Tom Wujec / 青木靖 訳
2013年6月 (TEDGlobal 2013)
何年か前に、複雑な問題を理解し解決する力を付けるための、シンプルなデザイン練習課題に出会いました。多くのデザイン練習課題と同様、一見すると自明な問題に見えますが、良く検討してみると、私たちが協力したり物事を理解する方法について意外な真実を教えてくれるのが分かります。この問題は3つの部分からなっていて、誰でもやり方を知っていることから始めます。トーストの作り方です。
まず真っ白な紙とサインペンを用意して、言葉は一切使わずにトーストの作り方を絵にしてもらいます。多くの人はこんな絵を描きます。食パンの塊があって、それをスライスし、トースターに入れ、しばらく待つとパンが飛び出して、ハイできあがり! 2分後にはトーストと幸せを手にします。
私は何年もかけてこのようなトーストの絵を何百も集めてきましたが、中にはとても良く描けているものがあり、トーストを作るプロセスが非常に明快に図示されています。それからあんまり、良くないのもあります。本当にひどくて、何を言おうとしているのか自分で分かっていません。いろいろ見ていくと、トースト作りのある面だけ見ているものがあるのに気付きます。たとえばトーストだけが取り出され、トーストの変容が描かれているものがあります。トースターとは何か説明しているものもあります。そしてエンジニアというのは内部の仕組みを描きたがるものです。(笑) 一方、人に焦点を当てたものもあって、人にとってそれがどういう体験かを描いています。それからトーストができるまでのサプライチェーンを考えて、店から始まっているものや、瞬間移動もありの輸送過程を描いているもの、小麦や畑まで遡るもの、さらにはビッグバンに遡るものまであります。すごいことになっているわけですが、これらの絵はそれぞれ大きく異なっていても、共通しているものがあるのがわかります。おわかりになりますか? 何が共通しているでしょう? ほとんどの絵にノードと矢印があるということです。ノードは、トースターや人のような具体的な物を表し、矢印がノードの間を繋いでいます。このノードと矢印の組み合わせによってシステムモデルができあがっていて、物事の仕組みを我々がどう捉えているかというメンタルモデルを目に見える形にしています。それがこのようなモデルの価値です。
システムモデルの興味深い点は、人による観点の違いを明らかにすることです。たとえばアメリカ人というのはトーストはトースターで作るものだと思っています。一方ヨーロッパの人たちは、トーストはフライパンで作るものだと思っています。そして学生の多くは、トーストをたき火で作ります。私には解しかねるんですが、MBAの学生の多くがこういう絵を描きます。
ノードの数を数えることで複雑度を測ることができます。平均的な図には4〜8個のノードがあります。4個未満だと単純化しすぎですが、一目で理解できます。ノードが13個より多くなると煩雑で圧倒されるような絵になってしまいます。スイートスポットはノード数5〜13個です。何かを視覚的に伝えたい場合は5〜13個のノードがある図を使うといいです。私たちはみんな、たとえ絵は上手くなくとも、複雑なものを単純なものへと分解し再構成する方法を直感的に理解しているんです。
それがこの課題の第2部へと繋がります。トーストの作り方を、こんどは付箋やカードを使って表現します。するとどうなるでしょう? カードを使うと、多くの人はより明快で詳細で論理的なノードを描くようになります。各ステップを分析してモデルを組み上げながら、ノードをレゴブロックみたいにいろいろ移動し並べ替えるんです。当たり前のことに思えるかもしれませんがとても重要なことです。表現し、考え、分析するというのを短いサイクルで繰り返していくというのは、明快さに到る唯一の道なんです。それがデザインプロセスの本質的なところです。システム理論の研究者が指摘していることですが、表現を変更する容易さとモデルを改善する気になるかどうかは相関しています。付箋によるシステムは、より流動的であるだけでなく、静的な絵と比べて一般にずっと多くのノードを含んでいて、内容が豊かになっています。
この課題の第3部では、やはりトーストの作り方を描きますが、こんどはグループでやります。するとどうなるか? こんな風になります。最初はゴチャゴチャしていますが、その後もっとゴチャゴチャになっていき、それから本当にゴチャゴチャになります。しかしみんなでモデルを洗練させていくうちに、どれが良いノードかわかってきて、繰り返しごとにモデルが明快になっていきます。他の人のアイデアを元にアイデアを出すようになるためです。そうして幅のある個々人の観点をまとめた統一的なシステムモデルができ上がります。これは通常ミーティングで起きるのとはずいぶん違ったことですね。こうして作られた絵ではノードの数が20以上になることもありますが、参加者は圧倒されるようには感じません。そのモデルを作り上げるプロセスに参加しているからです。
もう1つ興味深いのは、グループの人たちは組織的な構造を自然に追加するということです。たとえば対立を解消するために枝分かれパターンや並行パターンを入れたりします。ちなみにこれは黙ってやった場合の方がずっと早くずっと良い結果が得られます。とても興味深いことです。おしゃべりは邪魔になるんです。この課題から得られる教訓ですが、図は物事をノードとその間の関連からなるシステムとして捉えさせることで、理解を助けます。動かせるカードを使うとより良いシステムモデルが得られます。より柔軟に改善が行われるためです。グループでカードを使ってやった時に最も広範なモデルが得られます。様々な観点が取り込まれるためです。興味深いことだと思います。適切な環境でチームが協同作業してできたモデルは、個々人によるモデルよりずっと良いものになるんです。
このアプローチはトーストの作り方を図示する時とても上手くいったわけですが、何かもっと切迫した大きな問題に対してはどうでしょうか? たとえば組織のビジョンとか、顧客体験とか、長期的なサステナビリティといった問題の場合では?
現在、視覚化の革命が進んでいて、多くの組織が難しい問題を協同で図解することによって解決しています。動かせるノードと矢印によって物事を表現できる人たちには有利な点があると思います。やり方はすごく簡単です。疑問からスタートして、ノードを集め、ノードを改良していき、それを繰り返すうちにパターンが現れて、明快な理解が得られることで問題への答えを見出すんです。この視覚化して繰り返し改善していくというシンプルな活動によって、非常に目覚ましい結果が得られます。ここで注意すべきなのは、モデル自体だけでなく、この過程を通じて行われる対話が重要だということです。このようにして得られる視覚的な枠組みは、ノードの数が数百から数千に及ぶこともあります。
1つの例はロデールという大手出版社です。ある年に大きな損失を出して、経営陣は3日かけて業務全体を視覚化することにしました。個々のシステムに到る業務全体の可視化を行った後、ロデール社の収入は5千万ドル改善され、顧客からの評価もDからAに改善されました。なぜか? 経営陣が一致した見方を得られたからです。
協同で可視化をすることによって厄介な問題を解決できるよう組織を手助けすることを私はミッションとするようになり、drawtoast.comというサイトを作りました。ここにはたくさんのベストプラクティスが集められています。このワークショップのやり方だとか、視覚言語やノードと矢印を使った様々な構造について学び、一般的な問題解決に応用できます。また、どこの組織でも直面する難しい問題を解きほぐすのに使える様々なテンプレートがダウンロードできます。
トーストの作り方を図示するという一見単純な課題が、グループで明快な理解や協力や一致を得るためにとても役に立つのです。こんど興味深い問題に直面した時は、どうかデザインが何を教えてくれるか思い出してください。アイデアを目に見え触れられる意味あるものにすることです。これはシンプルで楽しく強力な手法であり、祝福する価値のあるアイデアだと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
[これはTED公式日本語訳です。翻訳をレビューしていただいたClaire Ghyselen氏に感謝します。]
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オリジナル: Tom Wujec: Got a wicked problem? First, tell me how you make toast |