通しているガール、クラウドガールの魅力を特集する雑誌
多いですね。下3つ(内2つは「別冊」のシリーズ扱い)がアニメ寄りで扱っている店も多く、「spoon.はアニメ雑誌」という印象が強くなってきています。
以前から確かにハチクロなどの特集もあり、さりげなくアニメ寄りの記事はチョイだししていました。
おそらく大きな転機になったのは、本誌で「けいおん!」映画版を特集したころだと思います。
限りなく女性誌としての視点を大切にしながら、大々的にけいおん!のアニメに触れ、表紙も描きおろしなのは、衝撃でした。
それ以降今も、特に京都アニメーション作品とのつながりが深く、2Diシリーズは独自の女性誌視点でインタビューをする、変わった雑誌になりました。
バラバラにわかれたspoon.ですが、、いずれも最終的には「スタイルのある女性のための情報セレクトマガジン」になっているのが興味深いところ。
その旗印になっているのが、声優上坂すみれの存在です。
ロリータファッションブランド「BABY.THE STARS SHINE BRIGHT」を私服として身を包み、ソ連の文化をこよなく愛し、ミリタリーを熱く語り、昭和カルチャーのマシンガントークをする。
初めて見る人からしたら「なんじゃこりゃ!?」という混沌とした存在。彼女の発言一つ一つ、まるで学者のように詳しい。
最近『七つの海よりキミの海』という曲でCDデビューしましたが、この曲もまたよくわかって作られた曲。
アニメ電波ソングっぽいのだけれども、ちょっと違う。コード進行を聞いていてどうも違和感がある。これは「ニューウェイブ」じゃないか!
それもそのはず、作曲者の神前暁によると、上野耕路リスペクトらしい。戸川純のユニット、ゲルニカもろ狙いです。
ジャケットも、どうも横尾忠則のにおいがする。意図的に何か狙っている。
とことんまで自分の好きなものをふり掲げながら、ぶれることのない彼女。
その上坂すみれのライフスタイルは「モテるためのファッション」ではありません。
自分の装甲としてのロリータ服。自分のためのスタイルです。
最初に上坂すみれをspoon.が大きく扱ったのは、『別冊spoon.18』。
ここでは14ページ中12ページはロリータ服を着た上坂すみれのグラビアになっており、インタビューは2ページ程度。
どんな所、どんな気温でも、がっちりと甘ロリで身を固めています。昭和イメージをまぜこぜに描きとめるイラストを毎日描き続けます。
これはまったくもってspoon.の求めていた「自分のスタイルを持っている女性像」とマッチしました。
その次に『別冊spoon.22』でも、上坂すみれが小説の挿絵をやっている、という声優なのかなんなのかわからない特異な扱いに。
その後、『spoon.2013年2月号』では「声優属性」という特集を組み、アイドルではなく、二次元に自らが入り込む変身願望について書かれます。
この号では、上坂すみれの半生を小説にする、という面白い試みが載っています。
ロリータに詳しい作家大石蘭が描いた『思春期と装甲』というこのノンフィクション小説は、自らを乙女として繋ぎ止めるロリータ服との出会い、ファンタジーと現実を行き来できる職業としての声優、ロシアを愛するがゆえに上智大学に行ったことなどを綴っています。
うわーわかるー、という人と、ぜんぜんわからない、という人がいるのを承知のうえで書かれた文章です。
だからこそ、上坂すみれに興味のある人、自分のスタイルを守りたい女性には強く響く内容になっており、ぼくもロリータ・ファッションの持つ「装甲」性に強く惹かれました。
わからない人には、わからないままでいい。
『別冊spoon.32』では『ガールズアンドパンツァー』特集とともに上坂すみれのカオスな歌手デビューの様子、大先輩としての桃井はることの対談ががっつりと掲載されました。
びっちり文字のつまったロング対談では、彼女たちが考える「オタク」とは何か、孤立して一人で楽しみ、自分と向き合う楽しさについてがっちりと語られています。
上坂「お一人様が寂しくない街だっておっしゃっていて。確かに私も、中野もアキバも好きですけど、一人でいても全然一人じゃない感じがするし、だからなんか勝手にシンパシーを感じて、うつむきながらにこにこしていました。気持ち悪いですけど(笑)」
桃井「すみれちゃんのちゃんと孤立してきた感じがいいと思うんです。私、孤立しないといけないと思うんですよ」
仲間を作りたいとか、モテたいとか。そういうのを全く考えないライフスタイルはなかなか読んでいて面白い、ある意味古いオタクであり、新しいカタチです。
上坂すみれはラジオなどでも、モテることや友達を増やすことは、ほとんど興味を持って語りません。ただ、趣味の同志を増やすことには熱弁をふるいます。
ロリータ服という装甲を身にまとい、ロシア愛やミリタリー愛で武装し、ひたすら中野にこもって筋肉少女帯や戸川純やザ・スターリンやブラック・サバスを聞く。
この生き方をさらにspoon.は追い続けます。
『別冊spoon.36号Cloud_G』では、彼女が憧れていた大槻ケンヂとの対談が掲載されています。
ラジオ「乙女*ムジカ」でも対談した二人、その時は緊張しすぎて嘔吐状態、という放送事故みたいな番組になっていました。
そもそも大槻ケンヂ自体、ザ・スターリンや頭脳警察などに憧れてミュージシャンになりました。
そのオーケンにあこがれて、上坂すみれが声優の道を歩み、中野的文化を伝搬している。
題して「大槻ケンヂ×上坂すみれ・ルサンチマン芸伝承対談」。わはは。
大槻「この間のラジオでもすみれちゃんが中野ブロードウェイで学んだ文化は生きてく上でいらない文化だから、全部捨てていいよっていうアドバイスをしたんだよね(笑)」
上坂「いやー、でも私、中野ブロードウェイがなかったら途中で人生をリタイアしていたと思います。だから私を繋ぎ止めてくれた存在です」
大槻「アキバには行かなかったの?」
上坂「アキバは小、中学生から行ってましたけど、アキバって放送しているアニメが終わると、その作品を扱わなくなって、街がどんどん変わっていっちゃうんんです」
あっという間に世代間の差を埋めてしまう様子は、大槻ケンヂ世代には必見。大槻ケンヂもノリノリ。
客観的に共産主義を見て楽しんでいる上坂すみれに対して、主演の映画を見たい、そんな小説書こうかな、というくらい。
spoon.が目をつけている、自分のスタイルをもつ女性像が、アニメ・サブカルチャー方面に向かっていった時、上坂すみれという存在に出会って、これぞ我らが生き方!と高らかに旗をあげているのが如実に見えます。
上坂すみれは「私に共感する人がそんなにいるんですね?」ととことんマイペース。
かなり目立つ存在なので、おそらく今後メディアでも「変わった人がいる」とどんどん取り上げられて、飛び道具枠になっていく可能性もあるでしょう。中川翔子ポジション、というか。
それもひっくるめて、「私は私」の芯が通っているので、古いものを愛する学者のような安定感も感じます。
就職活動をしないでソ連戦車館を持ちたい、なんていうくらい。声優の仕事も自分のため、趣味も自分のため、好きな事を楽しむために生きる姿。
上坂すみれが今後、色々「本物」に出会うのと同じように、spoon.もまた「本物」探しの旅に再出発しはじめたようです。
細分化されることで本誌がしっかりぶれていないのも見どころ。判型も別冊と本誌で違います。
ルサンチマンを抱えた人間が、育った時にそれを爆発させるのではなく、装甲に身を固めてライフスタイルを作ってしまう道を選び、解脱していくspoon.と上坂すみれ。どちらもこれから「同志」を増やし続ける様が楽しみです。
余談ですが、マンガの男子でも『となりの関くん』や『湯神くんには友達がいない』など、ぼっちでも楽しいじゃないか系の流れ、来ているんでしょうか。
かつてルサンチマンサブカル男子だった自分としては、この考え方なんかすきだなー。だから上坂すみれにもspoon.にも惹かれるのですが。
あー、解脱したい。
(たまごまご)