フェイスブックの人事幹部と組織心理学者のアダム・グラントが、同社従業員に対する調査をもとに、人が働くうえで重視している3つの動機を特定した。筆者らによると、キャリア、コミュニティ、社会的意義の3つであり、これらは年齢や能力、職能に関係なく普遍的な欲求であるという。


 仕事の価値観に関する会話が始まると、じきに誰かが「欲求のピラミッド」を持ち出すことだろう。有名な心理学者、アブラハム・マズローによる最も知られた理論だ。

 彼の説によれば、人間にはみな「欲求の階層」があるという。基本的な生理的欲求と安全の欲求が満たされると、愛情と所属を求めるようになり、次に自尊心と他者からの敬意を、そして最終的には自己実現を希求するという。

 だが、このピラミッド説は半世紀以上も前に唱えられたものであり、近年になって心理学者たちは、改新が必要であると結論づけている。

 過去数十年の社会科学における証拠を見直すと、マズローの論拠に異論を差しはさむのは難しい。基本的な欲求が満たされていなければ、他のことに目を向けるのは困難だ。仕事で十分な報酬が得られず、どうやって生き延びるかを一晩中案じていたら、自己実現について考えを巡らせる時間はあまりないだろう。

 だが、マズローが欲求のピラミッド説を提唱したのは、エルトン・メイヨーによる「人間関係論」の黎明期のことであった。つまり、当時の製造業における非常に多くの職場では、基本的な生理的および安全の欲求に対応できていなかったのだ。

 今日では、知識産業とサービス産業に身を置く企業が多くなった。これらの企業は、単に基本的な欲求を満たしているだけではない。あらゆる欲求に応えようとし、食事からジムまで利便性を提供して、最も働きがいのある職場となるよう競い合っている(1984~2011年の間に、「全米で最も働きがいのある企業100社」に選ばれた企業は、株式リターンが同業他社よりも年率2.3~3.8%上回っていた)。このような環境では、生命の維持は問題ではない。

 しかも、この基本的欲求の階層を通過してしまえば、残りは段階を追う必要がない。愛されていなくても、敬意と達成を希求することもある。それらが満たされる前に、個人的な成長と自己表現を追求することもある。

 マズローが今日、ピラミッド説を一から組み立てるとしたら、どのようなものになるだろうか。基本的な欲求を超えて、人に働く意欲を与えるものは何かを、どう説明するだろうか。

 我々は、フェイスブックのピープルアナリティクスチームとの協働により、この疑問への答えを出そうと試みた。