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リゾート運営で実績を挙げる星野リゾートと業績をV字回復させた無印良品。2つの企業には「本質が何か」を突き詰めた上で、戦略を立てたり、仕組みを生み出したりする共通点がある。では、本質を捉えるとは、いったいどのようなことを指すのか。事例を基に「本質観取」という哲学的思考法を紹介する。
星野リゾートが考える観光の本質
前回までは、「方法の原理」を例に、組織が不条理に陥らず、まっとうに意思決定するために、構造構成主義という哲学に基づく組織行動学がいかに役立つかを論じてきた。この方法の原理とは、方法の最も重要なポイント、つまり本質が⑴状況と⑵目的により方法の有効性は変わるというものであった。
実は、“本質”をとらえることで、傾いた経営をV字回復させた経営者も現れている。まず取り上げるのは、全国の経営不振に陥った旅館やリゾート施設の再建で注目されている星野リゾート代表の星野氏の取り組みだ。星野リゾートが教科書通りの科学的な経営を行っていることは『星野リゾートの教科書』を読めばよくわかるが、星野氏自身は、実は哲学的思考法に基づく経営も行っている。
星野氏は次のような問いを立てる。「観光とは何か?」「人はなぜ観光をするのか?」これは観光の「本質」を洞察しようとする試みに他ならない。こうした思考方法を哲学(現象学)では、「本質観取」(本質洞察)と呼ぶ。その問いに対して、星野氏らが辿り着いた考えは、次のようなものだった。「観光とは旅行先での異文化体験であり、非日常体験である。」その地域らしさに根差した、本物の異文化をお客様に体感してもらうことが重要だと考えたのだ。
たとえば、青森のリゾート施設では、スタッフも含めて「青森らしさとは何か?」と問いを立てた。つまり、青森らしさの本質観取を行ったのである。星野氏が一番青森らしさを感じたのは「津軽弁で話されて何もわからなかったとき」だったという。そうした「青森らしさ」の本質を追究し、青森ならではの異文化体験をしてもらうために、「スタッフが津軽弁で話す」「毎晩、ねぶた祭をする」「津軽三味線を引く」といった催し物を設けて、傾いた経営を見事立て直したのである。
通常、地方のホテルや旅館は、東京のホテルを真似しよう、東京に近づけようとするところがほとんどである。しかしそれでは、わざわざ遠くから地方に観光にいく意味はない。星野リゾートでは、「観光とは旅行先での異文化体験であり非日常体験である」という観光の本質をふまえて、その地域らしさの本質(特色)を自覚的に取り出した。そして「青森だからこそ体験できる非日常の異文化体験を経験してもらう」ための戦略を立て、実行したのである。