先日、子ども集団をカラオケに連れて行ってくれたお母さんが、こんなことを呟いていた。
「子どもって、なんであんなにオンチなのかしらねぇ(ため息)……」

なんでも大塚愛の『さくらんぼ』を一人、また一人、そしてまた一人……とどういうわけか全員が交代で歌い、ようやく一回りしたと思ったら、二巡目に突入。
さらに最後に「じゃあ、みんなで『さくらんぼ』歌おうか!」となったのだそうだ。
しかも、全員、つまみがこわれたようなボリュームでのシャウト。ほとんど全ジャイアン状態だったうえ、何かのまわしものではないかと思うほどのレパートリーの少なさは、報告を聞いただけでも、頭が痛くなってくる。
それでいて、高校生~若い人には、あまりオンチがいない気がするけど……。なぜ子どもは、みんなジャイアンのような歌声なのか。

『「裏声」のエロス』(集英社新書)著者で、「音痴矯正ドットコム」を運営する、BCA教育研究所代表の高牧康さんに聞いた。
「子供達、特に園児達の歌唱はほとんどが怒鳴りです。音程は合っていませんが、声は大きく元気です。これは、親や幼稚園などは、美しく正しく歌うより、元気で楽しく歌えれば良いと思っていて、少々音程が外れても気にしないからだと思いますよ」
高牧さんはこれを「大声音痴」と呼んでいる。
「歌声というより、怒鳴るような話し声で歌おうとするので、音域も狭まり、低い声になってしまうのです。こうした声で、乱暴に歌っていると『小児嗄声(ショウニサセイ)』という病気になってしまうこともあるんですよ」

小学校の学習指導要領は今年改訂になるそうだが、実は平成元年までの指導要領では、「頭声的発声で歌うこと」と明示されていたものが、それ以降は「自然で無理のない発声で歌うこと」というように曖昧になっているそうだ。
「つまり、発声について具体的な指示が減ってきたことによって、発声指導方向が変わっているのです。
結果、子供達は歌声を育むことなく、大人になっていきます」

じゃ、もしかして子どものオンチは増えているということ? でも、大人よりもオンチは少ない気がするけど……。
「発声指導は受けていなくても、聴く量は圧倒的に多いからです。携帯音響機器は塾へ行く子供達の必需品です。大人のオンチはオンチの烙印を押されてから、聴くこと自体からも遠ざかりますが、子供達は様々な機会を経て聴いているので、音感は良くなっているのだと思われます。音楽は聴くことから始まりますから」

ちなみに、歌声作りの一番の近道は「裏声を鍛えること」と高牧さん。
子どもの「喋り声、がなり声=歌声」から、ちゃんとした歌声が育まれるには、裏声発声をすることが大切で、裏声発声することで、輪状甲状筋が十分に鍛えられ、音程の調整がしやすいのどを整えることができるのだという。

今は世界を破滅させそうな歌声も、たくさんの音楽を聴き、裏声を覚え、音楽に触れることで、少しずつ「脱ジャイアン声」になるのだろうか。
(田幸和歌子)
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