【CCPLv3.0】著作者人格権(同一性保持権)に関する議論

CCライセンスv3.0の2つ目の論点は、著作者人格権の取り扱いです。

日本版のCCライセンスでは、すでに、著作者人格権については、名誉声望を害するような改変の場合には同一性保持権が行使できますが、それ以外の場合には行使できない、という整理を行っています。ところが、世界的に見ると、著作者人格権が法律で明記してある国とそうでない国(たとえば米国)があり、法律で著作者人格権についての規定がある国の中でも、CCライセンスで著作者人格権の取り扱いについて言及している国としていない国があり、言及している国の中でも、尊重している国や放棄している国(たとえばカナダ)があることが分かりました。

CCライセンスは、目標のひとつとして、世界中でできるだけ共通の作品の利用ルールを提供することを掲げていますので、このような取り扱いの違いはあまり好ましいことではありません。

さらに、クリエーターの間では、著作者人格権についてはCCとして尊重すべきである、という声がありました。

これらを受けて、v3.0では、著作者人格権のある国においては、実務的に可能な限り、著作者人格権を尊重することを、ライセンス条項とコモンズ証の双方に記載することになりました。具体的には、ライセンスの禁止条項のひとつとして、以下のような文言の追加が検討されています。

「著作者から別途書面での合意を得ていない限り、あなた(作品の受領者)はこの作品を利用するに当たり、その作品に関連して著作者の名誉または声望を害するような行為を行ってはなりません。」

ここで、皆さんに理解していただきたいのは、世界的には、著作者人格権のうち同一性保持権は、日本の著作者人格権とは基準が異なる、ということです。日本の著作者人格権は、著作者の意に反する改変について同一性保持権を広く認めています。これに対して、世界的には、著作者の名誉声望を害する態様での改変に限って、同一性保持権の行使を認めている国がほとんどなのです。したがって、このような限定的な範囲での同一性保持権について尊重する、という方針を採ったとしても、日本で議論されているような「いかなる改変でも同一性保持権侵害になる可能性が否定できない」といった危険性は存在しないのです。(ちなみに、日本では、近年追加された実演家人格権では、この世界標準に合わせて「自己の名誉または声望を害する」改変のみに同一性保持権の行使を認めていますね。)

ブラジルでの会議では、日本のように、同一性保持権が世界水準から外れている国があることについても注意を喚起しましたので、実際の運用においては、上記v3.0で議論されている方針の趣旨を最大限尊重した形で、各国のCCが最適なライセンス文言を決定する裁量を与えられることになります。

したがって、すでに同一性保持権について手当てをしている日本のライセンスでは、大きな変更点はないと考えられます。ただし、コモンズ証において著作者人格権の尊重を明記する、という部分については、この方針が本格的に決定した後の、日本語版ライセンスのバージョンアップの過程で、その対処方法を議論して決定することになると考えます。

文責:野口

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