編成の大きさも相まって音楽がどんどん膨れ上がってくる、まるでブルックナーのような『エロイカ』で、そこが堪らない! しかし、同時に近年の古楽器オケの秀演(ゴミのような古楽オケの『エロイカ』も少なくないが)で耳にする、30歳代前半の若々しい作曲家が作った革命的作品というシャープさとは無縁であるともいえる。例えばグロスマン指揮の演奏( Beethoven: Symphony No 3 )は、若い指揮者と若いメンバーで構成された古楽器オケが初演時の人数で初演された貴族の広間で録音したもので、これを聴くと同じ古楽でもガーディナーのCDなんか微温的である(ガーディナーならDVDのドラマに収録された演奏 Eroica [DVD] [Import] がいい)。ブリュッヘンの旧録音のCD Beethoven: the 9 Symphonies やDVD ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 英雄 [DVD] は古楽オケ初期であるためか、音色や技術自体が練れてない。ブリュッヘンも新全集 Beethoven The Symphonies: Live from Rotterdam, 2011 の演奏が断然いい。 グロスマン指揮の演奏などが本来のベートーヴェンの目指した音楽と考えるなら、この朝比奈の演奏は異端というかある意味トンチンカンな代物かもしれない。しかし、後期ロマン派、現代音楽を経た時代においては、それでもこの演奏が持つ充実したエネルギーは何物にも代えがたいと思うのである。