1. はじめに
盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者(以下「視覚障害者等」という。)による発行された著作物の利用を促進するため,世界知的所有権機関(以下「WIPO」という。)において,「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(以下「マラケシュ条約」という。)が平成25年6月27日に採択されました。我が国においては,マラケシュ条約の締結のための必要な措置を含んだ「著作権法の一部を改正する法律」(平成30年法律第30号)が,第196回通常国会において成立し,平成30年5月25日に公布されるとともに,本条約の締結についても,同国会において同年4月25日に承認されました。これを受け,我が国は平成30年10月1日にマラケシュ条約の加入書をWIPO事務局長に寄託し,本条約の規定に従い,平成31年1月1日から本条約が我が国について効力を生ずることとなりました。
- ※「著作権法の一部を改正する法律」(平成30年法律第30号)の詳細については,以下のページを御参照ください。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/ - ※マラケシュ条約の詳細については,以下の外務省ホームページを御参照ください。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page25_001279.html
2. マラケシュ条約の概要
マラケシュ条約は,視覚障害者等による発行された著作物の利用を促進するため,[1]視覚障害者等のための著作権の制限及び例外を設定するとともに,[2]当該制限及び例外を適用することにより作成された著作物の複製物を本条約の締約国間で交換する体制を整備するものであり,主に以下について規定されています。
(1)本条約における「著作物」とは,発行されているか又は他のいかなる媒体において公に利用可能なものとされているかを問わず,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約第2条(1)に規定する文学的及び美術的著作物であって,文字,記号又は関連する図解の形式によるものであること。(第2条(a))
(2)本条約における「受益者」は,[1]盲人である者,[2]視覚障害又は知覚若しくは読字に関する障害のある者であって,印刷された著作物をそのような障害のない者と実質的に同程度に読むことができないもの,[3]身体的な障害により,書籍を持つこと若しくは取り扱うことができず,又は目の焦点を合わせること若しくは目を動かすことができない者のいずれかに該当する者であること。(第3条)
(3)締約国は,受益者のために著作物を利用しやすい様式の複製物(点字,大きな文字の書籍,デジタル録音図書等)の形態で利用可能とすることを促進するため,自国の著作権法において,複製権,譲渡権及び公衆の利用が可能となるような状態に置く権利の制限又は例外について定めること。(第4条)
(4)締約国は,利用しやすい様式の複製物が作成される場合には,権限を与えられた機関(Authorized Entity)(以下「AE」という。)が,当該利用しやすい様式の複製物を他の締約国の受益者若しくはAEに譲渡し,又は他の締約国の受益者若しくはAEの利用が可能となるような状態に置くことができることを定めること。(第5条)
(5)締約国の国内法令は,受益者等又はAEが著作物の利用しやすい様式の複製物を作成することを認める範囲において,権利者の許諾を得ることなく受益者のために利用しやすい様式の複製物を輸入することを認めるものとすること。(第6条)
3. 我が国におけるAEについて
マラケシュ条約におけるAEとは,「政府により,受益者に対して教育,教育訓練,障害に適応した読字又は情報を利用する機会を非営利で提供する権限を与えられ,又は提供することを認められた機関」とされており,我が国においては,著作権法施行令第2条第1項各号に規定する主体が本条約におけるAEに該当し,具体的には,大学等の図書館,国立国会図書館,公共図書館,学校図書館等の図書館,障害児入所施設,児童発達支援センター,養護老人ホーム,障害者支援施設等の設置者に加え,視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人で一定の要件を満たす者等が含まれます。
なお,本条約第2条(c)において,AEには,複製物の提供や公衆送信の相手方が視覚障害者等であることを確認することや,許諾されていない複製物の複製,譲渡及び利用可能化を防止すること,受益者のプライバシーを尊重した複製等の貸出し記録の作成等を行うことが求められていますが,著作権法第37条第3項では視覚障害者等の用に供するために必要な限度において,音訳等の視覚障害者等が利用するために必要な方式の複製物の作成や,公衆送信を行うことができるとされており,著作権法施行令第2条第1項各号には,著作権法第37条第3項の規定に基づきこれらを実施することができる主体が列挙されていることから,これらは当然に履行されているものと考えられます。
(参考)マラケシュ条約(抄)
第2条(c)「権限を与えられた機関」とは,政府により,受益者に対して教育,教育訓練,障害に適応した読字又は情報を利用する機会を非営利で提供する権限を与えられ,又は提供することを認められた機関をいう。この機関には,主要な活動又は制度上の義務の一として受益者に同様のサービスを提供する政府機関及び非営利団体を含む。
権限を与えられた機関は,次のことを行うための実務の方法を確立し,これに従う。
(i)当該権限を与えられた機関によるサービスの提供の対象者が受益者であることを確認すること。
(ii)当該権限を与えられた機関が利用しやすい様式の複製物を受益者又は権限を与えられた機関にのみ譲渡し,及び利用可能とすること。
(iii)許諾されていない複製物の複製,譲渡及び利用可能化を防止すること。
(iv)第8条の規定に従って受益者のプライバシーを尊重しつつ,当該権限を与えられた機関が継続的に著作物の複製物の取扱いについて十分な注意を払い,及び記録すること。
4. 利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換について
上記のとおり,我が国においては,著作権法施行令第2条第1項各号に規定する視覚障害者等のための複製等が認められる者が,マラケシュ条約におけるAEに該当しますが,本条約第5条及び第6条に規定する利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換や輸入を円滑かつ確実に実施するため,これらの主体のうち国内外の窓口機能として中心的な役割を果たす機関を,当面,国立国会図書館及び特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会とすることとしています。
そのため,マラケシュ条約の他の締約国の利用しやすい様式の複製物の利用については,国立国会図書館へ御相談いただくことができます。また,「サピエ図書館」の個人利用会員は利用登録された点字図書館等へ,施設利用会員は「サピエ図書館」を運営している全国視覚障害者情報提供施設協会へ御相談いただくこともできます。なお,両機関へのお問合せに際しては,下記の点に御留意ください。
<お問合せ先>
●国立国会図書館(関西館図書館協力課障害者図書館協力係)
TEL:0774-98-1458
e-mail:[email protected]
URL:http://www.ndl.go.jp/jp/support/index.html●特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会
TEL:06-6441-1068
e-mail:[email protected]
<お問合せに当たっての留意事項>
・同条約に基づいて外国の図書館,点字図書館等で製作された録音図書等を利用できるのは,視覚障害者等です。
・資料が販売されている等の理由や,資料の種類によっては,利用ができない場合があります。
・外国の図書館,点字図書館等で製作された録音図書等は,当該言語のまま提供します。(日本語に翻訳するサービスではありません。)
・当該国の公的窓口機関になっている図書館等(他の締約国のAE)に直接お問い合わせいただくこともできます。
- ※他の締約国のAE連絡先は以下のサイトに掲載されています。
https://www.wipo.int/marrakesh_treaty/en/entities.jsp
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