- ――
- オリジナル、カズン、WEEKS、
Hobonichi Plannerを1冊ずつ使用中で、
spring版をつかう予定、とのことでしたが、
小説のアイディアは、
オリジナルに書かれているのですか?
- 西尾
- いえ、アイディア等は
基本的には書き留めません。
思いついたものを忘れないうちに書く、
というのがスタンスです。
書いた小説をゲラ(校正刷り)で見る際、
チェックポイントや要点を見落とさないように
メモを取っておくくらいでしょうか。
いわゆる創作ノートみたいなものはないんですよ。
- ――
- あ、ないんですか!
西尾さん、そうとう多作ですし、
登場人物だけでもかなりの人数におよぶと思うので、
何かにまとめてあるんだとばかり‥‥。
- 西尾
- 忘れてしまうアイディアは
忘れるべきアイディアだったと考えます。
ノートにプロットを書いてから書き始めるやりかたにも
何度か挑戦しているんですけど、
なんだかうまくいかなくて。
それこそ、カズンで試したこともありました。
1ページに1アイディアずつ書いていって、
短編を365個つくるとか。
- ――
- 365個の短編!
- 西尾
- でも、アイディアをカズンに書いた時点で
満足してしまって(笑)。
すぐやめちゃいました。
どういう形であれアウトプットしてしまうと、
意識が次に向いちゃうんでしょうね。
- ――
- 執筆のスタイルとしては、
頭の中にあるものを
ダーッとパソコンに打って形にしていく、と。
- 西尾
- そうです。
気持ちとしては短距離走を走っているようなもので。
なので、走りすぎないよう、書きすぎないよう気をつけます。
書きすぎたら次の日に書けなくなっちゃう。
だから僕は1日に書く文字量を
「文字数」で決めています。
- ――
- へえー、文字数で!
1日でどれくらい書かれるのですか?
- 西尾
- 今は、基本1日2万字です。
- ――
- 1日2万字‥‥。す、すごい‥‥。
- 西尾
- もう少し詳しくいうと、
5000字を書くのに2時間かかるので、
2時間ごとに1回休憩、という感覚ですね。
2時間で5000字ということは、
15分で約700字書けていれば、達成できます。
ですので、15分経ったところで
600字なら今日はちょっと苦戦するぞ。
800字なら今日は調子がよさそうだ、とわかります。
- ――
- はぁー‥‥。
- 西尾
- 小説家を目指していたころ、いちばんたいへんだったのは
原稿用紙枚数を書くことでした。
やっぱり300枚も400枚も
文字を書くのは生半ではなく、
早い段階で挫折してしまいます。
ですので、小説のプロットはつくらなくとも、
執筆ペースのプロットは必ずつくるようになりました。
ひと口に何万字と言えば途方もなく聞こえますが、
仕事量を分割して計算していけば全体像がつかめます。
この文字数と時間の管理も、
「ほぼ日手帳」でしているんですよ。
- ――
- え、そうなんですか。
- 西尾
- たとえば、次の仕事は
〈物語〉シリーズのBD/DVDに収録する
副音声脚本の執筆なのですが、
やっぱりそれも、
漠然と全体像を時間で把握するところからはじめます。
- ――
- BD/DVDの副音声脚本?
- 西尾
- 簡単にいうと、映像のコメンタリー解説を
〈物語〉シリーズの登場人物たち自身がする、
という音声特典です。
- ――
- あー、監督さんや声優さんが
その場面の解説とか制作時のエピソードを話す
音声特典って、ありますね。
それを、〈物語〉シリーズでは登場人物がしていて、
しかも脚本は西尾さんの書き下ろしだと。
ファンにはうれしい特典ですね。
- 西尾
- この仕事は小説ではなく脚本なので、
文字数ではなく時間数で調節することになります。
アニメは1話あたり、約30分あります。
30分ぶんの脚本を仮に5時間で書こうとすると、
1時間あたり6分の尺を書けばよくて、
10分あたり1分の尺になる。
つまりそれを30回繰り返せば自然、
書き終わるわけで。
手帳に、それを方眼を利用して
表にして書いて、進行と照らし合わせながら執筆します。
小説なら文字数、脚本なら時間数、
マンガ原作ならページ数が軸になります。
▲西尾さんのお仕事にとって、
文字数や時間数の表が書かれたほぼ日手帳と
実際に書いた時間を確認するためのストップウォッチは必須。
- ――
- はぁー、西尾さんがハードなスケジュールの中でも
コンスタントに作品を発表しているのには、
そんな独特のスケジュール管理法があったんですね。
- 西尾
- 逆にいえば、
表にできない類のお仕事はとても苦手なのですが(笑)。
スケジュールの管理というより、
スケジュールの分解、再構築にあたって
「ほぼ日手帳」が、ものすごく助けになっています。
- ――
- 西尾さんの執筆のお手伝いができていると知れて
うれしいです。
ありがとうございます!
- 西尾
- 最近、「ほぼ日手帳」を
よく見るようになったな、と感じるのですが、
今はどのくらいの方がつかっているんですか?
- ――
- 2013年度版で、約48万人でした。
- 西尾
- 2009年のガイドブックの帯に「25万人」って
書いてあるから、約2倍ですね。
僕は、「ほぼ日手帳」をつかっている人を見ると
「僕もつかっていますよ」と話題に出すんですけれど、
最近はその機会も増えてきたなぁと実感しています。
- ――
- うれしいことに、
会話のきっかけにしてくださっている方は、
けっこういらっしゃるみたいなんです。
- 西尾
- やっぱり打ち合わせのときとかに
相手がどんな手帳をつかっているかは大切ですよ。
手帳の種類やつかい込みかたを見たら、
仕事に対する姿勢や、熱心さなんかが
なんとなくわかる気がするじゃないですか。
- ――
- あー、わかります。
西尾さんは、相手が「ほぼ日手帳」だったら
どんな印象を受けるんですか?
- 西尾
- 安心します。
- 一同
- (笑)
- 西尾
- 少なくとも、
グイグイくるタイプの人じゃないだろうな、と(笑)。
- ――
- でもたしかに、
手帳のイベントなどで
来てくださるユーザーさんたちには、
そういう圧倒してくるような人は
あんまり見かけないと思います。
- 西尾
- 社会人にとって手帳は第2の名刺ですからね。
‥‥って、そもそも第1の名刺を持っていない僕が
そんなことをいうのもなんなのですが(笑)。
- 西尾
- 今回取材を受けることになったので、
初めてつかった手帳からざっと読み返してみたんです。
ガイドブックにも読み返すことの重要さ、
みたいなことが書かれていたのですが、
その意味がよくわかりました。
- ――
- 読み返してみて、どうでしたか?
- 西尾
- あのときはあんなにたくさん仕事をして
たいへんだったと思っていることも
当時の手帳を見てみると、ひとつひとつの仕事を
けっこうたのしんでやってたりして。
そうか、たのしかったんならいいか、
というふうに思えました。
- ――
- 違う自分が見つかる感じ、でしょうか。
- 西尾
- そうですね。
あと、完全に忘れていた悩みが書いてあって、
「しまった! 見ちゃった」とか。
- ――
- せっかく忘れていたのに、思い出しちゃった。
- 西尾
- 忘れたいようなことを書くべきじゃないのか、
それとも、書いたから忘れられたのか(笑)。
でも、逆にいうと、
当時は一生引きずると思っていた悩みも
忘れられるぐらいのことだったんですよね。
過去に大きな悩みがあっても、
今は無事にやれているんだなと思うと、
なんだか不安が解消されました。
- ――
- ああー。
- 西尾
- あとは単純にこの5年間、
思っている以上によくがんばっていたようじゃないかって、
ちょっとした自信になりました(笑)。
- ――
- 読み返したことで、
いろんなことが前向きになったんですね。
- 西尾
- そうですね。
前向きになるために
後ろを振り返ることもときには必要なんだ、
と思いました。
もっとも、振り返るためには
まず5年間、手帳を続けることが必要だったわけで、
そう考えると「ほぼ日手帳」に出会えたことは
本当に僥倖だったなと感じます。
続けることの大切さ、みたいなものを
再確認できたような。
何より積年の夢だった辞書作りに着手できたわけで。
苦手だった手帳習慣が、
夢だった辞書作りにつながるのですから、
人生、わからないものですね。
「ほぼ日手帳」は、
僕にとって予定表でも日記帳でもなく、
「手帳」であり、だからこそ続いているのでしょう。
手帳をつけるのが苦手、という人にこそ
「ほぼ日手帳」をつかってほしいと思います。
- ――
- 本日はたくさんのお話を訊かせていただき、
どうもありがとうございました。
- 西尾
- ありがとうございました。
<おわります>
化物語(上)
著:西尾維新
Illustration:VOFAN
価格:本体1,600円(税別)
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悲鳴伝
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書籍については
講談社BOX公式サイト、講談社ノベルス公式サイトを、
アニメについては
西尾維新アニメプロジェクト公式サイトにて
くわしい情報をご覧ください。
Illustration/VOFAN
©西尾維新・講談社
2014-04-09-WED