2015/12/03 はやぶさ2が地球すれすれのところをスイングバイします。
スイングバイは「あまり燃料を無駄に出来ない惑星探査機」が宇宙空間で速度を上げるために必要不可欠な技術です。
初代はやぶさのときも針の穴をついて成立する大変な技術だなーと思いましたが、改めてすごい技術なのでメモ。
スイングバイとは
スイングバイとは、天体の引力を使って宇宙探査機などの進路や速度を変える航行技術のことです。フライバイや重力アシストと呼ぶことも(あんまりないけど)あります。
よく宇宙機が地球(重力場)の横を通ると、「宇宙機が地球に引って貰えるから速くなる」などと言われてます。(実際のところは宇宙機じゃなくても隕石とかでも構いません。地球以外の天体でもスイングバイは起こります。)
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静止した重力場でのスイングバイ
動画は「はまぎんこども宇宙科学館」でスイングバイの仕組みを表現した展示物です。盤面の所々に穴が空いていて、重力場を示しています。ここにボールが飛んでくると、一部は穴に落ち、一部のボールは進路が別の方向に変わります。
進入角によって何も起きなかったり、穴の周りをぐるぐる回って落ちたりして面白いですね。この穴が、重力場(天体)を表現しています。
周囲をくるくる回るという表現は、宇宙機や小天体が「重力に取り込まれて速度を失い星に墜落する」ことを意味しています。上手く方向を変えるのは大人でも結構難しくて、進入角の設定がとても難しいミッションであることが判ります。
そして「スイングバイで宇宙機の速度が変わる」と言われるけど、実は大して速くなってません。実際、静止した重力場で目に見えるような速度変化はないんです。
しかし過去の探査機カッシーニの航行データによると、スイングバイによって激しく探査機の速度が変わってることが見て取れます。
加速スイングバイ
なぜ実際のスイングバイで探査機の速度が変わるかというと、引っ張る天体が公転してるからです。
最初に天体に近づいて探査機はぐーっと速度を上げた後、ハンマー投げのように再び天体から離れていきます。このとき、天体の方はもう元の場所から動いているので、引き戻す重力が最初よりちょっと弱いんです。
この差分を使うと速度を上げたり下げたりすることが出来ます。
【2015/12/04:追記】「玉突き衝突」と表現する人達がいることを知ったので備忘にメモ。確かに接触してないだけで仕組みは同じです。機体にエネルギーを渡したぶん、天体もちょっとだけ遅くなります。質量が違うから天体側はほとんど見た目が変わらないのですが。
減速スイングバイ
速度を上げる加速スイングバイが有名ですが、減速も可能です。
これは加速スイングバイとは逆に、進路を変えた後でも天体の近くで引っ張って貰うようなポジションを狙います。
いずれにせよ計算が狂うと全然違う方に飛んでいったり、地球に墜落しちゃうことになるので事前の調整が極めて慎重に行われます。
もし減速しすぎて第二宇宙速度より落ちてしまうと周回衛星になってしまいますし、さらに第一宇宙速度以下になると地上に落っこちてしまいます。このモデルを模したのが科学技術館で見た以下の貯金箱。
次々お金が飲まれてく!科学技術館の「くるくるコイン」がスゴイ
探査衛星と静止衛星は打ち上げタイミングのシビアさが違う
そういえば、つい先日(2015/11/25)H2Aロケットを打ち上げる際に打ち上げ時刻が少し遅れるトラブルがありました。警戒海域に船舶が進入してしまったのが原因です。
地球の周りをぐるぐる回る衛星は、多少のトラブルがあっても正しい軌道に打ち上げれば良いのでリカバーが効きやすいのですね。その場で再調整して数十分後に打ち上げていました。
一方、他の惑星との位置関係を織り込み済みで飛ばす探査衛星の場合は、打ち上げ日のタイミングがとてもシビアなようです。
スイングバイやフライバイに関する技術ノート
【2015/12/04: 本章追記】公開後にご連絡頂いて判ったことなどいろいろ。
初代はやぶさ時代のWikipedia
引用した加速・減速スイングバイのGIFアニメを作ったわいたんべ先生からTwitterでリプ頂きました。
おお、なつかしい。これも昔作ったアニメGIF。
https://twitter.com/y_tambe/status/672394756136169473
えっ!!(⊙Д⊙)
(この図も わいんたべ先生の作画だったのか…。微生物学がご専門なのに守備範囲が広すぎやで…。)
これ確か、当時ウィキペディアのスイングバイの記事の説明が間違っているというツッコミが野尻抱介センセのところの掲示板で入って、それで修正しようという人達が出てきたときに作ったものだった思い出が。
https://twitter.com/y_tambe/status/672407281892327425
(⊙Д⊙){へぇぇぇぇ。(※注:「当時」とは、初代はやぶさ時代のこと。)
該当スレを探してみました。
野尻抱介 2004年12月26日(日)22時29分27秒
>Wikipediaのスイングバイ項
どこをとってもシュールな味わいに満ちてますねー。
恒星も固有運動していればスイングバイできますが、「重力さえあれば」という文脈だと、やっぱり奇妙な味わいです。
常々Wikipediaを鵜呑みにしちゃだめだとは思っていましたが、こうやって誤りが指摘され、訂正されていくことも織り込み済みなんでしょう。あとは自分が手を貸すかどうかの問題ですね。
野尻ボード
以前のWikipediaは「天体と宇宙機があれば(静止重力場でも)加減速出来る」という記述内容だったんですね。確かに私もこの頃の記述を読んで「うーむ?」って思ってたかも知れない。
加減速が起きるためには重力場と宇宙機のほかに太陽(重力場を司る恒星)が必要、じゃないとただのジェットコースターになっちゃうという意味です。
(ジェットコースターは位置エネルギーと運動エネルギーの交換で動いています。重力に対して同じ高さまで引き上げれば最終的な速さは初速と変わりません。)
航空工学用語としての「失速」
あと、はまぎん科学館の展示解説文のところで『失速』という表現を使ってたのを小飼弾さんにご指摘頂いて直しました。
重力に取り込まれて ×失速して → ○速度を失い 星に墜落する
「重力に取り込まれて」はとにかく、空気(関係)ないのに「失速して」で少しもにょった
https://twitter.com/dankogai/status/672419934446596097
模型では摩擦なのに、と言う意味でしょうか?確かに「失速」を使うかどうかは一瞬悩みましたが、実際の天体で周回までいけば多かれ少なかれ大気を考えて良いと思ったのでそのまま使いました。
https://twitter.com/02320_ochi/status/672427048548220928
元来航空用語で宇宙機では起こりえないというのが一つ、失速という非線形現象が実際の宇宙機の動きにはそぐわないのが一つ。単純に「速度を失う」意なら違和感ないのだけど。個体の「成長」を「進化」と言われると読み進む気が「失速」するのとちょっと似て
https://twitter.com/dankogai/status/672430159945793538
…ん?(ಠωಠ)
「航空用語」?
「失速という非線形現象」?
私は「重力場だからといって大気は保証されない」という意味で使うかどうか迷ったんですが、もしかして根本的に私の認識がおかしいのかな?
そこで早速ぐぐったところ、確かに航空軍事用語の解説ページがずらーっと表示されましたよね…。:;(∩´﹏`∩);:
三省堂『大辞林 第三版』 / しっ そく 【失速】( 名 )
試しに普通の辞書で引いても「失速」の第一義は航空用語でした。ちなみに「大辞泉」でも航空用語が最初にくるのを確認。
うわ、確かにこの記述だと「次第に落ちてくる」宇宙機には使えません。今度から気をつけます。勉強になりました!><
はやぶさ2のスイングバイ
2014/12/03に地球を旅立った小惑星探査機「はやぶさ2」が、丸一年かけて地球の近くに戻って来ました。
ISSなどの衛星に比べるとずっと速い秒速30.3kmほどで航行してます。…にもかかわらず、はやぶさ2の位置調整は予定されていた4回を使い切ることなく、わずか2回で規定の軌道にあわせたのだそうです。
今回のミッションが本当に成功したかどうかは数日後の解析結果によるとのこと。スイングバイが成功すれば速度が5%ほどアップして秒速は31.9Kmへ。小惑星「リュウグウ」へまた一歩近づくことになります。
最接近時の予想等級は11等級程度。当地は曇りだし、市街地観測のアマチュア天文ファンはまず確認出来ない輝度なので、私は専門家の報告を待つ予定。成果が楽しみですね。(´ω`*)
【 更新履歴等 】
2015/12/03 初稿発表
2015/12/04 「技術ノート」追記 スイングバイに統一しました
(最初に「スウィングバイ」で覚えたので慌てて書くと間違えるマンです。)
2015/12/05 深夜にサーバ障害ありました。><
コメントをどうぞ(´ω`*)