アニメ全盛の時代に育った私は、
ジブリやディズニーといった王道を走るアニメーション作品において暗に描かれている
訴えたいものや、伝えたいことがあまりに軽薄すぎて、もはや全く共感できなくなってきていました。
単行本の衝撃的な表紙に触発され、原作からアニメになってどうなるのだろうと期待してテレビシリーズを
見始めましたが、1話を見終わった時点で、まるで画面の中に引きずり込まれるような悶々とした
感情を抱いたことを覚えています。
どこにでもいる、「孤高の存在」に憧れる少年
「孤高の存在」としてしか生きられない少女
「孤高の存在」と扱われることに日々悩んでいる少女
純粋な魂と、現実世界の間に生じるささいな亀裂をきかっけに、この3人の魂が大きく動き始めて
他人のいる社会に”ハミ出し”てゆく様や、そして現実社会と同様に、何事も無いかのように鈍感に
流れてゆく様子を見事に描き出しています。
全13話を見終わって感じたのは、
「ほんとうに醜い自分と向き合える人でなければ、この作品は理解できないだろう」ということでした。
優しい方に、簡単な方に、安全な方に、逃げているばかりの人には
難しいと思います。
確かに、若者向けアニメーション作品としては、暗く、華やかではないかもしれません。
しかし、リアリティーやアニメーションならではの過剰表現を追求するあまりに、あれもこれもと技術を盛ってゆき、
逆に真実味がなくなって気持ち悪くなってしまったジブリやディズニーとは違って、
リアルな人の動きから逆算し、表現手法を間引いてゆくという真逆のテクニックを使って作られています。
いかにリアルに見えるよう味付けしてゆくかではなく、
表現を成立させるためにギリギリどこまで削れるかというチャレンジをしているのです。
数分にも及ぶ無音の画面、
早朝、夕暮れ、夜、闇の表現にこだわった暗さのグラデーション
視聴者の心とシンクロするかのような時間表現
毎回、登場人物とキャストに敬意を払って丁寧に作られたオープニング
臨場感のあるすばらしい録音
実写キャストの地に足の付いた、しっかりとした演技力
原作のコマの間の物語を浮きだたせる声優の力量
すべて近年のアニメーション作品に見られない、突き抜けた作品でした。
建前だけの夢を見せることだけが教育ではなくて、現実に生きる人間の心の深淵に深く手を突っ込み、
どろどろとした醜い部分や汚い部分があることを自覚させることも、立派な教育だと思います。
このようにすばらしい作品を世に送り出してくれた、押見先生、長濱監督、そしてキャスト(特に実写キャストと声優)、スタッフの皆さんに
感謝の言葉しかありません。