【2月9日 AFP】数百年前に南米アンデス(Andes)山脈のインカ(Inca)帝国で栽培されていた穀物キヌア(キノア、キンワとも)のほぼ完全なゲノム(全遺伝情報)を解読したとの研究結果が8日、発表された。研究者らは、世界の飢餓問題解決の助けになる可能性があるとしている。

 原産地以外では、欧米の健康食品愛好家らに最も良く知られているキヌアは、専門家らによると、栄養価が非常に高く、グルテンフリーで、必須アミノ酸、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含んでいるという。

 また、他の穀物に比べて「グリセミック指数(GI値)」が低い。血糖値の上昇のしやすさを示すGI値の高さは、糖尿病患者にとって大きな懸念事項だ。

 キヌアは、海抜4000メートル以下の大半の食用植物が生育困難な条件下でも育つ。

 キヌアのゲノムを解読した研究コンソーシアムを率いるサウジアラビア・アブドラ王立科学技術大学(KAUST)のマーク・テスター(Mark Tester)教授は「キヌアは、桁外れの回復力を持っており、やせた土地や塩分の強い土壌でも育つ」「キヌアにより、現在は利用できない状態の土地と水を使って、健康的で栄養価の高い食糧の供給源を世界に提供できるかもしれない」と話す。

 だが、キヌアの世界消費量は、コムギ、コメ、オオムギ、トウモロコシなどと比べると極めて少なく、他の主要穀類やその加工品はそれぞれ年間消費量が数億トンに上るのに対し、キヌアは年間10万トン足らずとなっている。

「キヌアが抱える問題の一つは、苦い味の種が自然に作られることだ」と、テスター教授は説明する。野鳥や害虫に対する自然の防御機能であるこの苦味は「サポニン」と呼ばれる化合物に由来する。

 この化合物を取り除くための処理には、大きな労働力と費用が必要となる上、水を大量に用いなければならない。

 もう一つの制約は、キヌアが小さい穂と長い茎を持つ植物であることから、強風や豪雨で倒れやすいことだ。

 テスター教授と共同研究者三十数人からなる研究チームは、英科学誌ネイチャー(Nature)に発表した今回の研究論文に「キヌアは農業経済学的な可能性を秘めているにもかかわらず、十分に利用されていない穀物の一つ。実施されている品種改良計画も比較的少ない」と記した。