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「ベートーヴェンの交響曲の中で、いっとう好きな曲はどれですか？」と、この間、読者からの手紙があった。「どれが、いっとう好きとは言えません。ベートーヴェンの９つの交響曲は、その中の一曲を除けば、どの曲も、ほかのどんな曲でも、代用できない特性を持った傑作ばかりで、そのとりどりの在り方に応じて、私は、みんな好きですから」と、返事した。ー「私の好きな曲」吉田秀和先生・著（ちくま文庫）より。
上掲したのは、音楽評論家・吉田秀和先生の言葉です。確かに、ベートーヴェンの、交響曲、と言うものは、その時、そのシチュエーションに応じて、楽しまれるものであり、今回の、ルドルフ・ケンペ氏指揮ミュンヘン・フィルハーモニーの、個人全集など、全９曲が、平均して、練れた出来栄えであり、とりわけ、あんまり人気の無い曲－例えば、第１、第２、第８交響曲などーも、名曲として聴こえる。
ー否！ベートーヴェンの、９つの交響曲には、駄作など、無いのだ。それを体具しているのが、今回の、ケンペ氏指揮ミュンヘン・フィルハーモニーの、全集である。
私たちは、ベートーヴェンの交響曲全集、と言えば、フルトヴェングラー翁、トスカニーニ翁、メンゲルベルク翁、クライバー父子の部分的な録音、ヴァルター翁、コンヴィチュニー氏、クレンペラー、セル氏、シェルヒェン氏、カラヤン先生、ラトル氏、と言った、指揮者の個人全集を、知っている。
だが、彼らの演奏の場合、曲によっては、出来不出来と言う、不満も、あるのではないか。
そこのところへ行くと、ケンペ氏の、この個人全集は、全曲が、ムラなく、出来上がっている、と言う点に於いては、なかなか隅には置けない。
ケンペ氏は、オーケストラから、ミュンヘン・フィルハーモニーだからこそ、の、良い持ち味を、引き出しながら、細部にわたって、きめ細やかな、表情付けを、行う。
例えば、第５交響曲。冒頭の、g-g-g-es と言う、イデーの提示のところで、ケンペ氏は、ユニークで、面白い「仕掛け」をしている。具体的に、聴いてみて欲しい。
第３楽章を、聴いていて、私は「象のダンス」と言う、長年、忘れていた言葉を、クッキリと、思い出した。それから、アタッカで、第４楽章に入ってからの、すがすがしい、開放感。盟友・Yクンの言うところの、勝利のⅤサインである。
これらが、ロマン・ロランの「ベートーヴェン研究」や、「ベートーヴェンの生涯」が、権威とされた時代の、ランドマークである事は、確かだ。今現在では、筆跡鑑定が進んでおり、ベートーヴェンの、音楽ノートには、弟子のシントラーの、落書きが、ワンさか、見つかっている。したがって、ロマン・ロランの、折角の著作も、アウト・オブ・デートになってしまった。
何はともあれ。私は、そんなにケンペ氏を、知っているワケでは無いので、あんまり、大それた事は、言えないが、「ベートーヴェンらしいベートーヴェンの演奏」と言える。テンポの取り方としては、全体として、悠久なもの。これは、お風呂で、ぬるま湯にひたっている感じで、楽しめば良い、と、思う。
なお、国内盤も、ＣＤ一枚づつ、バラで、廉価価格で、発売されているので、そちらでも良いと、思う。
読者諸兄よ。ベートーヴェンを、楽しめ！
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