近くの学校で「お米に関する生涯学習講座」ってのをやってたので行ってきました。品種による食味の違いなど、資料も豊富でなかなか良かったです。
ただ、精米に関して「ガラス瓶に玄米入れて棒で突く瓶搗き精米」を「昔ながらの精米方法」として紹介してたのが気になりました。うーん、それってちょっとどうなのかな。事実として存在したとしても、古来普遍の手法みたいに扱うのは無理があります。
瓶搗き精米(びんづきせいまい)とは
酒瓶などに玄米を入れて棒で突くと、摩擦によって表面のぬかがこそげて精米されます。機械を使わず手近な道具が使えるので、家庭向けの小規模な精米手法として知られてます。
しかし、次のようなキャッチフレーズで紹介されることが少なくありません。
一升瓶精米が広まった経緯
そもそも、この瓶搗き精米はどのような経緯で伝わったのでしょうか。よく引き合いに出されるのは「はだしのゲン」です。作中で配給の玄米を瓶搗き精米していました。
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私も瓶搗き精米の経験があります。小学生のころ夏休みの自由研究でバケツ稲を作ったとき、お茶碗一杯分ほどの米で瓶搗き精米やりました。
しかしこれ、やってみれば判りますけど不毛というほかにないレベルで時間を浪費します。「子供の働きも頭数に入れた時代、こんな単純労働に半人前の労働力を積極的に突っ込むかなぁ?」って思いながらやってました。
動力式精米器は明治時代には既にあった
実際、動力式精米器は明治時代に存在してるんです。
日本初の動力式精米器は1896年(明治29年)、はだしのゲンの舞台でもある広島県で生まれました。開発者の佐竹利市氏と言えば、後の食品加工機メーカー サタケの創業者です。
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その他の大型精米器と言えば水車式の精米器がありましたし、もっと原始的な精米道具としては臼と杵が使われてました。
籾摺機・精米器 | 農研機構
水車以上の精米能力が必要とされたのは、酒米を研ぐのに食用米以上の精米歩合が求められたからです。灘の桜正宗が研ぎに研いだ酒米を仕込んで名を馳せたのが150年も前の話ですね。
吟醸造りと品評会の歴史から – 科学技術振興機構(PDF)
ジリ貧の戦時中より戦前の方が贅沢だった例はいくらでもあります。原爆ドームだってモダンな設計ですけど、建ったの1915年(大正4年)ですから。
ガラス瓶が実用になったのも大正以降
逆に、ガラス瓶の歴史は割と浅いです。
「近代日本のデザイン文化史 1868‐1926」によると一升瓶の登場は1911年(明治44年)以降と言われてます。
さらに日本ガラスびん協会の資料によれば一升瓶の量産が開始されたのは1924年。つまり一升瓶が本格的に普及したのは昭和に入って以降です。
瓶搗き精米が行われていたのは戦時中のごく一時期
これらの事実より、瓶搗き精米は以下の条件を満たす状況で行われてたと考えられます。
昭和中期には機械精米が一般化してるわけですから、特殊解を求めなければ瓶搗き精米は戦時下の都市部でスポット的に開発された生活の知恵と見るのが自然です。
実際に機能した歴史はあるのかも知れないけど、戦時中の短い期間に苦肉の策として行われてた代用行為を「昔ながらの」という枕詞で紹介するのは語弊が大きすぎるでしょう。あくまで戦時中の一時期の話として範囲を限定すべきです。
なんでこんなゴチャゴチャ言ってるかというと、戦時中の悲惨な話に傾倒するあまり「戦前に高い技術があった」って言っても信じてくれない人がいるんです。実際、会場に来てた70歳くらいの女性も先史時代から脈々と受け継いだ技術みたいな認識をお持ちでした。
なんかもう、農業技術のミッシングリンクみたいになってますね。
おわりに
瓶搗き精米コーナーに配置されてたのは運営側の講師じゃなくてPTAのお手伝いっぽい30代くらいの女性でした。与えられた役割に自分なりの情報を盛り込んで来場者に興味を持たせようという親切心なのだと思います。そして多分こういう事例は枚挙にいとまがない。
だからこそ運営は「戦時中のやむにやまれぬ代用行為」だった点をPTAスタッフにも敷衍すべきだったんじゃないかと思いました。実際、お手伝いスタッフへに対してどういう指導をしていたのか確認しそびれたのが悔やまれます。
会場で瓶をつつきながら「なかなか糠って取れないもんだね」っていろんな人が言い合ってたけど、瓶搗き精米の仕組み上この分量じゃ効率悪いだけでどうにもなりません。この辺も指導力に疑問を持った部分ですね。
とは言え技術の進歩に感謝するためにも一度くらい瓶搗き精米やってみるのをオススメします。そしてどんなに物資がない時代でも、ちょっとした工夫で作業効率が向上することは知っておいて損はないと思いますよ。
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瓶搗き精米における文明の利器。作業効率が違います。 |
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