協力し合う飛行ロボット (TEDTalks)

Vijay Kumar / 青木靖 訳
2012年3月

おはようございます。今日お話しするのは、自律的に飛行するビーチボールについてです。違った、こういう自律的で敏捷な飛行ロボットについてです。このようなものを作る難しさと 、この技術の応用にどれほどの可能性があるかお話しします。このロボットは無人航空機と似ています。しかし無人航空機はずっと大きいものです。何千キロもの重さがあって、とても敏捷とは言えず、自律的でさえありません。無人航空機の多くは実際人間によって遠隔操作されていて、複数のパイロット、センサのオペレータ、作戦指揮官などが関わっています。

私たちが興味を持っているのは、私の手にあるようなロボットの開発で、左の写真の2つは実際お店で買うことができます。これはローターが4つのヘリコプターで、大きさは1メートル前後、重さも数キロ程度です。私たちはそれにセンサやプロセッサを後付けして、GPSなしで屋内を飛べるようにしています。

私が今手にしているロボットは、私の学生アレックスとダニエルが作ったものです。重さは50グラムほど、消費電力は15ワットで、見ての通り、直径20センチほどの大きさです。このようなロボットの仕組みを、簡単にご説明しましょう。

4つのローターがすべて同じ速さで回っているとき、ロボットは空中で静止します。4つのローターの回転速度を上げると、上に加速し、上昇します。ロボットが傾いていれば当然、その傾いた方向に進むことになります。ロボットを傾けるには2つの方法があります。この写真で4番ローターは速く、2番ローターは遅く回っています。そうするとロボットを「ローリング」させる力が働きます。一方、3番ローターの回転を速く、1番ローターの回転を遅くすると、ロボットは手前側に「ピッチング」します。

最後に、向かい合った2つのローターを他の2つより速く回転させると、垂直軸を中心に「ヨーイング」します。オンボードプロセッサは、行うべき動作に対して必要となるこれらの方法の組み合わせを求め、モーターに対して毎秒600回送る命令を決めています。それがこの基本的な仕組みです。

この設計が有利な点は、サイズを小さくするほどロボットの動きが敏捷になることです。ここでRはロボットの大きさを表す数字で、実際には半径です。Rを小さくすると様々な物理的パラメータが変わります。中でも一番重要なのは慣性、すなわち動きに対する抵抗力です。回転運動を支配する慣性の大きさはRの5乗に比例します。ですからRを小さくすると慣性は劇的に減るのです。結果として、ここでギリシャ文字のαで表している角加速度は1/Rになります。Rに反比例するのです。小さくするほど速く回ることができるようになります。

ビデオを見るとそのことがよく分かります。右下の映像でロボットが360度宙返りを0.5秒未満で行っています。連続宙返りにはもう少し時間がかかります。オンボードプロセッサは加速度計やジャイロからのフィードバックを受け取って計算をし、ロボットを安定させるために毎秒600回命令を出しています。左下の映像では、ダニエルがロボットを宙に放り投げています。制御能力がいかに強いか分かるでしょう。どんな風に放り投げてもロボットは体勢を立て直して戻ってきます。

このようなロボットを作る理由は何かというと、多くの応用があるからです。例えばこのような建物内に送り込み、侵入者、生化学物質の漏洩、ガス漏れ等があった際の初動対応として調査を行わせることができます。建築のような作業に使うこともできます。ここではロボットが梁や柱を運んで四角い構造物を組み立てています。これについては後ほどもう少し詳しくお話しします。このロボットは貨物輸送にも使えます。小さなロボットは運搬容量が小さいという問題がありますが、複数のロボットで運ぶという手もあります。この写真は最近行った実験で・・・もうそんなに最近でもありませんが・・・震災直後の仙台で行ったものです。自然災害で崩れた建物や核施設内にロボットを送り込んで、状況の確認や放射能レベルのチェックを行わせることができます。

自律的なロボットが解決すべき基本的な問題は、1つの地点から別の地点へ移動する方法を見出すということです。これが簡単でないのは、このロボットの力学的特性が極めて複雑なためです。実際12次元空間で考える必要があり、そのためちょっとしたトリックを使って、曲がった12次元空間を平らな4次元空間に変換しています。その4次元空間は、X、Y、Z座標とヨー角からなっています。

そうするとロボットがするのは、最小スナップ軌道を求めるということになります。物理学のおさらいですが、位置の変化を微分していくと、速度、加速度、ジャーク、スナップとなります。このロボットはスナップを最小化するようになっています。それは結果としてなめらかできれいな動作を生み出すことになります。また障害物の回避も行います。この平らな空間における最小スナップ軌道を複雑な12次元空間へと逆変換して、それによって制御や動作の実行をするわけです。

最小スナップ軌道がどのようなものか、いくつか例をご覧にいれましょう。最初のビデオではロボットが1つの地点から別な地点へ中間点を経由して移動します。どんな曲線軌道でも問題なくこなすことができます。これは円軌道で、約2Gの加速度になります。ここでは上にあるモーションキャプチャカメラがロボットに現在位置を毎秒100回伝えています。また障害物の位置も伝えています。障害物が動いていても対応できます。ここではダニエルがフープを宙に投げていますが、ロボットはその位置を計算して中を通り抜ける最適な経路を求めています。私たちは学者としていつも研究予算獲得という曲芸をさせられているので、ロボットにも同様の曲芸をさせているわけです。(拍手)

このロボットにできる別なこととして、自分で見つけた軌道やプログラムされた軌道を記憶するというのがあります。ここではロボットが基本動作を組み合わせて、加速して、向きを変え、元の所に戻るという一連の動作をしています。このようにする必要があるのは、通る隙間の幅がロボットよりわずかに広いだけだからです。そのため、飛び込み選手がするように、飛び込み板からジャンプして勢いを付け、つま先回転をして1/4宙返りをして通り抜け、きれいに体制を立て直すという動作を、このロボットはしているわけです。ロボットにはこの難しいタスクをこなすために軌道の断片をどう組み合わせれば良いのか分かっているのです。

ちょっと話題を変えましょう。このような小さなロボットの短所はその大きさです。そこで、先ほども言いましたように、大きさによる制限を克服するため、たくさんのロボットを使おうというわけです。ここで難しいのは、たくさんのロボットをどうやって協調させるかです。そこで私たちは自然に目を向けました。ご覧いただく映像は、スティーブン・プラット教授の研究室のアシナガアリがものを運んでいる様子です。イチジクの切れ端です。実際どんなものでもイチジクの果汁を付けるとアリたちは巣に運んでいきます。このアリたちには中央で指示を出す者は誰もいません。そばにいる他のアリを知覚しますが、明示的なコミュニケーションは行いません。それでも他のアリと食料を知覚することで、集団として暗黙の調整が行われるのです。

これはまさに私たちが、ロボットに持たせたい調整方法です。ロボットが他のロボットに囲まれているときに・・・ロボットiとロボットjを見てください・・・ロボットにさせたいのは、編隊飛行中の他のロボットとの距離を監視するということです。そしてその距離を許容範囲内に保とうとするわけです。そのため、ずれの大きさを監視して制御のための命令を毎秒100回算出し、それが毎秒600回のモーターへの命令に変換されます。これもまた分散的に行わせる必要があります。ロボットがたくさんある場合、これらすべての情報の処理を中央からロボットのタスク実行に必要な速さで行うのは無理です。また、ロボットは近くのロボットを感知することによる周辺情報のみで行動する必要があります。最後に、どのロボットが隣に来ても構わないようにしてあり、これを匿名性と呼んでいます。

次にお見せする映像では、20個の小さなロボットが編隊飛行しています。互いに隣のロボットの位置を監視しながら編隊を維持しています。編隊の形を変えることもできます。平面的な編隊を組むことも立体的な編隊を組むこともできます。ご覧のように、編隊が立体型から平面型に移行しています。障害物をよける際には、その場で編隊を変形して対応します。ロボットは互いにとても近い距離で飛んでいます。8の字飛行をしていますが、互いに数センチまで近づいています。プロペラの空力的干渉があるにもかかわらず、安定した飛行を維持できます。(拍手)

編隊飛行ができるようになれば、協力してものを運ぶこともできます。ご覧の通り、近くのロボットとチームを組むことで、運ぶ力を2倍、3倍、4倍と増やしていくことができます。このようにすることの短所は、規模を大きくするにつれ、たくさんのロボットで1つのものを運ぶため、慣性が大きくなり敏捷に動けなくなることです。しかし運搬能力の面では増大します。

もう1つお見せしたいのは、これもうちの研究室のものですが、院生のクエンティン・リンゼイが取り組んでいます。彼のアルゴリズムは、桁のような部材から四角い構造物を組み立てる作業をロボットに自律的に行わせるものです。どのパーツをどの順に取り上げどこに置くかをアルゴリズムが決めています。映像は10倍から14倍早回ししています。ロボットが3種の構造物を組み立てています。ここでもすべてが自律的で、クエンティンがするのは、作りたい構造の設計図を与えるということだけです。

ここまでご覧いただいた実験はどれも、モーションキャプチャシステムの助けを借りています。では実験室を離れ、外の現実の世界に出た場合はどうなるのでしょう? もしGPSもなかったとしたら? そこでこのロボットにはKinectカメラとレーザーレンジファインダーを搭載しています。それらのセンサを使って、周囲の環境の地図を作ります。地図の内容は様々な目印になるもの、ドアや窓、人間や家具などで、それらの目印に対する自分の位置を把握します。グローバル座標系は使っていません。ロボットがどこにいて何を見ているかに基づいて座標系を定義しています。そしてそれらの目印を使って航行しているのです。

フランク・シェンとネイサン・マイケル教授が開発したアルゴリズムの映像をご覧いただきましょう。ロボットが初めての建物に入り、リアルタイムで地図を作っていきます。ロボットは目印になるものを把握し、地図を作成します。目印に対する自分の位置の算出を毎秒100回行い、前に説明した制御アルゴリズムによる制御を行います。このロボットはフランクが遠隔操作していますが、どこに行くかを自分で決めることもできます。どういう建物なのか分からない建物の中に送り込もうという場合は、「中に入って地図を作り、戻って様子を教えてくれ」と指示するだけでいいのです。ここでロボットは1つの地点から別な地点に行くという問題を解決するだけでなく、最良の次の地点を見つけるという問題も絶えず解決しているのです。基本的には、最も情報の少ない場所を次の目的地にします。そうして地図を埋めていくのです。

次にお見せするのが最後の例になります。この技術には多くの応用があります。教育者として私は教育に情熱がありますが、このようなロボットは小中高の教育を大きく変えうると思っています。しかし我々は今ロサンゼルスに近い南カリフォルニアにいるので、エンターテインメント関係のもので締めくくることにしましょう。ミュージックビデオを用意しました。作者のアレックスとダニエルをご紹介します。(拍手)

ビデオをご覧いただく前に、彼らはクリスから直前に連絡をもらい、この3日間で作り上げたことを言っておきたいと思います。出てくるロボットは全く自律的に動いています。9つのロボットが6種類の楽器を演奏します。TED2012のため特別に作ったものです。ではご覧ください。

(飛行ロボットによる楽器演奏)

(拍手)

[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたSawa Horibe氏に感謝します。]


付録

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オリジナル: Vijay Kumar: Robots that fly ... and cooperate