小説家 西尾維新さん 「『どんなつかいかたをしてもいい』から、 はじめて手帳を続けることができた」(後編)

西尾維新さんは、今もっとも人気のある小説家の一人。最新刊が出るごとにランキング1位を飾り、アニメ化がすすんでいる〈物語〉シリーズが代表作です。もともと速筆として有名だった西尾さん、12カ月連続で小説を発表した経験もおもちです。その独特かつ速筆のスケジュール管理に、「ほぼ日手帳」をつかっていただいているとのこと。どのようにつかっているのかはもちろん、つかいはじめたときのことなど、「ほぼ日手帳」にまつわるお話もうかがいました。前編、後編と2回に分けて、お届けします。
〈物語〉シリーズ 12カ月連続で小説を発表した経験

方眼を利用して、仕事量と時間配分の表を書く。

――
オリジナル、カズン、WEEKS、
Hobonichi Plannerを1冊ずつ使用中で、
spring版をつかう予定、とのことでしたが、
小説のアイディアは、
オリジナルに書かれているのですか?
西尾
いえ、アイディア等は
基本的には書き留めません。
思いついたものを忘れないうちに書く、
というのがスタンスです。
書いた小説をゲラ(校正刷り)で見る際、
チェックポイントや要点を見落とさないように
メモを取っておくくらいでしょうか。
いわゆる創作ノートみたいなものはないんですよ。
――
あ、ないんですか!
西尾さん、そうとう多作ですし、
登場人物だけでもかなりの人数におよぶと思うので、
何かにまとめてあるんだとばかり‥‥。
西尾
忘れてしまうアイディアは
忘れるべきアイディアだったと考えます。
ノートにプロットを書いてから書き始めるやりかたにも
何度か挑戦しているんですけど、
なんだかうまくいかなくて。
それこそ、カズンで試したこともありました。
1ページに1アイディアずつ書いていって、
短編を365個つくるとか。
――
365個の短編!
西尾
でも、アイディアをカズンに書いた時点で
満足してしまって(笑)。
すぐやめちゃいました。
どういう形であれアウトプットしてしまうと、
意識が次に向いちゃうんでしょうね。
――
執筆のスタイルとしては、
頭の中にあるものを
ダーッとパソコンに打って形にしていく、と。
西尾
そうです。
気持ちとしては短距離走を走っているようなもので。
なので、走りすぎないよう、書きすぎないよう気をつけます。
書きすぎたら次の日に書けなくなっちゃう。
だから僕は1日に書く文字量を
「文字数」で決めています。
――
へえー、文字数で!
1日でどれくらい書かれるのですか?
西尾
今は、基本1日2万字です。
――
1日2万字‥‥。す、すごい‥‥。
西尾
もう少し詳しくいうと、
5000字を書くのに2時間かかるので、
2時間ごとに1回休憩、という感覚ですね。
2時間で5000字ということは、
15分で約700字書けていれば、達成できます。
ですので、15分経ったところで
600字なら今日はちょっと苦戦するぞ。
800字なら今日は調子がよさそうだ、とわかります。
――
はぁー‥‥。
西尾
小説家を目指していたころ、いちばんたいへんだったのは
原稿用紙枚数を書くことでした。
やっぱり300枚も400枚も
文字を書くのは生半ではなく、
早い段階で挫折してしまいます。
ですので、小説のプロットはつくらなくとも、
執筆ペースのプロットは必ずつくるようになりました。
ひと口に何万字と言えば途方もなく聞こえますが、
仕事量を分割して計算していけば全体像がつかめます。
この文字数と時間の管理も、
「ほぼ日手帳」でしているんですよ。
――
え、そうなんですか。
西尾
たとえば、次の仕事は
〈物語〉シリーズのBD/DVDに収録する
副音声脚本の執筆なのですが、
やっぱりそれも、
漠然と全体像を時間で把握するところからはじめます。
――
BD/DVDの副音声脚本?
西尾
簡単にいうと、映像のコメンタリー解説を
〈物語〉シリーズの登場人物たち自身がする、
という音声特典です。
――
あー、監督さんや声優さんが
その場面の解説とか制作時のエピソードを話す
音声特典って、ありますね。
それを、〈物語〉シリーズでは登場人物がしていて、
しかも脚本は西尾さんの書き下ろしだと。
ファンにはうれしい特典ですね。
西尾
この仕事は小説ではなく脚本なので、
文字数ではなく時間数で調節することになります。

アニメは1話あたり、約30分あります。
30分ぶんの脚本を仮に5時間で書こうとすると、
1時間あたり6分の尺を書けばよくて、
10分あたり1分の尺になる。
つまりそれを30回繰り返せば自然、
書き終わるわけで。
手帳に、それを方眼を利用して
表にして書いて、進行と照らし合わせながら執筆します。
小説なら文字数、脚本なら時間数、
マンガ原作ならページ数が軸になります。

▲西尾さんのお仕事にとって、
 文字数や時間数の表が書かれたほぼ日手帳と
 実際に書いた時間を確認するためのストップウォッチは必須。

――
はぁー、西尾さんがハードなスケジュールの中でも
コンスタントに作品を発表しているのには、
そんな独特のスケジュール管理法があったんですね。
西尾
逆にいえば、
表にできない類のお仕事はとても苦手なのですが(笑)。
スケジュールの管理というより、
スケジュールの分解、再構築にあたって
「ほぼ日手帳」が、ものすごく助けになっています。
――
西尾さんの執筆のお手伝いができていると知れて
うれしいです。
ありがとうございます!

打ち合わせの相手が「ほぼ日手帳」をつかっていると、それだけで、安心する。

西尾
最近、「ほぼ日手帳」を
よく見るようになったな、と感じるのですが、
今はどのくらいの方がつかっているんですか?
――
2013年度版で、約48万人でした。
西尾
2009年のガイドブックの帯に「25万人」って
書いてあるから、約2倍ですね。
僕は、「ほぼ日手帳」をつかっている人を見ると
「僕もつかっていますよ」と話題に出すんですけれど、
最近はその機会も増えてきたなぁと実感しています。
――
うれしいことに、
会話のきっかけにしてくださっている方は、
けっこういらっしゃるみたいなんです。
西尾
やっぱり打ち合わせのときとかに
相手がどんな手帳をつかっているかは大切ですよ。
手帳の種類やつかい込みかたを見たら、
仕事に対する姿勢や、熱心さなんかが
なんとなくわかる気がするじゃないですか。
――
あー、わかります。
西尾さんは、相手が「ほぼ日手帳」だったら
どんな印象を受けるんですか?
西尾
安心します。
一同
(笑)
西尾
少なくとも、
グイグイくるタイプの人じゃないだろうな、と(笑)。
――
でもたしかに、
手帳のイベントなどで
来てくださるユーザーさんたちには、
そういう圧倒してくるような人は
あんまり見かけないと思います。
西尾
社会人にとって手帳は第2の名刺ですからね。
‥‥って、そもそも第1の名刺を持っていない僕が
そんなことをいうのもなんなのですが(笑)。

前向きになるために後ろを振り返ることもときには必要。

西尾
今回取材を受けることになったので、
初めてつかった手帳からざっと読み返してみたんです。
ガイドブックにも読み返すことの重要さ、
みたいなことが書かれていたのですが、
その意味がよくわかりました。
――
読み返してみて、どうでしたか?
西尾
あのときはあんなにたくさん仕事をして
たいへんだったと思っていることも
当時の手帳を見てみると、ひとつひとつの仕事を
けっこうたのしんでやってたりして。
そうか、たのしかったんならいいか、
というふうに思えました。
――
違う自分が見つかる感じ、でしょうか。
西尾
そうですね。
あと、完全に忘れていた悩みが書いてあって、
「しまった! 見ちゃった」とか。
――
せっかく忘れていたのに、思い出しちゃった。
西尾
忘れたいようなことを書くべきじゃないのか、
それとも、書いたから忘れられたのか(笑)。
でも、逆にいうと、
当時は一生引きずると思っていた悩みも
忘れられるぐらいのことだったんですよね。
過去に大きな悩みがあっても、
今は無事にやれているんだなと思うと、
なんだか不安が解消されました。
――
ああー。
西尾
あとは単純にこの5年間、
思っている以上によくがんばっていたようじゃないかって、
ちょっとした自信になりました(笑)。
――
読み返したことで、
いろんなことが前向きになったんですね。
西尾
そうですね。
前向きになるために
後ろを振り返ることもときには必要なんだ、
と思いました。

もっとも、振り返るためには
まず5年間、手帳を続けることが必要だったわけで、
そう考えると「ほぼ日手帳」に出会えたことは
本当に僥倖だったなと感じます。
続けることの大切さ、みたいなものを
再確認できたような。
何より積年の夢だった辞書作りに着手できたわけで。
苦手だった手帳習慣が、
夢だった辞書作りにつながるのですから、
人生、わからないものですね。
「ほぼ日手帳」は、
僕にとって予定表でも日記帳でもなく、
「手帳」であり、だからこそ続いているのでしょう。
手帳をつけるのが苦手、という人にこそ
「ほぼ日手帳」をつかってほしいと思います。
――
本日はたくさんのお話を訊かせていただき、
どうもありがとうございました。
西尾
ありがとうございました。
<おわります>

化物語(上)

著:西尾維新
Illustration:VOFAN
価格:本体1,600円(税別)

ある朝、阿良々木暦(あららぎこよみ)は、
階段から落ちてきた少女を抱きとめた。
しかし彼女にはまるで「重さ」というものが感じられず‥‥。
吸血鬼の体質となった男子高校生・阿良々木暦が、
怪異現象に悩まされる少女たちを助けるべく奔走する
大人気小説、〈物語〉シリーズ第一作!
アニメ化最新作『花物語』は2014年5月31日より放送開始。

悲鳴伝

著:西尾維新
価格:本体1,300円(税別)

彼の名は空々空(そらからくう)。
どこにでもいない十三歳の少年。
風変わりな少女、剣藤犬个(けんどうけんか)が現れたとき、
日常かもしれなかった彼の何かは終わりを告げる。
何事にも感動しない少年は、
地球と戦うヒーローに選ばれた‥‥!
西尾維新が放つ新たなる英雄譚、〈伝説〉シリーズ第一作。

書籍については
講談社BOX公式サイト講談社ノベルス公式サイトを、
アニメについては
西尾維新アニメプロジェクト公式サイトにて
くわしい情報をご覧ください。

Illustration/VOFAN
©西尾維新・講談社

2014-04-09-WED