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歴史を読み解き、未来へのヴィジョンを発信していく – アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ 小川秀明 インタビュー 前編

July 8, 2015(Wed)|

ogawa

Credit: Florian Voggeneder

アルスエレクトロニカ・フューチャーラボに所属する日本人アーティストの小川秀明さんをご存じでしょうか。近年、大阪でのイベントシリーズの実施や、博報堂との共同プロジェクトFuture Catalystsの開始など、以前にも増して精力的に日本で活動されています。

今回、2014年9月のアルスエレクトロニカ・フェスティバルで収録された、未公開の単独インタビューを前編・後編の2回にわたってご紹介します。メディア・アートの祭典として有名なアルスエレクトロニカが近年見せている変化、なかでも企業とのコラボレーションや、日本を含めた外国で活動を展開する背景が語られた貴重な内容となっています。

前編は、フューチャーラボの膨大な活動のうち、最新の事例をまとめてご紹介いただいています。

Article by Haruma Kikuchi (UNIBA INC.)
Images from Ars Electronica




菊地:1年ぶりのインタビュー、よろしくお願いします。まずはここ1年のフューチャーラボの活動について伺えますか。2013年はSpaxels(スペクセルズ)とKlangvolke ABC(クラングボルケABC)が象徴的だったというお話がありました。(2013年のインタビューはこちら

小川:そうですね、まず最初に、Spaxelsが「Smart Atoms」という研究テーマとして進化し、伸びているというのがあります。




MITの石井先生もRadical Atoms (ラディカル・アトムズ)という形で先駆的に取り組んでいますが、いわゆる現実空間のなかにプログラム可能な、スマートなアトムというものをどう考えて、それをどう具現化していくのか、という試みがいま世界中で起きています。

今年のフェスティバルでは、この分野の探求について、三つの代表的な活動が紹介されていたように思います。一つは石井先生のMITタンジブルメディアグループの活動、次にフューチャーラボの活動、そして、慶應大学の筧さんの研究活動です。筧さんのグループは、日常の中のモノゴトを観察して積み上げて、それらをプログラム可能な視点で再構成しているのに対して、フューチャーラボはSpaxelsをきっかけに、その可能性を因数分解しているように感じます。

我々は、メルセデスベンツとも共同研究を進めており、ロボットや自動制御可能な物が今後どうなっていくのだろうというパフォーマンスを、ベルリンでお披露目しました。



次に、アルスエレクトロニカの雰囲気を日本でも体感してもらえるような場作りを、積極的に展開しはじめたことです。例えば、Ars Electronica in the Knowledge Capitalというプログラム。大阪梅田のナレッジキャピタルは企業、研究機関、大学などによるオープンラボ形式で構成されていて、一般の人たちのフィードバックが得られるイノベーションセンターになっています。たとえば、大手前学園のスイーツのラボとか。面白いですよね。我々のプログラムは、春、夏、秋、冬と季節ごとにこの大阪のイノベーションハブにイベントを展開するもので、アルスメンバーと海外アーティスト、そして日本人アーティストによる、トーク、ワークショップ、展覧会イベントとして定着しつつあります。

第一回目は、Golan Levin(ゴラン・レヴィン)、エキソニモ、Gerfried Stocker(ゲルフリート・ストーカー)とぼくで、テーマは”CODE – the language of our time”。 3ヶ月間のミニ展示と、3日間のスペシャルプログラムで構成されています。第二回目は、Oron Catts(オロン・カッツ)、福原志保さん率いるBCL、日本のバイオアートを牽引する岩崎秀夫さん、そして僕で、テーマは”HYBRID –living in paradox”。実は両方とも、過去のアルスエレクトロニカ・フェスィバルのテーマなのですが、 アルスエレクトロニカが探求してきたテーマを再訪問することで新しい線となり、議論を広げてゆくようなプログラムを意識しています。東京ばかりに集中していた、メディア・アートのイベント、コミュニティを大阪にも仕掛けて行きたいと思っています。

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Credit: Knowledge Capital

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Credit: Knowledge Capital

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2015年1月に開催された「Ars Electronica in the Knowledge Capital vol.02 HYBRID Living in Paradox アート x 生命科学の探求展」の様子 / Credit: Knowledge Capital

そして、新たな活動というのであれば、博報堂と開始した、Future Catalysts(フューチャー・カタリスツ)があります。「未来への触発」をテーマに、アートが刹那的な飾りやエンタテイメントでなく、未来を切り開くための力であることを実践してゆくプロジェクトが始まりました。アートが産業や行政と対等に向き合い、新しいソーシャル・コモンズ(社会の中の共有財産)を生み出して行く。そんなことを考えています。

以前からぼくたちアルスエレクトロニカは「社会の中のアート」と言い続けてきましたが、いよいよそれが何なのか説明できるようになってきているような気がしています。ここ1年はそれを深め、言語化する作業を行ってきました。

その背景にある考え方として、ぼくらが使っている言葉、「アートシンキング」が新たな発見です。今年のフェスティバルカタログにも書いているのでぜひ読んで下さい。

デザインシンキングは企業の中で製品やサービスを創造してゆくためのデザインプロセスです。多くの産業が必要とするイノベーティブな手法ですが「現在」の課題を解決するためのものとも言えます。

アートシンキングは、「現在」というよりは「未来」のためのものと考えています。そもそも、自分たちは何をしているのか。世界、社会は今後どうなってゆくのか。そして、そもそも「人」は一体何を考えているか。このような本質的な問い掛けが、企業や行政のヴィジョンとかストラテジー構築の部分に効能があるような考え方です。

デザインシンキングとアートシンキングは、両方があるからこそ、イノベーションを触発してゆくものだと考えています。ただ今まで、アートシンキングの存在自体があまり議論されてなかったように思えます。アートの本来の力は、決して、イメージ戦略のためや、広告の演出、依存を生み出すようなものではありません。「問い掛け力」なんだと思います。その哲学的な視点が日本の産業や行政と出会い、ものづくりや社会システムを創造してゆけたなら、どんなことが起こるでしょうか。

繰り返しになりますが、結局今まで、企業にとってのアートの位置づけを考えたときに、どうしても演出やデコレーションだったと思うんですよね。広告でも、なんかぼくら格好いいことやってますよ、というところでどうしても終わって、企業の中に哲学の中枢に積極的に入っていくものではなかった。いわゆるCSR活動(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)と呼ばれているものは、どうしても飾りの域を超えなかったと思います。

でも今ぼくらが考えているのは、飾りとしてのアートの作用ではなくて、もっと企業や行政の中の哲学とか、ヴィジョンとか、イノベーションの部分にアーティストが入っていける枠組みを考えることです。それはおそらくCSRじゃないものです。社会にとっての共有の財産とか、価値みたいなものを一緒につくれるような動きに作用できるような、そういう発想が少しでもできるのではないかなという仮説を考えています。

いま、Future Catalysts 博報堂×アルスエレクトロニカを中心にしながら、実践し始めている、というところです。

菊地:そういった活動も、世界の様々な情報や人が集い、35年間、実験をつづけてきたアルスエレクトロニカだからこそできること、と思います。

小川:アルスエレクトロニカが何をもっているかといえば、歴史です。我々のオンラインアーカイブは、これらの情報を一般公開し、誰もが活用できるようにしています。近年、メディア表現のテクノロジーの敷居はどんどん下がってきていて、昔だったら時間をかけて探求、研究してやっとできたものが、すぐに実現できてしまう。それは別に悪いわけじゃなく、もちろん時代とともに進化していて、同じように見えて全く異なるものとして捉えることもできるけれど、知らないよりは知っていたほうがいい。参照することは重要です。そこにどんな新しさがあるのかしっかり見つめることで、作品の意味も深まります。

そして、その歴史の読み解き方や、それらを踏まえた未来へのヴィジョンを考え、発信してゆこうとする姿勢がアルスエレクトロニカにはあると感じます。

菊地:アルスエレクトロニカの参照、もしくはリンクさせていく力は、本当にすごいですよね。
今年のビッグコンサートナイトでは、リンツのオーケストラがスタンバイしている後ろで、1960年代のラジオ局で活動していた電子音楽家、Daphne Oram (ダフネ・オラム)やエリゼ・マリー・ペイド (Else Marie Pade)の当時のビデオが流れていました。コンサート全体でいうとオーケストラと初期の電子音楽が交互にミックスされているような状態です。自然にやっているように見えて、すごいことだと思います。

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Big Concert Night / Photo: Florian Voggeneder


小川:今年は、Roy Ascott (ロイ・アスコット : 今年から新設されたプリ・アルスエレクトロニカのヴィジョナリー・パイオニア・オブ・メディアアート部門の受賞者)のような先駆者や、Future Innovators Summit (FIS)のメンターの人たちもそうですが、アルスエレクトロニカがもつユニークでクリエイティブなものをもう一回再考する、そこに足りない、とりきれていなかったものに対して、ちゃんとスポットを当てる作業をしていると思います。ロイ・アスコットとかは、アルスエレクトニカが始まる前の1979年よりも前の時代からメディアアートにすごく大きな影響、インスピレーションを与えた人です。そこにも今年はちゃんとリンクできたのではないかと思います。

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Roy Ascott (UK) Photo: tom mesic

更に、先駆者と、新しい世代のイノベータたちが出会う場を作ってみよう、と形にしたのが、先ほどのFuture Catalystsが中心になって実現したFISです。象徴的なシーンとして、石井さん(石井裕/MIT:FISにメンターとして参加)とか、ゴラン・レヴィンとイノベータたちが一緒にランチを取りながら議論したり。オリビエロ・トスカーニ(Oliviero Toscani:同じくメンター)とイノベータたちが修道院の庭で意見交換するとか。やっぱり双方にとってインスピレーションになるようなところを、アルスエレクトロニカ・フェスティバルという空間に作れたのが良かったです。

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Future Innovators Summit – Oliviero Toscani

ビッグコンサートナイトの話も、全部リンク力ですよね。どう点と点を繋ぎ合わして、それにアクセスできる状況を作れるのかですね。


取材日:2014年9月9日
フェスティバル会場になった小学校(Akademisches Gymnasium Linz)近くのカフェKonditorei Cafe Leo Jindrakにて、リンツァートルテを頬張りながら

Profile

ogawa小川秀明 (おがわ・ひであき)
アルスエレクトロニカ フューチャーラボ・クリエイティブカタリスト

h.o (エイチドットオー) : http://www.howeb.org/
ogalog : http://ogalog.blog.so-net.ne.jp/






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UNIBA INC.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/

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